夜のえんたび/柳

初夜 前編

「自分、コールの体に興味あるんですよね。」


突然ティアに話しかけられたので、一瞬沈黙ができてしまう。

『——それってどういう意味?』

「コールと自分は全く違いますよね。命を持っていない体とかどんな感じなのかすっごい気になるじゃないですか。…性事情とか。」ティアがあぐらのポーズでベッドの上にちょこんと座っている。

全く…すぐにこの子はこういう話をしたがる。変態なのだ。でも、正直自分の体のことはあまり把握していない。生命活動はないのに、生き物のように動き、喋るのは自分でも不気味だと思っている。そりゃあ気になってもしょうがない。

『性別とかは多分ないけど、性格からすると生き物でいう“雌”に近いのかも。口調やこの長い睫毛は人間の女性と共通してるらしいし。』

「へ~コールは自分を女と認識しているんですか?」

『…どうなんだろう。分からないな…』

今まで私は自分のことについて何度も考えてきた。そして私が考えの末にたどり着く答えはいつも一緒。

『結局私はただの無機物。自分が何なのかは認識とかできないのよ。』

「…かわいそうですね。」


「かわいそう。」それは哀れみの言葉なのか何なのかよく分からなかった。

『……ま、こんな辛気臭い話してないで早く寝よ。もう夜遅いから。』

窓の外を見やると暗黒。吸い込まれそうなくらい真っ暗闇。

「………」

『ティア、どうしたの?』

「………コールの体…、調べてもいいですか?その…同人誌の資料にも……なるかもしれないので。」ティアは少し顔を紅潮させて言った。


私は耳を疑った。

どどどどどどういうこと!?それって性的な意味?!確かにこの子はあっち系

のことについて描いてたりしてて、大の大好きだとは知ってるけれど…でも私に気があるとか…いや…ないでしょ…。

「なんか一緒に過ごしてるとちょっと思うことが結構あって、その度に変な気持ちになっちゃうんですよね…。」ティアは少し俯いている。

『…アンタ、男性同士の恋愛が好みじゃないの?…あたしみたいな奴に気でもあるの?』

「じ、自分もよく分からないんです。自分は他人がヤってるとこを見るほうが好きなのに…自分が他人を襲いたいっていう感情なんてないはずなのに…」

ティアは少し悩まし気な顔を浮かべた。

「ずっと昔から思ってたんですよ、自分が異性と同姓のどっちにも対してこの変な気持ちになるのは普通じゃないのかなって…。」

『…』

「なんかきもいですよね、すみません、やっぱもう寝ましょ…」

『…別に…いいけど……』


「…え!い、いいんですか!?」

ティアは驚きの表情を見せ、同時に真っ黒な目にほんのり朱色の輝きを浮かべた。

『ちょっと恥ずかしいけど…それでティアの悩みが少しでも晴れるならいいよ…。』

そう口では言うが顔も真っ赤になってると思うし、ちょっとどころじゃない恥ずかしさで死にそうだ。

「えへっ、今のコールすっごい女の子みたいですね。」

ティアはいつものにこっとした顔で言う。

『や、やめてよ!!』



続く

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夜のえんたび/柳 @yanagi879

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