習作掌編小説まとめ・SF

天海彗星

ロボットの料理人

 むかしむかしあるところに、工場で働くロボットがおりました。ロボットは工場のベルトコンベアを流れてくる商品の点検を仕事にしていました。工場は主に食品を扱うものです。ロボットは、ある時はお菓子の箱に中身が定数分揃っているかを確認し、ある時はラーメンの袋に危険なものが入っていないかを調べ、ある時は冷凍食品のハンバーグの中身がきちんと調理されているかどうかを証明しました。ロボットは今の仕事にも充分満足していたし、会社からも評価されていましたが、何かが足りないという気持ちを抱えていました。

 さて、ある時、ロボットは、休日に町に出ました。といっても、ロボットですから、買い物なんて、活動に充分な燃料やら、メンテナンスやらで、一日のだいたいが終わってしまいます。ただ、この日だけは違いました。ロボットはAIの向上のために、普段とは違うことを体験しようと考えました。私達人間で言うなれば、気分転換に近いでしょう。ロボットはショッピングモールを散策し、帰り際にレストラン街に立ち寄りました。そこで、和食、洋食、中華料理と、見たことも無いような美しい料理の数々に仰天しました。

 ロボットは工場に戻っても、あの素晴らしい料理を食べて喜ぶお客様達の満面の笑顔がどうしても忘れられませんでした。人の幸せのために作られたロボットにとって、工場で働く以上に喜んでもらえる行いがあると知ったレストラン街の出来事は、それは衝撃的なものだったのです。ロボットは工場で指示通りに食品を作る手伝いをするだけでは飽き足らず、自分でも料理を作って、人に喜んでもらえるという、料理人になりたい、と考えるようになりました。早速、ロボットは就労後や休日を使って、料理の特訓を始めました。

 ところが、ロボットには一つ問題点がありました。ロボットには「味覚」が無かったのです。故に、何が美味しいかよくわからず、胴料理を作れば正解なのかわからなくて、悩む日々が続きました。美味しいものを作るレシピ通りに動くことは出来ても、それが本当に美味しいかどうかはわからないのです。たとえ人に頼ろうと思っても、人の味覚はそれぞれが違うので、特定の人間に頼る訳にもいきません。ロボットは料理人を目指すことを諦めるべきか悩みながら、工場での仕事に勤しみました。その時、ロボットは良い考えを思いつきました。

 ロボットは自分の特技、「工場での商品の点検」を活かせば、美味しい料理が作れるのではないか、と考えたのです。美味しい料理は人それぞれですが、工場で作られるものは大衆に向けて作られているため、外れが少ない作りです。ロボットはこれを参考に、「大衆がどんな味や触感や栄養を好む傾向にあるか」を調査し、それに適した料理の成分を分析しました。そうしてロボットは統計をもとにした成分配合で料理を作ることで、確実にウケる料理を作れるようになりました。やがてロボットは料理店を開き、大繁盛させたそうです。

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