二日目:第十一話

会議の時間になった。時間通り3人は来た。

「なんかお久しぶりだね。大丈夫だった?」

十希が尋ねると一楓はふぅとため息をついて答えた。

「ばれてはいないと思う。というか、あのグダグダな感じ、好かん。」

みな一様に苦笑いをした。

「僕の情報は?」

「私の面接の担当がAと言う者らしいが、聞かれたよ。どこかであった事があるらしいが私は覚えていなかった。」

「私達のところにも良く顔を出すよね。しかも今朝聞かれたのもその人たちだったし。」

「これからどうするんだ?」

「私たちが悪目立ちしようと思う。私たちの行動でリーダーの存在を消すことも可能です。特に千乃には頑張ってもらって世界を変えてもらうから。」

「えぇ…。」

めんどくさそうに千乃がため息をついた。

「魔法使いの火力は戦士を凌駕するの。特にボス戦みたいな多人数での戦いはすごく有効だよ。世界を変えるっていうのは前衛職に偏っている考えを変えるってことね。」

「そういうことか。」

もう少し攻略的になってもらう事を考えているのだろう。

「じゃあそのクランで気を付けなければいけない人物は?」

「今の団長は人を引き寄せるカリスマ性は持っているでしょう。けれどそれよりもCと呼ばれる人物。かなりの切れ者ね。彼もどちらかというとまだ正体を隠している印象を受けたわ。後は不気味な人がHと呼ばれてる人。強さとかそういうのとは別物でね。何を考えているのかわからない感じ。」

「あまりむちゃしないでくれよ。全体的に正体がばれるのはよくないはずだから。」

「大丈夫。そういう事でしばらくはクランの中で活動します。」

そういって3人はすぐに戻っていった。

「チャットができないのも不便だな。でも百音以外に感知スキルなんて育ててるプレイヤーいるの?」

「今はいないと思うけど、今後クランが沢山出来始めたらどんどん増えていくと思う。りーだーもちゃんと上げとくのよ!」


「今日はどうするの?ボス行くの?」

話が終わったのを見越して十希が質問をした。

「出来れば行きたいの。鍵もある程度集まったし何度か繰り返して素材を集めてもいいかなって思っているよ。」

「ちょうどいい、百音はスキルポイント余ってる?」

「多少余ってるけど…何をさせようっていうの…!?」

「チャームなんて覚えてみないかい?敵を弱らすのはいざって時に必ず役に立つよ!」

「確かにスキルポイント的にもう一つ活動に有効なスキルはほしかったけれど…。まさか私まで戦闘に参加させる気!?」

「戦闘までは頼まないよ。ただボス戦にもなるとそういう事も今後必要になってくるから!」

「あいにく万智というスーパープリーストを手元から失ってしまったから他の手を打たないと。」

自分の進度を進めるための至極自分勝手なお願いだった。

「しゃーない少しは協力しますよ。」

「じゃあ折角なので3人でボス攻略行きましょう。」


この世界のスキルはレベルアップで覚える単純なものではなかった。スキルを使う事や完璧に習得すると次のスキルを覚える。いくつかのスキルを覚えると派生するスキルもある。とにかく何度も使うことが大切だった。

バフやチャームも同じように繰り返し使うことが大切なのだが、すでに効果のある対象に重ね掛けしてもスキルを使ったことにはならなかった。バフに関しては自分にかけ、効果をキャンセルすれば何度もかけられる。実際十希は手際の良さでかなりスキルアップをしていた。逆にチャームになるとダウン系なので、プレイヤーにかけたとしても『キュア』というデバフ効果を打ち消すスキルを使わない限り、効果を失わない。そういう意味ではチャームのスキルアップは他に比べて難しかった。それでも歩き際にチャームをかけるなど百音も出来る限りの努力はしてくれていた。皆効率的に動き、効果のある事をやってのける。このチームがクランを立てればすぐに一党独裁の最強クランが出来上がってしまうのは明白だった。


ボスの部屋についた。巨人の部屋という事もあり、とても大きな建物だ。

「今までの傾向から行くとボスはマップにいるモンスターの数倍大きい。もしかしたら数百メートルもする大きいサイズのモンスターかもしれないから攻撃範囲には注意してくれ。」

とだけ伝えた。

しかし、言うだけ無駄のようだった。片方はどでかい盾を装備し、片方はハイドという透明になるスキルを使う。攻撃が来ても耐えることができるというアピールとそもそもターゲットされないといアピールだった。自分達で対策は用意できているのであった。

部屋に入った瞬間に敵は分かった。予想よりは小さかったがそれでもマップにいる巨人より二回りも大きかった。床が石で良かった。鍵を集める時のように砂嵐を起こされたらひとたまりもないからだ。バフをもらいチャームがかかるのが分かるとすぐにボスに張り付く。足下をうろうろされることで、攻撃は単調になる。足下にたかる虫のように機敏に動く。捉えられることなくスムーズに攻撃を繰り返すことができる。思った以上に「PS」スキルは強力だった。クリティカルのダメージがでかい事は最初から分かっていたが、そのダメージに補正分ダメージが上乗せされる。


一時間ほど戦い、HPが半分になる。するとボスの色が真っ赤に染まった。良くある怒りモードのようだ。ジャンプからの踏み付け攻撃。これは単純に避けるだけでは地響きが起り、立てなくなってしまうと直感がだが思った。

着地の瞬間を見計ってコチラもジャンプで攻撃を避ける。相手の動きから予測し、起こりうる最悪を想定して動いた。着地後からの手を使った攻撃にも対処できるよう目を離さなかった。あいにくそのような気の利いた攻撃は来なかったことで、すぐに攻撃に移れる。

戦っている最中に思い出すのは昔のゲームの事ばかりだった。少人数の仲間たちと共に困難な敵に挑戦し、いくつものボスを倒してきた。戦争になれば一目散に敵に突っ込み戦果を挙げてきた。周りには背中を預けられる味方。その傍らには万智の姿もある。あの時の楽しさや高揚感が再び戻ってくるような感じがした。

「ほのかならこの瞬間…」

我に返る頃にはボスは倒し終わっていた。

「後半すごい今まで以上にすごい攻撃だったけど、何かあったの?」

百音に聞かれた。

「いんや、昔を思い出していただけだよ。昔もこんな風に暴れたなって。」

笑顔で答えると、「それって・・・。」

言おうとする百音の口を十希がふさぐ。

「まぁまぁ過ぎた事よりこれからですよ。お待ちかねの報酬タイムです。」

そういえば最初にクリアするときはいつも一人だったが、パーティを組んでの攻略は初めてだった。この場合あの三つ目の報酬はどうなるのだろうか。」

素材、情報とあけていき、三つ目に手を付ける。

すると、パーティメンバー全員の目の前に報酬を決めて下さいとテロップが出た。

「パーティで攻略すると全員で決める事になるのか。」

「リーダー決めれば?特に困ってることは無いし。」

そういっても今すぐぱっと思い当たることは無かった。

「後々の為にとって置く事は出来るのか?」

そう聞くとアイテムのインベントリに一つ手紙のアイコンが付いた。

「思いついたらそこに記入してください。」

とNPCからチャットが来た。

「とにかく先を目指そう。」

二人に背中を押されて先へ進む。過去の栄光を思い出して立ち止まっているわけにはいかなかった。


6ステージは雪山だった。町の中は暖かかったが、一歩でもフィールドへ出ると凍てつく風が吹いていた。どうやら放置しているとダメージを受ける。

「ねえさん暖かい防具作ってくれ!。」

お願いをする頃にはすでに羽織るものを用意してくれていた。

「私も宿題を出します。氷のクリスタルというアイテムの有かを見つけてきてください。氷という事はこのステージにある公算が高いです。それをもらえればまた更に強い武器や防具が作れますよ!」

そういわれると黙ってはいられなかった。百音を連れてマップを探すことにした。

「私は帰っていいですかー?」

百音はつらそうにしていたが新武器と聞いたら足を止めることなどできなかった。

ステージを進めるとは若干違う新たな局面を迎えた。

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