勇者と魔王の娘が洞窟へと足を踏み入れる話

「これは…!」

「洞窟…?」


 ノルエーデ渓谷の谷底、そのとある一角。そこには、岩肌に大きな亀裂が走っており、その中には洞窟が続いていた。

 亀裂は洞窟内の地面からは高い位置にあり、一度下りれば、そう簡単には戻れないような形状をしていた。


「どうする? 降りてみるか?」


 アヴェルがルキアに問いかける。ルキアとしては正直『えぇ… 降りるの…?』といったところであったのだが…


(アヴェル君、めっちゃわくわくしてるんだけど…!)


 この男、久々に冒険心が燻っていた。結果として…


「そうだね。どの道行く当てもないし。」


 ルキアが折れる形となった。


「よし、そうと決まれば準備しないとだな!」


(ま、楽しそうなアヴェル君を眺めることもできるし、何よりそんな彼を支えたいって思いは、嘘偽りないしね!)


 この女、ついに正妻ポジションを確立し始めていた。



 ※※※



 王城、謁見の間にて。


「面を上げてください。よくぞいらしてくださいました。サラバント様、リチェルカ様。」

「やっほー!姫さぺぎゃぁ」

「こちらこそ、我々などにお声をかけてくださり、ありがとうございます。」


 サラバントが、横のリチェルカの頭を床にプレスしながら、会釈する。


「先立って、一つお伝えしたいことが。元メンバー、マールスとクオリアですが…」

「そうそう姫様! この間できたケーキ屋…」

「お前マジいい加減にしてくんない!?」


 サラバントが半ギレでリチェルカの胸ぐらを掴み上げる。


「だってぇ! もうすんごい美味しいってめちゃめちゃ噂になってるんだよ!」

「知るか! 後にしてくれ!」

「あらあらまぁまぁ。そうなんですの?」

「姫様!?」

「そうなんだよ! ってことでこのリチェルカ、買って参りましたぁー!」


 そう言って、リチェルカがケーキの入った箱をデデーンと掲げる。


「ちゃーんと私と姫様とリアリアちゃんの計三人分ありまーす!」

「俺の分は無いんだ!?」

「あらあらまぁまぁ。リア、机とお茶を準備してくださる?」

「かしこまりました。」


 エリーゼはミリアリアを見送ると、真剣な面持ちへと切り替えて、サラバントへと語りかける。


「サラバント様。」

「はい。」


 サラバントは先ほどのマールスとクオリアの件のことかと思い、こちらも真剣な面持ちへと切り替える。


「もしあれでしたら、私のをケーキ半分差し上げましょうか?」

「え!? そっち!?」



 ※※※



 アヴェルとルキアが洞窟を発見してから数日が経った。この間、二人はひたすらに魚を釣り上げ、干物に加工。保存食も十分となったところで、ついに洞窟内へと足を踏み入れた。


「何も無いね…」


 ルキアが炎の魔法で辺り一帯を照らしながら、呟く。


「そうでもないぞ。」


 アヴェルはそう言って、足元を指さす。


「ほら、何かの足跡だ。」

「ほんとだ…!」

「獣の類だろうな。これは久しぶりに肉にありつけるかもしれないな…!」


 二人はその足跡を辿るように、洞窟内を進んでゆく。暫く進んだ後、ある程度の広さの空間に出る。…そしてそこに、奴はいた。


「嘘…!」

「…まじか。」


 たった一匹で村一つ滅ぼせると言われている伝説の魔獣。ヘルハウンド。それが、そこにいた。

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お互いに一目惚れした勇者と魔王の娘が駆け落ちする話 三国真紗希 @masaki_mikuni

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