うそつきの教科書
僕はシマと向かい合わせになって椅子に腰を下ろした。僕が出したのは一番見慣れている、今まで生活していた寮の部屋にあった勉強机とイス。
「さて、何から話しましょうか」
と、シマはテーブルに両肘をついて、手のひらを突き合わせた。親子とはこういうものなのか。昨日の夜の施設長がシマと重なって背筋が冷たくなる。
「気になりますか?父上のことが」
「施設長の事というか、全体的にわからないんですけど。魔法は使えないんですけど、勉強は得意なので教えていただけますか?第2の世界って何なんです?」
シマはそのままの格好で微笑み、話し始めた。
「人間は、宇宙のどこかにこの惑星が浮かんでいると思っていますね」
僕は頷く。
「そして、人間でも魔力があるものはこの惑星のどこかに、第3の世界があると思っている」
「第3の世界が、人間界と一緒に惑星上のどこかに存在する派と、この惑星とは違う全く別の異空間に存在する派で派閥が分かれているとも聞きました」
「魔法使いになる者の教科書上ではそうですね。でも、根本的にそれは間違っているのですよ」
僕は首をかしげる。
「神様が住む世界と、神様がモノを作って遊ぶ世界。それと、うまくできたモノを保存する世界」
「保存する世界?」
「えぇ。第1の世界が神様が住む世界。うまくできたモノを保存する世界が第2の世界。第3の世界は、神様がモノを作って遊ぶ世界です」
「いまいちイメージがわきません」
「そうですね。実際、神様なんて本当にいるのかというお話ですがね。いるんですよ。何人も」
「何人も?」
「えぇ。それぞれ自分が住む世界と遊ぶ世界、お気に入りを保存する世界を持っておられます。神様のお楽しみは、それぞれ自分の作り上げたモノを見せあう事だそうで」
「ずいぶんヒマなんですね」
そうですね。と、シマは体勢を崩して話を続ける。
「それで私たちは、ヒムカという神のもとに作り上げられたモノの一つにすぎません」
「ヒムカ?ですか?」
「えぇ。ヒムカは神様の中でもずば抜けた創造力を持っておられます。人間が住んでいる惑星も神の間では有名な作品の一つです」
「作品……ですか?」
「そうです。この惑星の事を人間はアースと呼んでいますが、神々の間では『青い宝石』と呼ばれ、ヒムカの持つ第2の世界に保存されています」
僕は意味がよくわからなかった。
「でも、この惑星アースは宇宙に浮かんでいる星の一つじゃないですか。どうゆう事です?」
「ですから、今まで勉強してきたことは忘れなさいとレリオンに言われたでしょう。私たちが宇宙と呼んでいる所も、すべてヒムカが作り出したものです」
「はぁ」
そう言うしかできない。
「まだ飲みこめていませんね。今までアランくんが勉強してきた人間が住むアースという惑星は、『ヒムカ』という神様の代表作品なのです。アースという惑星では人間をはじめ、様々な生物が生息していますね。それを含めて、一つの作品で、第2の世界にあります」
「では、僕たちが住んでいるこの世界は?」
「ここは第3の世界。神様がモノを作って遊ぶ世界です。子供のおもちゃ箱のようなものだというとわかりやすいでしょうか。そのおもちゃ箱の中でお気に入りが出てきたら、永久保存できる第2の世界へと移されるのです。ですのでここ、第3の世界はアースが保存されている第2の世界とは次元が違います。それにより行き来も普通の生き物にはできません」
「なるほど。次元が違うんですねぇ。それだと教科書に載っていたことも間違いではないんじゃないですか?」
「異空間説ですね。まぁ、それでもいいでしょう。神様は生き物を創造すると第3の世界に解き放ち、その生きるさまを見ていらっしゃるのです」
「じゃあ、どうしてそんなことがわかるんですか?誰か神様と知り合いにでも?」
ふふっと、シマが笑う。
「そうですねぇ。この魔力の強い世界、ヘブンにはもともと人間ではない生物がジュエルを守って生活をしていました。彼らが守っていた古い本にこの神様の世界のことが書かれていたのですよ。神様はまず、そうした生物と様々な魔力のあるジュエルを作り、どのように生物が生きていくのかを見て楽しんでいらしたのでしょうね。
そうして上手くできて、気に入った物だけを第2の世界にあるアースに移動させ、そこで種を繁栄して美しい星を作っていったようです。ですので父は、そのアースに送られたという事になりますね」
「だったら、その本がデタラメかもしれないじゃないですか」
「そうですね。こんな悪い趣味の宗教のような話はすぐに信じられません。それでも、このセンチュリーで働くには様々な情報が必要なのです」
そう言うと、シマはテーブルの上に古い本を出した。とても大きくて、古い。
「君が選ばれた者ならばこのページをめくる事が出来るでしょう。第3の世界がアランくんを必要としている証拠です」
僕は固まったまま本の表紙を見つめる。元々は硬い紙でできた表紙だったのだろう。
今は色あせて、角が毛羽立ってしまっている。
どうしてこんなに試されるのだろう。今朝の扉もそうだ。なんだか胸がざわつく。悪い感じじゃないけど、踏み込みたくない。
「今日はこれを読んで終わりにしましょう」
シマの声が僕を我に返した。
「これを読んで、って。こんなデカくて分厚い本、何時間かかると思ってるんですか」
渋々と、僕は本に手を伸ばした。古い表紙は簡単に開き、茶色いページが広がる。目次などはなく、汚い字で殴り書きをした日記のようだった。
非日常の物語。0 サトウアイ @iaadonust
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。非日常の物語。0の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます