見覚えのある教育係


「そういえば、施設長とは随分長い付き合いなんですか?」


「あの種族は魔力の高さと特殊な能力で昔はよくいる種族だったんじゃがのぉ。人間の魔法使いが入ってきてからはいろいろな手を使われて、今はこの世界に数匹しかおらんじゃろ」


「えーと、レリオンさんはそんな昔から生きていらっしゃったんですね」


あまりかみ合っていない会話をしながら、階段を登ってゆく。


「セバスはいろいろな生物の血が混じっておる。神様もさぞ気になっていることだろう」


「神様って……そういえば第2の世界とか言ってましたけど、何なんです?」


「そうじゃのう。まずはそこから学ぶようになるじゃろう」


 レリオンはそう言うと残りの階段を上って、僕の勉強部屋という部屋に着くまで口を開かなかった。


 螺旋階段を登りきると、そこは広いホールのようになっていて、正面には大きなステンドグラスが。色とりどりのガラスから眩しい光が差していた。吹き抜けになっている廊下にはずらりと扉が並び、それぞれに似たような魔法陣が刻印されてる。


 僕らは廊下を進み、一番端にあるまだ魔法陣の描かれていない扉の前でレリオンの足が止まった。



「さ、ついた。ここがお前の勉強部屋になる。この扉をさっきと同じように通りぬけるがいい」


「どうなるんです?これも第3の世界の扉ですか?」


「いいや、これはただの結界の扉じゃ。お前専用の通行口のようなものじゃ。わしもあとから入ってゆくから待っていなさい」


 僕はよくわからなかったが、真っ白な扉めがけて進んだ。


 ブワン


 そんな感じがして、一瞬で僕は扉を抜けた。


 第3の扉の時とは全く違い、目の前が暗くなることもない。扉の先は、ただ何もない白い部屋だった。天上も白、床も壁も真っ白。


「ひとまずお前の部屋ができたのう」


 後ろからレリオンの声がした。振り向くと、そこにはさっき通ってきたはずの扉があった。

 が、それは蜃気楼のように空間がモヤモヤと歪み、白かったはずの扉が透明になっている。歪んだ空間の先には、さっきまでいた廊下とレリオンがぼんやりと見えていた。


「これは?」


「初めて見たじゃろうに。これがお前さんのオーラ。無色のオーラじゃ」


 これが、オーラ?


「扉を閉めるから待っていなさい」


 レリオンがそう言うと、透明だった扉の部分が一瞬にして白に戻る。すると、すぐに銀色の魔法陣が浮かび上がった。


 そこからレリオンと、もう一人。見たことのない人物が入ってきた。背がすらりと高く、歳はギンガさんと同じくらいだろうか。金色の髪にメガネで、いかにも頭が良さそうな見た目だ。


「とりあえず、お前さんのオーラで部屋も作れた。この魔法陣の扉を自由に扱えるようになれば、第3の世界での移動も楽になるだろう」


 はぁ


 と、一応僕は相づちをうつ。意味はよくわからないけど。


「まずは無事にこの部屋に入る事ができましたね。おめでとうございます。父が聞いたらきっと喜ぶでしょうね」


「父って……あ?」


 金髪メガネの口元からは見覚えのあるキバが。背が高くて気づかなかったけど、この笑い方はあいつにそっくりだ。


「施設長?」


 にっこりと微笑みながら、驚いた僕の言葉に金髪メガネは答えた。


「はい。私はセバスチャンの息子、シマ・ジャックブレイカーと申します。アランくんの教育係となりましたのでよろしくお願いしますね」


 ええと。確か施設長は息子は国の機関でなんとかって……じゃぁ、これは仮の姿なのかな?


「そうですね。あの姿形ではいろいろと面倒ですので、今は人間の姿となっております。私は第3の世界の諜報機関、センチュリーで働くものです。ギンガくんも私の部下にあたります」


「諜報機関?」


 なんだかまたわからないことが増えた。この世界は一体どうなっている?


「まぁまぁ」


 レリオンが口を開いた。


「今日からしばらくは歴史の勉強をすることになる。思う存分、シマに質問するといいじゃろう」


 それじゃあ頼んだぞと言うと、レリオンは先ほど出来上がった魔法陣のドアに消えていった。シマは深々と頭を下げてそれを見送る。僕はぽかんと口を開けてその場に立ち尽くしていた。



「では、まず部屋を作りましょう」


「はぁ」


 くるりと踵を返し、シマは話し始めた。


「アランくんの部屋ですから、君の魔力しだいで好きなだけカスタムできますよ」


「でも、僕はオーラがはっきりしなくて上手く魔法が使えないんですよ」


「ですから、今の君の力を知るにはちょうどいいじゃないですか。学院でしたことを思い出して、まずはテーブルとイスでも出しましょうか」


 にっと笑うと、口の端から牙がのぞく。スタスタとシマは白い空間を歩き、この辺にお願いしますと手を差し出した。


 いやー、いきなり苦手なやつか。物の具現化。基本的に、今まで目にしたものしか出すことはできない。頭の中でそれを忠実に再現して力を込める。


 上手い人、っていうか、普通の魔法使いは音もなく、あたかも今までそこに物があったかのように具現化させる。

 それが、僕は…効果音はいつも『ボン』だ。音と共にモヤでおおわれた対象物が出てきてしばらく形がはっきりしない。今回もそうだった。


 シマは僕が出したテーブルの周りのモヤモヤを、着ていたローブをひるがえして払っている。


「すみません。こうなっちゃうんですよねぇ」


「自分の魔力が使いやすいこの部屋でも……この有様ですか」


 シマは僕が出したテーブルに手をついて言った。


「この部屋はアランくんのオーラをもとにして出来た部屋なのですよ。この空間内でならいつもより力を扱いやすいのですがねぇ。イスはどこにいきました?」


「イスは……シマさんの後ろに」


「随分離れた位置に出しましたね。それではこれと同じイスをもう一つ。ここに出してください」


 シマは数メートル先に出されたイスをテーブルの脇に移動させながら言った。


「できないと思わずに。ここはではどんな事もできる、全て自分の思い通りになると思いなさい」


 僕は力を込める。


『ボン』


 間抜けな音は相変わらずしたが、今回は割と成功したほうだ。位置も正確。色と形も同じだ。


「まぁいいでしょう。とりあえず座りましょうか」


シマは片手をイスの前に差し出し、僕ににっこりと笑いかけた。


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