最終話 「ジルの決意」
杏子は最近、体調が優れなかった。
彼はそんな彼女を心配したがおばあさんが耳元で言った!
「杏子ちゃんは妊娠したんじゃないのかい?」
「近いうちに病院に行って診て貰った方がいいかも知れないね」
彼女はその言葉を聴いてハッと赤くなる!
それに気付いた彼は「どうしたの!?」と聞いたが答えなかった。
「やっぱりそうだったね!」
おばあさんは自分のことの様に幸せいっぱいの笑顔だった。
「こうなると早く入籍しなくちゃいけないね!」
「真也が帰ったら相談しなくちゃいけないけどきっと大喜びだよ」
そう言いながら「足元、気をつけるんだよ」と彼女を気遣う。
本当にこの家族と会えて良かった!
自分もこの家族の一員となれることが彼女にとって最高の喜びであり幸せだった・・・
この子はこんな幸せな家に生まれて来れるんだ!
お腹をさすりながら小さな命の幸福を心から彼女は願った。
生まれて来る子が女の子ならばいいが・・・ジルもそう願ったがジルは産まれたての赤ちゃんを見た経験がない!
そう言えば人間の男と女はどこで区別してるんだろう!?
ジルにとって新たな疑問だが生まれてくる子供を見ればそれもわかるだろう。
産まれて来たのは男の子でジルはその小さな印を見てこれが男の印なのか!?・・・興味深く観察する!
そう言えば孝と樹里の子供は女の子だったとか・・・ピノの奴は相変わらずだな、こんな風に良く観察してから答えは出すものだと注意したものを医者の癖にそそっかしい奴だ。
男の子は琢磨と名付けられ元気に育った!
ジルが心配していた通り緑色の瞳を持つ子供ではあったが彼女は小さな頃から母子の2人だけの秘密と称し我が子に言い聞かせていた、決して全力を見せてはならないと何度も言った!
それはその子、琢磨が6歳になった誕生日の夜であった・・・
仕事を早目に切り上げた真也は家族全員で琢磨の誕生日をお祝いしていた。
突然「ガタン!」という音が裏口付近から聴こえた・・・
「車の方から聴こえたよな!?」
物音に反応した真也は車を止めてある裏口の方へ玄関から廻り様子を見に行った。
「うぐっ!?」
叩きつける様な音と呻く様な声が同時に聴こえた!
突然の出来事に3人は声も出ないし動くことさえ出来ない・・・
やがて玄関の扉が激しい音と共に開くと4人の男が笑いを浮かべながら乱入して来た!
彼女は「真也は・・・?」と判り切った答えを否定する様に彼等に聞いたが答えは冷酷なものだった。
「ご主人は死んじゃったよぉ!」
薄笑いを浮かべながら一人が答えると別の男が続けて言った!
「どうせ君達も全員、死んじゃうんだけどねぇ!」
こいつらには蛇が憑いている・・・ジルは邪悪な悪寒を覚えた。
「どうか命だけは助けてくだ・さ・・・い」
飛び付いたおばあさんの頭は鉄パイプで殴られ血を吹き出しながら畳に倒れ込んだ・・・尚も吹き出す血は床を真紅に染めながら広がっていく。
その時、「この野郎っ!」
真也が血まみれになりながらも4人を目掛けて突進するが胸を刺され小刻みに痙攣しながらその場に倒れると息絶える。
「もうダメだ」・・・ジルは諦めた!
ジルが諦めた瞬間、我が子を背後に押し退けて杏子は立ち上がると次々に4人を原形も留めぬ程に殺戮した!
立ち上がり数秒もない・・・4人は叫び声さえ挙げる時間は無かっただろう!?
「やはり、やってしまったのか・・・仕方あるまい」
ジルは惨劇の様子にも落ち着いた声で呟くと琢磨の方を見た。
琢磨は母親によって気を失っていた!
やはり見せたくは無かったのだろう?
彼女は真也とおばあさんの死を確かめると真也の胸に刺さったナイフを抜き自分の胸を深く貫いた!
そのまま3人は折り重なる様に骸と化した。
「琢磨を・・・琢磨を御願いします!
ジル・・・貴方の力で琢磨が間違った方向へ進まない様に導いてやって下さい」
2人を抱き締め霊魂となり去って行く彼女を悲しげに見ながら「知っていたのか?」ジルは呟くと更に大きな声で叫んだ!
「必ず琢磨はワタシが幸せにしてやる!」
振り向いた彼女の笑顔は優しく、とても美しかった。
次回作「俺の名前はココア」へと続く
- 次なる物語へのプロローグ - 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu
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