75 彼女とコンビニに行くだけの話
季節は梅雨。
シトシト降る雨が地上を濡らしている。
「ねえ、光一」
「何だ、桜子?」
「よく晴れた初夏には家にこもって、何で梅雨になってから外に出るのよ。普通は逆でしょ。こんな時こそ、受験勉強をしないと」
「俺はひねくれ者だからさ」
「納得ね」
そんなこと言いつつも、桜子は相合傘をする俺の肩に寄り添って来る。
「可愛いな、お前」
「な、何よ、急に」
「いや、いつも言っているだろ? お前は世界で一番可愛いって」
「ドズキュ~ン!」
桜子は俺の言葉だけで軽く昇った。
「そして、何よりもチョロい」
「チョ、チョロくなんてないわ。私がこんな風になるのは、あなただけよ」
「じゃあ、誰にもNTRされる心配ないな」
「もう、またそんなことを言って」
「あ、そうだ。あえて一度NTRさせて、そこからまたNTR返しをするってのも一興だな」
「光一、やめなさい。読者様が怒るわよ」
「もはや、お前も普通に言うな」
閑話休題。
「ふぅ、けど、雨って落ち着くわね」
「そういえば、桜子は梅雨に読書をするのが好きなんだよな」
「覚えていてくれたんだ」
「当たり前だろ」
「嬉しい」
「また今度、行こうか」
「ええ……あっ」
「どうした?」
「いや、その……」
俺がチラと目を向けると、桜子の胸だけ濡れて透けていた。
桜子はサッと隠す。
「もしかして、胸が大きくなりすぎて、はみ出したか?」
「うっ……もしかして、あなたはこれを狙って」
「おっ、コンビニがある。ちょっと寄って行こうぜ」
「へっ? で、でも、私は……」
「桜子、やっぱりサービス精神って大切だと思うんだ」
「は?」
「お前は俺だけの女だし、他の誰にもくれてやるつもりはない。けど、たまには他の奴らにお前の魅力を振る舞っても良いんじゃないかと思うんだ」
「出た、またメチャクチャな理屈が」
「何より、俺がみんなにお前を自慢したい」
「ぬ、濡れてブラが透けている彼女を自慢するとか……変態」
「あ、どうしようかな。基本的には隠さずに行って欲しいけど、あえて隠させることで、ビクビクしている感じもそそるしなぁ」
「変態、どクズ」
「じゃあ、別れるか?」
「死んでも別れない!」
「よし、入ろう」
俺は桜子と一緒にコンビニに入った。
「らっしゃっせ~」
「よし、男の店員だな」
「いちいちチェックしないで」
「さてと、まずは栄養ドリンクを見ようか」
俺はじっくりと眺める。
「ね、ねえ。買い物があるなら、早く済ませましょうよ」
「いやいや、じっくり選びたいな。仕事の合間に飲む大事なやつだから」
「くっ……」
桜子は唇を噛み締める。
俺がチラと周りの様子を伺うと、やはり男性客が桜子をチラチラ見ていた。
「良いぞ、その調子だ」
「ちょっと、誰に言っているのよ?」
「えーと……これにしようかな」
俺は一本の栄ドリを選ぶ。
「あ、カゴ使う? 私が持っているわよ」
「いや、良いよ。自分で持つから」
俺は自分でカゴを手に持って言う。
「くっ……」
「よし、次は雑誌だな」
「ねえ、もしかして、店内のコーナーを一つ一つ見て回るつもりじゃ……」
「あー、そうだ。もうコンビニではエロ本は置いてないんだよなぁ。あっ、とは言いつつも、普通にエロっぽい雑誌はあったりする不思議ね。女子◯ナのお宝スクープ写真とか」
「ねえ、ちょっと無視しないで」
「あっ、このグラドル可愛いな。けど、桜子の方が可愛いし、おっぱいもデカい」
「ズキュン……って、騙されないんだからね!」
「じゃあ、この雑誌にするか」
俺は数冊の雑誌をカゴに入れる。
「仕事の参考資料だよ」
「ねえ、光一。もう、そろそろ……」
「ああ、そうだな。店内はちょっと空調が効いているし、桜子が風邪を引いたら大変だ。だから、もう出ようか」
「本当に?」
「飲み物とかいるか?」
「ううん、大丈夫。お家に帰ってからで良いわよ」
「よし、じゃあ最後に一つだけ買いたい物があるんだけど良いかな?」
「良いわよ」
「ありがとう」
俺は桜子と一緒にとあるコーナーへと向かう。
「お、あった、あった」
俺は目当ての物を見つけて言う。
「えっ、これって……」
桜子は固まる。
「どうした? 前にも自分で買うくらいだから慣れているだろ?」
「そ、そうだけど……あの時、実は買うのに一時間くらいためらって、しかも私が買うタイミングでちょうどレジが男の人に変わってすごく恥ずかしかったし……」
「へえ、何でそんな面白くてそそる話を黙っていたんだよ」
「う、うるさい。早く決めてよ」
「いや、これこそ何よりも大事だろ……お、激うすか」
「くっ……死ぬほどムカツク。けど、真剣な横顔が素敵すぎて……ズキュン」
「なあ、桜子はどれが良い?」
「えっとね~……」
「って、普通に選ぶじゃんか」
「う、うるさいわね。もう、これで良いわよ」
「じゃあ、最初に取ったこの激うす君にするか」
「な、何でよ?」
「だってお前、本当はこっちのが良いんだろ? 目線がずっとチラ見していたし」
「……う、うん」
「素直な良い子だな、桜子は」
俺は桜子の頭を撫でてやる。
「そ、そんなんじゃ騙されない……デヘヘ」
「チョロいな~」
もはや、俺のそんな囁きは耳に届いていない桜子だった。
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