最終話

あの日から5年・・・

俺と花音の交際は順調に続き、この日を迎えた。


些細な喧嘩は時々したけれどいつも俺の完敗に終わる!

俺は花音の実家である孝さんの工場で懸命に学び、働き、現在は工場も軌道に乗り以前よりは随分、拡張し大きくなった。


花音は高校を卒業すると大学に進学し無事に今年の春をもって終了、暗黙の了解であるが如く準備は着々と整い今日の結婚式を迎えたのである。


同じ家に同居して5年も経つのだが孝さんにとって今日は特別な日らしく早朝から落ち着かず俺に対しても何だか他人行儀でよそよそしい・・・やはり花嫁の父親であった!

樹里さんは嬉しいのか?寂しいのか?どちらとも判断が出来ない様子で涙ぐむ回数が半端な数では無かった。


結婚すると言っても式を挙げるだけで生活はこれまでと何も変わらなくて俺の名字が如月に変わるぐらいしか変化はない!

「琢磨、お前が鈍いせいで俺はどれだけ心配だったかわかるか!?」

「ああっでもお前と花音が一緒になってくれて俺は本当に嬉しいんだよ! 良かった・・・本当に良かったぁ」

孝さんのこの台詞を聴くのは今朝からもう何十回目だろう?


「ピンポーン!」 玄関の呼び鈴が鳴った!

結婚式を挙げる教会へと送迎する車がすでに到着したのだろう?

孝さんは俺の手を握り締めかなり慌てた様子で「どうする!?」 と突然、聞いて来た! どうするも何も行かないでどうするんですか?ってこっちが聞きたいぐらいだ。


俺は孝さんの手を引きながら玄関へと歩き靴を履かせる!

それはまるで園児を引率している先生みたいな心境であった。


そこに玄関の扉が開き涼介さんが顔を覗かせ

「やっぱり! 未来が心配するから来てみれば孝さん、大丈夫ですか?」 と声を掛

けながら中に入って来ると俺と2人で両脇を支えながら車へと乗り込ませた!

まるで刑事に連行される犯人である。


こうして何とか無事に式場へと到着した俺達は準備に取り掛かり、やがて祭壇で待つ俺の前の扉が左右に開き孝さんに伴われた花音が姿を現した!

これまでの長き道のりを確かめるかのように歩く彼女の姿はとても美しく、俺は思わず見とれてしまう。


誓いのキスをした俺と花音は皆んなからの祝福を受けて扉から姿を見せると花音は後ろ向きでブーケを投げた!

花束は緩やかな円を描きながらとある女性の方へ向かって落ちて行くはずだった・・・だが偶然過ぎる突風が吹く。


ブーケは一番、後ろで見ていた少女の胸に吸い寄せられるように届く!

少女は花束を嬉しそうに抱くとピョンピョン跳ねながらクルクルと廻り満面の笑みである。


『そんな所まで風で飛んでく訳は無いだろ!?』

『またやりやがったなぁ? あの小悪魔めが!』

俺が心の中でそう呟くと

『次は私の番なんだからね! 鈍感なオ・ジ・サ・ン!』

未希はテレパシーでそう言うと小生意気に舌を出してウインクして見せた。


いつもそうなのだ! あの娘はまだ7歳なのに小さい子供の頃から俺に生意気なテレパシーを送っては楽しんでいるのだ!

あんな奴が偉大なる魔法使いにでも本当になってしまったら世界は滅びかねん!?

しかも周囲の者は誰もあいつの本性に気づいていないばかりか、花音などは可愛がっているのだ。


未希の隣りでベンチに腰掛けていた魔法使いの老婆は立ち上がると深くお辞儀をしながら『どうも、申し訳ありませんですじゃ』と丁寧に謝って来るのである!


俺は怒りのやり場がないまま花音の手を引いて階段をゆっくりと下りながら集まった皆んなの祝福を受けた。


未希がこれ以上、悪さをしないように俺は山神に心から祈った!


「完」

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「俺の名前はココア」 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu

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