Are you OK?

赤城ハル

Are you OK?

 両親ともにが強くなる時期がある。

 それがお盆。

 お盆は絶対に母方の実家に行くこと。それがうちの鉄則で休むことが許されない絶対行事。風邪や部活の試合で休む羽目になって、お盆を過ぎてしまっても日を置いて必ず母方の実家に向かわなければいけない。なぜか今は父方の実家の方は疎かになっていてもだ。

 そして必ず、お盆特有のUターンラッシュにより渋滞に巻き込まれる。遊びに行く分は文句はないが帰りの渋滞だけは勘弁。

 もう毎年のことなので母方の実家へ向かうときは渋滞を見越して行動をとる。だがそれは回避するのでなく、渋滞に巻き込まれることを前提とした措置である。結局は渋滞に巻き込まれるのだ。

 私は停車中の車の中であっても本を読むと、というか文字を見ると酔ってしまうので本は絶対に持ち込まないようにしている。ワンセグのテレビも駄目。テロップがあるから。もちろんスマホもだめ。だからネットもゲームもできない。

 故に音楽だけが唯一の救いだ。安物音楽プレイヤーには一回り昔の流行り曲から今の流行り曲までが入っている。

 私は耳にイヤホン差して後部座席で横たわる。皆は音楽を聴いてるときって何を考えているのだろうか。私は主に友人や学校のことを考えてる。今、友人たちは何をしているのか、夏休みが終わったらの学校のこととか。そんなことを考えながら音楽を聴く。

 でもその音楽も一時間もすると飽きてしまう。

 ウインドウに目を向けると赤い空が。空のもとは夕焼けに染められた車と高速道路、そして山。始めは綺麗と感じた。だけど飽きるとつまらない景色になる。

 ――ああ。そんなことを思う私って変?

 よく親に『運動会楽しくない? どうして? あんた運動得意でしょ? 楽しくないの?』と聞かれる。動くことは嫌いではないが、なんか動かされている感があってどこか面白くない。ただ皆はよくはしゃいでいた。私は小学生の頃、運動会であまりにも口数が少なく、ぼうっとしていたからクラスメイトからぼうちゃんなんて渾名が付けられた。

 ペットボトルからお茶を一口飲む。口を潤す程度で。一口以上は飲まないように気を付けている。飲み過ぎると尿意に悩まされるから。

 助手席の方では母が景色をぼんやりと眺めている。父はじっとしたまま動かぬ前方の車を見ている。


「ねえ、どうしてお祖母ちゃん家に行かないといけないの?」


 今までで、もう何十度目かの質問。最初にこの質問したのはいつだっただろうか。

 母は電源が入ったパソコンのようにゆっくりと反応する。まず目をぱちくりした後に、間を置いて口を開く。


「お祖母ちゃん、心配しているでしょ」


 と、言う。これもまたお決まりの返し。


「なんでお祖母ちゃんが心配するのよ? こっちが心配するならわかるけど」


 母方の祖父母は伯父家族と暮らしている。孫もいるし寂しくはないはず。

 そしてもう一つの謎が母はよく祖父でなく祖母の名を口するということ。

 さすがに正月くらいでよくないとは酷いので言えないが。しかし、


「せめてお盆は避けない?」


 どうせ風邪引いたりしたら後日に回されるんだから。なら始めから渋滞避けるためお盆後がいいはずだ。

 しかし、母は答えない。そう、いつもここで話が止まってしまう。

 父を見ると、父はずっと前を向いている。


「次にサービスエリアが見えたら寄りましょう」


 母が空のペットボトルを見て言った。




 次のサービスエリアは距離は近かったが渋滞だったので着くのに45分かかった。

 私はトイレに、母はジュースを買いに、父は固まった体をほぐすため、そこら辺をぶらぶら散歩。

 空は茜色から烏色に変わっている。

 車に戻ると父が運転席にいた。


「お母さんは?」

「土産物を見るっていってたな」

「そう」


 私は後部座席に横たわり、息を吐く。


「あとどれくらい?」

「二時間はかかるな」

「そんなに!?」

「でも渋滞は過ぎたから後は楽だ」

「ご飯どうする?」


 時刻は19半。


「レストランでも寄るか?」

「だね」


 私は小腹が空いていたのでブロックチョコを一つ口に。舐めて、口の中で転がすと甘味が口の中に広がる。チョコが溶け消えたとこで甘味を消すためにペットボトルのお茶を飲む。


「母さんも見栄っ張りだからな」

「っん!?」


 飲んでいるところで声掛けられ少しむせる。どろりとしたチョコの甘味が喉に残る。私はもう一口お茶を含みながら舌の奥で喉奥をさするように当てる。


「何? 急に?」

「母さんのことだ。お前言ってただろ。お盆のことを」

「ああ、うん」

「結構見栄張りなんだよ」

「えっと、見栄を張るのとお盆なんの関係が?」

「よくお祖母ちゃんに大丈夫かと言われていたらしいよ」


 と、父はそれだけ言って口を閉じた。どういう意味か?

 そこで母がたくさん土産袋を持って戻ってきた。母はその土産袋を後部座席に置く。それによって私が横たわれるスペースが減らされる。


「なんかいっぱい買ったね。何このご当地キャラ。マジちょーかわいい」


 母が買った土産物の中でご当地キャラの絵がラッピングされたクッキーを見て私は言った。


「そうだ。私、結局土産買ってなかったんだ。あー、それだったら私もここでなんか買おうかな」

「あんた大丈夫なの?」


 母は呆れ顔でそう言った。

 私は母から母の財布を受け取り外に出た。そして急ぎ足でお土産屋に向かう。

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