【出張版】科学技術の雑ネタ

水乃流

はやぶさ2はUターンしない

 本稿は、KAC2020用として書いたもので、本家である『科学技術の雑ネタ』と重複する内容が含まれます。ご注意ください。


 JAXAが打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星「リュウグウ」の調査およびサンプル採取を終えて、2020年3月現在、地球へ向かって帰還の途についています。帰還予定は、2020年の年末です。

 小惑星からの帰還というと、Uしているイメージを持つかもしれません。しかし、はやぶさに限らず宇宙空間の移動でUターンする、つまり直線的に移動するこことは、エネルギーの無駄なのです。そもそも、地球は太陽の周りを回っている(移動している)わけですから、このエネルギーを利用しない手はありません。地球軌道を無視して真っ直ぐに飛ばすことは、地球の運動エネルギーを無駄に捨てることになるのです。


 地球も「リュウグウ」も太陽の周りを回っていますが、それぞれの軌道が異なります。太陽を中心にして考えると、地球から「リュウグウ」に行くためには、より高い(遠い)軌道に移動しなければなりません。こうしたとき、地球から地球の公転方向に向けて飛びだった飛翔体が「リュウグウ」に邂逅する地点を遠日点、あるいは近日点に設定した楕円軌道を飛行することが、もっとも少ないエネルギーで飛べる軌道になります。こうした軌道を「ホーマン軌道」あるいは「ホーマン遷移軌道」と言います。

 地球から火星に向かう場合も同様で、地球から公転方向に向けて飛び立った探査機は、加速しながら地球軌道を少しずつ逸れるようにして火星軌道まで移動(遷移)します。条件にもよりますが、ホーマン軌道で火星まで行くには、およそ二百六十日必要です。もっと所要時間を減らすには、より多くのエネルギーを消費して加速させ、遠日点(近日点)に達するよりも前に到達する軌道をとります。こうした軌道を「準ホーマン軌道」と呼びます。

 では、地球より内側の軌道上にある天体に行く場合はどうでしょう? たとえば地球から金星へ向かう場合、地球の公転方向とは反対方向に打ち上げます。太陽から見れば、加速ではなく減速させることになります。すると、徐々に太陽に向かって落ちるようにして、金星の軌道に向かって移動することになります。地球から見ると、どちらの方向に向かって打ち上げても加速しながら離れて行くように見えるので、すこしややこしいと思うかも知れません。ちなみに、地球から金星までホーマン軌道だと約百五十日ですね。


 「リュウグウ」から地球へ帰還する場合、地球は「リュウグウ」よりも太陽に近い、低い軌道を移動しているわけですから、「リュウグウ」が持っていた運動エネルギーを殺しつつ太陽に向かって落ちるように軌道を変えて行きます。

 実際の天体館移動では、単純なホーマン軌道とはならずもっと複雑な軌道をとることになりますが、少なくとも「Uターン」という言葉が相応しくないことはおわかりいただけるかと思います。Uターンではなく、Oターンかな? はやぶさ2の場合、地球に小型回収カプセルを落とした後は別の目標に向かって飛行を継続する予定なので、Qターンかも。

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