第3話




 これが、恋なんですか。




 本気の恋って、こんな感じですか。





 心臓、変になりそうなんですけど。






 ◆ ◇ ◆





 郁君と付き合うようになった私なのですが、今までにないくらいドキドキしてます。

 誰かと付き合うの初めてって訳じゃないのに、物凄く緊張してる。私、今まで本当に恋してきたのかなって疑問を持つくらい。


 あれ、かな。

 今までと違って、相手の気持ちを疑って付き合ってないからなのかな。

 今の私、ちゃんと郁君の気持ち信じてる。

 疑ってないもん。不安に思うことはあるけど、彼の好きって言ってくれた言葉を疑うことはない。


 だからなのかな。

 物凄くドキドキして仕方ないの。

 素直に彼を想うことが出来るから、変に猫被ったりとかしないでありのままの自分で向き合うことが出来るから、だからドキドキするのかな。




 今日もお昼は屋上で郁君と一緒に昼食を食べる。

 昨日も会ってるのに、今朝も会ってるのに、早く会いたい。

 会いたくて、でもなんか緊張しちゃって、意味もなく泣きそう。

 どうしちゃったんだろう、私。

 今までの彼氏と一緒にいるときはこんな風にならなかったよ。

 無理してキャラ作って付き合ったりしていたからなのかな。


 なんか今の私、本当に恋してるなって感じ。




 ◇




 お昼になり、私は屋上に向かおうとお弁当をカバンから出して教室を出ようとした。



「みーゆ」

「へ? うわ!?」


 突然、目の前に郁君の顔が現れて私はビックリして後ろに仰け反ってしまった。


 ビックリした。本当にビックリした。

 郁君、違うクラスだけど目立つから女子に人気あるんだよね。だから周りにいる子たちがちょっと騒いでる。

 そうだよね。急に郁君が私の名前、しかも下の名前を呼んで入ってきたんだもん。そりゃあ驚くよね。

 てゆうか、なんで教室来てんの? 屋上で待ち合わせしてたのに、なんで?


「ど、どうしたの?」

「なんか、待ってられなくて」

「へ!?」

「早く行こう」


 郁君は私の手を取って教室を出た。

 教室からは女の子たちのざわつく声が聞こえてくる。あとで質問攻めされそうだなぁ。




 ◇



「急に教室まで来ないでよ、恥ずかしいじゃん」

「なんで」

「だ、だから」

「恥ずかしがることないでしょ? 俺ら、付き合ってるんだし」

「うっ」


 そういうのが恥ずかしいんじゃない。

 なんでそういうの簡単に言えちゃうのかな。郁君、今まで誰とも付き合ったことないって言ってたけど、本当かな。

 私なんて、ドキドキしすぎて泣きそうなんだけど。


 お昼ご飯を食べ終えて、二人で肩を並べてゆっくりしてる訳なんですけど。

 なんか、変な感じなの。

 物凄くドキドキしてるのに、彼の隣は安心する。安心するのに、ドキドキするの。

 不思議。こんなの、初めて。


 本当に、彼が好きなんだなって想う。

 こんなに誰かのこと好きになったの初めて。

 好きって言葉が溢れてしまいそう。

 でも恥ずかしくて、彼を前にして「好き」って言葉が言えないの。


 心の中で何度も何度も郁君に向かって好きだって叫んでる。


 好きなの。好き、好きだよ。


「美優」

「なに? ……わっ!」


 郁君の方を向くと、急に腕を引っ張られて、抱きしめられた。

 暖かい。それに、ドキドキする。安心する。

 でも、泣きそう。

 嬉しくて、優しくて、なんか色んな感情が胸の中でごちゃ混ぜになって、泣いちゃいそう。


「ねぇ、美優」

「な、なに?」

「好きだよ」

「……う、うん」


 私も、好きだよ。

 その言葉を、言えずに飲み込んでしまった。

 伝えたいんだよ。伝えたいけど、恥ずかしくて言えないの。


 どうやったら、伝えられる?

 ねぇ、郁君。

 好きだよ。本当に、本当に大好きなんだよ。



 ギュッと、郁君の背中に腕を廻して、抱きしめた。

 伝わってほしい。

 この気持ち。


「……美優」

「うん?」

「キス、していい?」

「え……え!?」

「あれ、もしかして美優、したことないの?」


 ありません。

 確かに彼氏はいたことあるけど、キスはしたことない。

 だって毎回すぐに別れちゃうんだもん。


「ダメ?」

「ダメ、じゃないけど……」

「恥ずかしい?」

「う、うん」

「そんなの、俺だって一緒だよ」


 そう言って、郁君は私のことをギュッと強く抱きしめてきた。


 い、郁君の心臓、物凄くドキドキしてる。

 伝わってくる。

 郁君もドキドキしてくれてるんだ。

 なんか、嬉しい。一緒だ。同じなんだ。


「俺だって、緊張くらいするよ」

「……うん」


 郁君の手が、私の頬を包んだ。

 優しくて大きな掌。

 真剣な目。

 ゆっくりと近付いてくる郁君の唇。


 私も、目を閉じて、彼を受け入れる。



 触れた、柔らかい感触。

 キスって、こんな感じなんだ。

 なんか、癖になりそう。

 触れて、離れて、また触れてを、何回も繰り返した。

 郁君は私の唇を食べるみたいに啄んでくる。

 そうされる度、背中がゾクゾクする。

 心臓が破裂しちゃいそう。

 止めたくない。

 ずっと、こうしていたい。

 触れ合ったままでいたい。


 好き。


 好きだよ。


 郁君。郁君、郁君。


「っ、はー」

「……は、ぁ」


 唇が離れて、郁君は私のことギューって抱きしめて思いっきり息を吐いた。

 私も、少し荒れた呼吸を整える。


 なんか、誰もいない学校の屋上でこんなことしてるのって、悪いことしてるみたい。


「ヤバい、止めらんねーや……」

「んっ、い、く……」


 郁君の腕が私の腰と頭を支えて、思いっきり唇を重ねてきた。

 私も、郁君の頭を抱えるように腕を絡めた。


 唇を重ねているだけなのに、こんなにドキドキしちゃうなんて。

 これから先、私の心臓保つかな。

 壊れちゃわないかな。

 でも、止められない。

 一生このままでいい。このまま死ねるならいい。


「好き……好き、郁君……」

「俺も、好きだよ。大好き、美優……」




 私たちはチャイムが鳴ったのにも気付かず、ずっとキスをしていた。



 唇が痛くなるまで、ずっとずっと。




 好きよ。


 本当に、大好きよ。




 私、本当に君に恋してるよ。




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あなたが私に惚れる理由がわかりません。 のがみさんちのはろさん @nogamin150

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