第2話




 わかんない。



 わかんない。わかんない、わかんない!!




 ありえないよ。


 そんなんじゃないよ。




 絶対、違うよ。






 ◆ ◇ ◆





 あれから一週間。

 私は、黒崎君と顔を合わせていない。

 屋上にも行かなくなったし、彼のクラスの前を通る時は見つからないように走り去るようにしてる。


 だって、どんな顔して会えばいいのか分かんないんだもん。

 あんな風に抱きしめられて、好きだなんて言われて、どうしたらいいか分かんないじゃん。

 好きとかそう言うの別にして、緊張しちゃうじゃん。

 てゆうか、緊張してるんだもん。

 恥ずかしいんだもん。

 あの日から黒崎君のことばっかり考えて胸がドキドキしちゃって、もう何も手に付かない。


 なに、これ。

 なんなの、これ?


 知らないよ、こんなの。

 毎日毎日、悲しくもないのに泣きそうなんだもん。

 どうなっちゃったの、私。




「どうしようううううう」


 誰もいない放課後の教室。

 私は机に突っ伏したまま唸っていた。


 なんか家に帰る気も起きなくて、でも誰にも会いたくなくて。

 そんでグダグダしていたら、気付いたらこんな時間に教室で一人ぼっちになってしまった。


 黒崎君、急に私が屋上に来なくなってどう思ったかな。

 私が自分に惚れてみろなんて変なこと言って、それで屋上で会うようになったのに。

 それなのに私がいきなり来なくなるとか、最低よね。


 嫌われたかな。

 嫌われたよね。


 そうだよ。

 こんな私が、好かれるわけないんだもん。

 そうだ。そうだよ。これが、当たり前なんだよ。


 こんなの最初から分かってたことじゃん。

 何落ち込んでるの? 期待してたの? 馬鹿なの? 死ぬの?


「私の馬鹿ー」

「何がバカなの?」

「っ!!?」


 ビックリして顔を上げると、目の前の席に黒崎君が座っていた。


 なんで?

 なんで居るの?

 なんでまだ残ってるの?

 てゆうか、なんで私の前にいるの?


「く、黒崎君」

「なんで屋上に来なくなったの?」

「え、あ……その」

「俺が好きだって言ったから?」

「……っ」


 その通りです。

 私が黙り込むと、黒崎君は察してくれたのか小さく溜め息を吐いた。

 怒ってるのかな。


「あのさ、俺が美優のこと好きになるのって、いけないことなの?」

「え……」

「美優さ、自分のこと好きになる人なんていないって思い込んでるけど、それって相手に対して失礼じゃない?」

「……」

「そうやって相手の気持ち疑って、自分勝手に相手の好意を否定しちゃってさ」


 それは、確かにそうかもしれないけど。

 でも、しょうがないじゃん。

 信じられないんだもん。嫌われるのが、怖いんだもん。


「ねぇ、美優」

「……」

「信じてよ。俺、本当に美優のこと好きだよ」

「……」

「そりゃあさ、まだガキだから将来のこととか何の保証もないし、そういう約束は簡単に出来ないよ。でも、今のこの気持ちを信じてよ」


 黒崎君が、真剣な目で私を見てる。


 黒崎君の言う通り、私のこの考え方っていうのは真剣に思ってくれてる相手に対して失礼だ。

 ううん、誰に対しても失礼だった。

 誰と付き合っても、どうせすぐに嫌いになるんでしょって決めつけてた。


 最低だったな、私。


「……本当に、信じていいの?」

「うん。俺、本当に美優が好きだよ。美優は?」

「私、は……うん、私も、好きだよ」


 嬉しくて、涙が出てきた。

 きっと私、泣き顔のせいで可愛くなくなってる。

 でも、黒崎君は優しい笑顔で私の涙を拭ってくれた。


「黒崎君……」

「郁、でいいよ」

「い、郁くん?」

「呼び捨てでいいのに」


 そう言って、黒崎君……じゃない、郁君は私の手を取ってキュッと握りしめてくれた。


 ドキドキする。


 泣きそう。




 これが、恋なんだな。



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