ひた向き文芸部員は一直線でUターンする。
ほねうまココノ
少年よ、それは作家がよろこぶツボであって――
ここしばらく、文芸部員の熱量は上がり続けていた。
小説投稿サイト『カクヨム』のお誕生日を祝うために、読み切り短編小説を、二日に一作ペースで執筆しているためだ。
「なんでじゃいっ! 初日のお題は『四年に一度』だったはずじゃろう。そいで、四年ぶりに『お祭り』があって、まいど不思議なショーが開かれとって『最高の』演出をさせたろゆうて、ケンタローがあらすじを決めたはずやのに、おまえは予言者か!!」
二作目のお題は『最高のお祭り』だった。
「タカシだって『最高のお祭り』はド田舎にあるもんじゃいっ、とかドヤ顔して、主人公と幼なじみが『Uターン』する帰郷ネタを、イラスト付きでごり押ししてきたじゃないか!! あれは宇宙人のしわざか?! それともハッカーでも雇ったのか?!」
三作目のお題は『Uターン』だった。
「あんたたち何でもいいけど、はやく新作の切り口を考えなさいよね」
書記の加原さんが、ホワイトボードをペンでつついた。
するとケンタローが。
「もう、昨日の作品に【KAC20203】のタグを追加して拡散しようよ。もしくは五日分のボツネタを使い回すとか」
「ああん? ケンタローてめぇ、作家なめとんのか!?」
なめる以前に、公開日がお題発表前だと、公式には参加そのものを認めてもらえない。
加原さんが、トントントンッ。
ちょっと強めにホワイトボードをつついた。
「三人ともはやく『Uターン』の新しい切り口を考えて」
タカシが反論する。
「じゃーまずは加原っちがアイデア出すんが筋じゃろが」
「私は書記だし。それにあんたたちは、ここで主張しないと『あとは任せた』とかいって、ぜんぶ私とサトウくんに丸投げするでしょう」
はいどうも、サトウです。
先ほどから僕もアイデアが浮かびません。
アイデアマンのケンタローに期待を寄せています。
じ~っ。
「もうさ、まともなUターンは昨日書いちゃったし、今度は言葉遊びに
たとえば?
「Uターン、Uターン、ゆうターン、擬人化美少女ゆうた~ん」
「うわ、かゆっ、却下だわ」
ペンが走る前に、キャップでフタをされた。
「お、おい、却下するなら理由を述べるのがマナーだろう?」
「あのね、お肌がぞわってなった時点で理由としては十分なの。あと男子は擬人化しすぎ。しかも美少女とか安直すぎ」
タカシが手を上げた。
「へーい、ちょっと質問があるんじゃが」
「ん? どうぞ、発言を許可します」
「Uターンって自動詞じゃから単体で擬人化できそうじゃけど、仮に加原っち好みの美男子に
たしかに。
Uターンから人物像を連想してみるも、うーん……。
体操選手かな?
「きっと
えっ。
加原さんの目つきが変わった。
「Uターンを美男子で説明するには、まず
だめだ、はやく何とかしないと。
「そういえば聞いたかい? 四組の、木村のうわさ」
んん?
あの身長は平均的で顔はそこそこで、勉強も料理も小遣いも、説明するには行数が惜しい、ふつう過ぎるテニス部員がなにか?
「みさき先輩に告るんだって」
………え、本気で?
「ああ、この時間になっても、みさき先輩がここに顔を出さないということは、たぶん今ごろ校舎裏で――」
いや、まさか、そんな。
「しかも聞くところによると木村は、カクヨムの読み専で、みさき先輩の小説に限っては、欠かさず感想をつけているらしいよ」
うわまずい。これはまずい。
みさき先輩をふり向かせたい一心で文芸部に入り、小説の腕をしこたま磨いてきた僕だけど、レビューも小まめに書いておくべきだった。
僕は、カクヨムを始めた頃に書き込んだ応援コメントをすかさず読み返して、Uターン。木村のコメント力に対抗意識を燃やしながら、校舎裏へとダッシュした。
ひた向き文芸部員は一直線でUターンする。 ほねうまココノ @cocono
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