第3話 女ノ謎



 それからマモルの生活は変わることになる。


 アルバイト先のお好み焼き屋が長い休業に入ったからである。

 理由は先般の大将が倒れ、療養に入ることになったからである。

 意識はあり、元気そうではあるがおばさんの話では無理も続いていたから休ませるらしい。

 その病室には何と大将の息子で医者のショウタロウさんもいて、ショウタロウさんは泣いていた。

 よほど、大将の無事に安堵したのであろう。

 マモルは大将・おばさん・ショウタロウさんにお礼を言われ、お店を少しの間閉めるためアルバイト先が無くなってしまう事も謝られた。

 マモルはそれらを受け止め、大将の無事に安堵しながら、次のアルバイト先を探す事にした。


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 その日マモルはコンビニで貰ってきたアルバイト雑誌を自宅で見ながら、新しいアルバイト先を探していた。


 マモルはひとり暮らしで1Kの平凡なアパートで暮らしている。


 時給が良く、家から近くて、出来れば賄いがアルバイトを探していたのだが、ここ数日の疲れもありマモルはそのままこたつで眠ってしまった。


 目を覚ますと部屋は真っ暗になっていて、電気をリモコンで付けると時刻は0時手前を指していた。


 マモルは一日を無駄にしたことへの嫌悪感を抱きながらコタツを這い出る。


「腹減った。。。」

 一人言をポツリと呟き、コンビニに向かうためのに準備をする。

 マモルは夕食はほぼ「おりん」での賄いに頼っていて、自分で夕食を買うというのも久しぶりであった。


 自転車に乗り、マモルはコンビニへと向かう。

 冷たい風が頬にあたり、首を上着へとすっこめる。

 コンビニへの道のりは自転車で10分程の距離である。

 油を刺していないギアはキャリキャリと音を立てていた。


 コンビニに着いたマモルは深夜のコンビニには他に客が誰もいないという事に気付く。

 自動ドアが空いた所で、いらっしゃいませ。の一言も無い。

 夕食を買う前にフラリと雑誌コーナーへ行き、漫画の立ち読みをする。

 週刊の漫画雑誌であったが、パラパラとめくり自分の興味のある漫画だけを見て棚に戻した。


 弁当コーナーに行ったが、ほぼ棚は空になっていた。

 マモルは残っていた棚の食べ物からお好み焼きを選び、会計を済まして外にでた。


 外へ出ると一本の電柱に目が止まった。

 入ってくる時はこんな張り紙はあっただろうか。

 マモルの目を引いたのは奇抜な張り紙の内容である。

 その張り紙には

「あなたの未来を望むままに。

 どんな未来もあなたのものです。ご興味がありましたら、是非一度ご連絡ください。」

 と、書かれており、マモルが惹かれたのはその文字の下の内容である。


 時給100,000円

 研修期間あり 日払いアリ

 アットホームな職場です。


 であった。


「じ、時給じゅうまん・・・」

 どんなヤバい仕事なのかと思ってしまうが、マモルにはお金も必要であった。

 マモルは半信半疑ながらも、そのチラシの連絡先の写真を取り、その日は自宅へと戻った。


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 次の日


 マモルはその連絡先へと連絡した。

 数コール後、女性の声で電話は取られた。

 その電話口の相手へ、チラシを見た事を伝え、話を聞きたい事を伝えた。


 女は快諾


 日時・場所を指定され、そこで話をするとの事だった。


 日時は明日の13時

 場所は横浜の赤レンガ倉庫であった。


 電話口の相手の声色は明るく、ヤバい仕事では無い様な気にさせるものだった。

 横浜なんて場所に呼ばれたらそのまま船に乗せられて売られそうだが、時間が13時のためそれは無いと高を括った。


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 待ち合わせ当日、マモルは横浜へと向かった。

 電車で向かう途中、やっぱり帰ろうかとも考えたが、マモルののっぴきならない金銭事情がそうはさせなかった。


 赤レンガ倉庫に着いたマモルは女の携帯へと連絡した。

 女から最初の電話で携帯番号を伝えられ、着いたらその番号に連絡してください。

 との事だった。


 スマホを取り出し、連絡をする。


 数コール後女の声で電話は取られる。


「はい。未来研究所のツバキです。」


「あ、すいません。アルバイト先の件でお話を伺う事になっていた井上です。」


「あー!井上さん!今どちらにいらっしゃいますか?」

 女は軽く明るい声で居場所を聞いた。


「1番館の前です。」


「承知しました。では今から伺いますので、しばらくお待ちください。」

 そういうと電話は切られた。


 マモルはどんな女の人が来るのだろうかと考えながら、待っていた。


 ーーー数分後


「井上さんですか?」

 女の声でマモルは顔をあげた。


 マモルの目にはありえないものが映った。


黒く艶めいた髪、整った顔、ボンキュッボンの体


「あ・・・あ・・・」

 声が出ない。

 心臓の鼓動が急に早まるのを感じた。


「どうかされましたか・・・・?あ!あなた、お好み焼き屋にいたガキね!?」


「何で・・・どうして・・・どうしてここにいるんですか!」

 マモルは頭が追いつかない。


「何でって、私があなたが電話してきた未来研究所のスタッフだからに決まってるじゃない。」

 女は呆れた様子だった。


「しっかし、面倒な事になったわね。。。」

 女は顎に手をやり、マモルを睨んだ。


(消される)

マモルの脳内をシナプス信号が駆け巡る。

 マモルは踵を返して逃げようとしたが、がっちりと右手首を掴まれてしまった。


 が、ここまではマモルの想定内

 マモルは図ったのだ。


 マモルは大声をあげた。

「助けてください!!!誰か!!!」


 若い男が綺麗な女性に手首を掴まれ、喚き散らすのは異様な光景だった。

 だが、それ故に周りの人間の注意は引けた。


 女の手に力が入る。

 その白く細い手では考えられない力である。


「痛い痛い!!離して!!」

 マモルは更に喚く


 立て続けに「誰か!警察を呼んでください!!」

 本気の叫びである。


(勝った。さあ、手を離せ。このクソ女め!)

 マモルは悪い顔をしていた。

 マモルは満身創痍で女を見る


 すると女は手を持ったまま、少し俯きニヤリと笑った。

 次の瞬間

「どうして、マモルはいつもそうなの!!??今日だって、デートの約束に遅刻してきたのはマモルじゃない!それで前もそうやって叫んで、本当に警察が来てすっごく怒られたじゃない!!いつもいつも、私を悪者にして!!マモルのバカ!!!」

 女は叫ぶ

 その後女は膝曲げ、体育座りの格好でその場で泣き声をあげる。


 周囲の目はマモルを蔑んでいた。


 マモルは童貞である。

 学生時代にも女性には縁遠かった。

 故に女性を泣かした事も無ければ、女性が目の前で泣いていてもどうしたら一番正解なのかが分からなかった。


 タジタジのマモルは女の肩に手を回し、

「だ、大丈夫ですか?」

 とお伺いをたてる。


 女は沈黙


「あの、大丈夫ですか?」


女はマモルにだけ聞こえる声で

「死にたくなかったら私の肩に手を回したまま立ちなさい。たったら腕を組んでそこの階段に向かって歩きなさい。」


 女の声は低かった。


 立ち上がったマモルはツバキと腕を組む。

 ツバキはニコニコとしながらマモルの胸に頭を傾けた。



 周囲の目は冷ややかで、人騒がせな奴らに呆れていた。

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未来売リマス研究所 佐々木鉄平 @sasatetsu

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