これは夢で、あれも夢で、でもこれは夢じゃなく、あれは夢じゃないんです。
ちとせ 蓮
あなたはどう思いますか?
「あの子、両親いないんだって。」
「全然平気ってずっと言ってるみたいだけど、逆に、、ね?」
多感な中学生は他人事情や噂話に、これでもかというほど興味を示す。
「かわいそうっていう目を向けるからでしょ、皆が」
「そんなに向けてる?まあ、かわいそうだけどね」
「
「おーう!」
こいつ、
幼馴染って言っても、まあ昔から知り合いってだけで。いつもベタベタつるんでいるわけじゃない。家が近いから一緒に帰るってだけで、幼馴染だからってわけでもないし、同情でもない。
こいつの両親が事故で亡くなった時、俺らはまだ4歳。
「一樹君のパパとママはね、お星さまになったんだよ」この言葉がかえってむかつくと感じることが出来る年齢だった。いや、俺が冴えてただけか?
「あー!忘れ物した!やべ、先帰ってて!」
こいつは、案の定きょとんとした顔で夜空を見上げていた。
「死んじゃったってことだよ」って思わず口を開いた俺に、大人たちは焦ってたっけ。
無神経?いや、本当のことを言っただけだ。
こいつの親がいなくなったからって、扱いを変える理由にはならないし。まあ、多少苦労する場面もあるだろうけど、今まで通り生きていけばいいんじゃん?こういう考えの下、俺は発言に移したんだ。
頑張ってこう考えることにしたんじゃない。と思う。
今までより気にかけたり、やたら心配したりする、その行為が逆にこいつを苦しめると思ったんだ。
「はー?またかよ。じゃあな」
「ごめんってー。神木先生の宿題プリント明日までなんだよー」
”鬼神木”と呼ばれるほどだからな。すげー焦って走っていった。噂では、生徒に暴力ふるってるとか。顔も怖いし、ちょっと喋り声が聞こえただけですーぐ怒るし。私生活で楽しいことなんてないんだろうなー。そんな印象。
気づいてるよ。今度は背中にできた
こいつは祖父母ももういなかったから、とある家族に引き取られたんだ。家に遊びに行く趣味もないし、会ったことないけど。
正確には「会えない」かな。授業参観にも来ないし、家に旅行土産を持って行った時も不在みたいだったし。こいつ
血が繋がってなくても、もう自分の子供だろ?痣作らせるくらいなら、その時間睡眠に使えよ。忙しいなら。
こいつは本気で鬼神木を恐れているから、鬼神木に目を付けられることはない。俺もその一人だ。関わりたくないし。
両親がいないってことを噂されることぐらいで、いじめはないし。完全なる家庭内暴力だろ。
当然俺はこいつに言った。「家族に殴られてるのか?」と。
「大丈夫だから」
干渉するなということだろうか。問い詰めなかった。勝手なことはしてはいけない、そう思ったんだ。
こいつは強いんだ。きっと。俺が思っているよりも。
家に帰ると母さんが夕飯の支度をしていた。すぐに出来るからここにいろと言われ、テレビをつけてソファーに座る。スーツを着た評論家が、記憶を操作すれば理想の人間を作れるとか何とか言っている。
「冷めないうちにどうぞ。あ、手洗った?」
本当にすぐだった。洗面所に早足で向かう。すごくお腹が空いた。
「今日は筑前煮よ~」
ハンバーグを出すときのようなトーン。我が家は今日も平和だ。
いつもと変わらない毎日。明日も今日も同じ。風呂に入ってベッドに寝転がって気づいたら朝。
刺激がないように思われるけど、これが一番落ち着くんだ。俺には。
今頃あいつは宿題を必死でやってますように。願って目を閉じた。
—
「先生っ、、目を覚ましました!」
視界に映るのは看護師がばたばたと走っていく姿と、、、
「、、、神木、、先生?」
俺も先生もなんで
「先生、とはなんだ?」
怪訝そうな顔でそう言う神木先生の後ろから、少々年老いた医者と先ほどの看護師が駆け込んできた。
「
医者は急に何の話を朗読し始めたんだ?誰で、何のことだ?
「すぐには頭が回らないと思うが、時間が経てば記憶も戻るでしょう」
俺を一瞥し、神木先生にそう告げる。
「もうしばらく経過観察をします。そばにいてあげてください。
お父さん」
神木先生は、分かりましたと頭を下げる。
「先生、俺思考がついていかないんだけど」
「すぐには無理だろう。今は落ち着いて状況を把握するんだ。俺は確かにお前の学校の教師だが、お前の父親でもある。お前の本当の両親は他界し、俺が引き取ったという形だ。」
は?なんだそれ。それじゃまるで、、、
「君は脳の病気で手術をして、今日まで4か月も眠っていたんだ。今はちょっとした記憶障害が発生しているようだ。混乱しているだろうが、少しずつ思い出していこう。」
なんだ?俺がおかしいのか?
「俺は、柊木廉っていう名前で両親もいる。さっきだって筑前煮を、、、」
窓から光が差す。
「意識がない間の夢でしょう。そう言った夢を見る方は多いんです。」
「違う!俺は14年間そう生きてきたんだ、、小さい頃の記憶だってある!親がいないなんて、、、、、そんな、、、、、」
看護師が俺をなだめる。なんなんだよ。
「とりあえず、今はゆっくり安静に。少しずつ、少しずつだ」
さっきから淡々と、この医者は。今、何を俺が言っても無駄だと気付いた。
きっとこれも夢だ。悪い、長い夢なんだ。抵抗をやめ、ぎゅっと目を閉じる。
明日検査をしましょう。そんな声が聞こえるが、これは夢。夢。
ふとした物音で目が覚める。
目から入る情報は、
さっきとほぼ同じ。
窓の外が暗くなっているのと、、、、、
「一樹、、、」
一樹がベッドのそばに腰かけていた。
「僕のこと覚えててくれててうれしいよ。」
まだ夢の中なのか。ただ、一樹が一樹であることは変わらない、のか?
一樹は俺を見てなんだか悲しそうに笑う。
「あ、これ。病院食まずそうだし良かったら食ってよ。内緒な?
僕のお母さんの得意料理なんだ」
これは夢で、あれも夢で、でもこれは夢じゃなく、あれは夢じゃないんです。 ちとせ 蓮 @lotus_eternally
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