星旅行

幻典 尋貴

星旅行

 「でもお客様、今から地球に帰るって言われたって困りますよ」

 操縦席に座る困り顔の男がさらに眉尻を下げる。そろそろ眉の角度が縦になってしまうのではないかと思うほどだ。

 どうして地球に帰りたくなったか。答えは簡単で、目的であった星に行きたいという思いが無くなったからだ。船には自分しか乗っていないため、戻ることぐらい容易いかと思ったがどうやらダメらしい。重力がなんとか、流れがなんとかと言っている。

 「本当にどうにもならないのか?」

僕は聞いてみる。大抵のことは二度聞くとなんとかなると父が言っていた。実際にそうである事は多く、電化製品などを値下げしたいときはこの技術を使うと良い。そうすれば聞かれた店員はきっと「実は少しだけ…」と言ってくるに違いない。

 今回も例外ではないようで、

「戻ることができないわけではないですが、高くなりますよ」と船長は言った。

「お金のことなら問題ない。すまないな」

そう僕は言い、少しの間眠りについた。


 船の目的地は旧地球、かつて人類が環境汚染が酷くなったからという理由で捨てた星だ。最近になってやっと人類の生存ができる環境に戻ったと言うので、暇だと言うこととなんとなくで星旅行を決めた。

 環境汚染が収まっていない間も、専用のスーツを着た数時間の旅行は一般的であったため、今回の旅行を変に思う人はいなかった。

 専用スーツを着なくてもよくなった今回からの地球渡航は、同行者が沢山居るかと思ったが、どうやら既に旧地球に愛着がある人が居ないからかこの有様だ。広い船内に僕と船長とアテンダントロボット二台だけ。

 その事も私が旧地球に行きたくなくなった理由の一つだった。


 目を覚ますと船はまだ星の海の中にいた。当たり前と言えば当たり前だが、これが現在の宇宙最速の船だということはあまり信じられない。昔見た映画のせいで凄い音を出しながら、一瞬で他の星系に行けるのかと思っていた。

 船がUターン出来る地点が来るまで、船は旧地球に向かって進み続ける。

 僕がUターンを申し出た地点は、大体地球から旧地球の間の真ん中辺りだったが、今はかなり旧地球に近くなっている。これなら旧地球に寄ってから帰っても良いなとも思った。ただまぁ、一度帰ると言ったのだから今更行くだなんて言えないだろう。

 ふと強い光を感じ、窓の外を見る。

 小さな星が各々に輝き、幻想的な世界を形作っている。これだけでも、今回の旅行には価値があったのではないかと言うほどに、その光景は素晴らしかった。

 体勢を変えて船の進む方向を見た時、本能的に目を取られた星があった。

 そして私はすぐに船長に告げた。

「やっぱりUターンは無しにしてくれないか?」

 船長はやっぱり困り顔だったが、仕方ない。旧地球に行きたくなってしまったのだから。

 テレビのニュースでも、教科書でも、汚い旧地球しか見たことがなかった。そんなところに旅行をする人がいると聞いて、ずいぶん物好きな人がいるものだと思っていたが、どうやら僕もその一人らしい。

 窓の外からの光を眺めながら、僕は呟く。


 「――あぁ、本当に地球は青かったのだな」

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