84 じゃあ、俺らも終わりますか

 俺は自室で、たそがれていた。


「どうしたの、光一?」


 桜子が尋ねる。


 俺はカラン、とグラスの氷を鳴らした。


「桜子、お前も知っているだろ? 次々と、仲間たちが居なくなっているんだ」


「光一……」


「昨日は『同居』が終わり、そして今日は『地味子』とそして、盟友の『三拍子』まで終わっちまった……俺らが、三葉空の黄金期の礎を築いたと言っても過言じゃない」


「またメタるのね」


「良いじゃないか、今日くらい」


 カラン。


「寂しいねぇ」


「本当に」


「まあ、三葉空のラブコメ連載の土台を作ったのは、『いもエロ』先輩と『僕嫁』先輩だけどさ」


「女々しくリメイクをしたあの先輩方ね」


「女々しいのは作者だよ。とにかく、俺は寂しい。その先輩たちが土台を作り、俺らがでっかい城を建てたんだ」


「城……そうね」


「最初、『三拍子』が何か知らんけど今までにないくらい上位にランクインして。気が付いたら、俺らの『毒舌』もそのすぐ下にぴったりといて。俺らで、一ヶ月以上もランキング3位から5位をキープしていたからな」


「そうね」


「そして、次なる駒を増やすために、『同居』が始まった。こいつがまたヒットしてくれて、作者も嬉しかったみたいだぜ」


「私達にはちょっとだけ及ばないけど、人気作だったものね」


「そうだな。んでもって、次に『地味子』っていう、俺らの上を行く作品が生まれたんだよな」


「作者も何気なく書き始めたから、まさかあそこまでヒットするとは思わなかったみたいよ」


「日間・週間で最高2位だもんな。作者の中で最高記録だよ」


「でも、その時は更に上を行く作品を他の人が書いていたから、1位は取れなかったのよね」


「けど、作者はその点に関しては、別に気にしてないみたいだぞ。その方が、まだ終わりない挑戦が続くって」


「前向きなのね」


「でも、その後、『地味子』の展開をミスって、人気が急落してちょっとへこんでいたな」


「それは仕方のないことね。でも、良い作品だったわ」


「俺らみたいにふざけないしな」


「あ、でも、次の作品はだいぶふざけているじゃない」


「ああ、『家出中』な。あれ、最初はちょっと真面目な感じかと思ったらさ。姉妹とハーレム状態になってから、マジではっちゃけ始めたよな」


「でも、光一の鬼畜っぷりには及ばないわよ」


「まあな」


「誇るな」


「てかさ~、『三拍子』が終わったの、マジで寂しいわ~。だってもうこの作品とセットみたいな感じだろ?」


「そうね。累計順位でも、三葉空の作品の中で一番上だからね」


「だって、三葉空が飛躍するきっかけとなった作品だからなぁ」


「けど、同時に連載したことで、作者の中でキャラの名前が混同すること、結構あるわよね」


「ああ。桜子とイチャついて、最後良い感じの締めで『幸雄』って呼ばれた時、マジでビビったよ」


「それは私のせいじゃないの! 作者にクレームを入れて!」


「いや、お前が入れろよ」


「次やったらぶっ殺す」


「怖いな。いつもみたく可愛く言えよ」


「ぶっころ♡」


「可愛すぎる!」


「でも、大丈夫よ。この作者、私のことが好きみたいだから。けど残念、私の心は光一だけのものよ」


「ということは、体を差し出す可能性はある訳か。ビッチだな」


「あなたの思考が鬼畜なのよ!」


「はぁ~、てかさ~、俺らもいい加減に疲れたよなぁ。こんなパロ劇場に走るくらいだし」


「そうね」


「てか、俺らも終わるんじゃね? 黄金の第2世代も年貢の納め時ってやつだよ」


「終わりましょう。最後は潔く」


「だな、盟友たちが終わったんだ」


 …………………………


 …………………………


「あれ、終わらない?」


「ちょっと、ちゃんと締めないとじゃないの?」


「じゃあ、今からちょっとエッチするか」


「やっ、そんな……ゆ……ういち」


「おい、お前。今また『幸雄』って言いかけただろ。俺、あんな好青年じゃないんだけど」


「知っているわよ、そんなの」


「ていうか、どうにも締まらないんだけど」


「う~ん……もっと最終回らしく、シリアスにすれば良いのかしら?」


「……桜子、別れよう」


「えっ? ちょっ、急にどうしたのよ? ていうか、そのネタはもうやったし!」


「いや、今回はネタじゃない、本気だ」


「ま、まさかのバッドエンドなの?」


「ああ。結局、俺と桜子はお互い素直になれず、桜子は他の男にNTRされて……」


「って、冗談でもやめてよ!」


 バチィン!


「イテッ! シンプルに痛いんだけど!」


「ていうか、こんな風にふざけていたら、いつまで経っても終わらないじゃないの!」


 ピンポーン。


「ちっ、こんな時にかよ。ちょっと待っていてくれ」


 閑話休題。


 バタン、と。


「おい、桜子」


「あら、手紙? 誰から?」


「とりあえず、読むな」


「ええ」


「え~……『毒舌』と『家出中』はギャグ路線で会話劇も楽しく、作者の息抜きになるので。もうちょっとだけ連載キープでお願いします。三葉空より……だって」


 ………………。


「よし、作者の息の根を止めに行きましょう」


「待て、それはイコール俺らの死にも直結するぞ」


「くっ、おのれ……」


「まあ、落ち着けよ、桜子。俺らはもう、ご意見番みたいなポジションで、メタ担当とかやっていれば良いんじゃないの? ジャ◯プで言う所の『◯魂』みたいなもんだよ」


「そんなビッグネームを出さないでちょうだい」


「ちなみに、作者は『◯魂』が好きらしい。どうでも良いけどな」


 俺は手紙を破り捨てる。


「あー、仕方ねえ。この鬱憤は、桜子をいじめて晴らすか」


「えっ? ちょっ、まっ……」


 ギュピンギュピンギュピンギュイイイイイイイイイイイイィン!


「くはああああああああああああああああああああああああああああぁん!」


 ビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクン!


「良いねぇ、それでこそ桜子だよ。作者も喜んでいるんじゃないか?」


「こ、この、鬼畜野郎どもめ……」


「じゃあ、別れるか?」


「……こうなったら、意地でも別れてやるもんですか」


「そうだな、俺らは将来結婚する訳だし。ていうか、作者の気分次第でいきなりエピローグで結婚して終わるかもな」


「まあ、光一と一緒になれるならそれでも良いけど」


「俺もだよ、桜子」


 ちゅっ。


「あっ、う、嬉しい」


「何だよ、ただのキスだろ?」


「それが最高に嬉しいの……」


「可愛い奴め」







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