74 桜子のファンサービス
何だか久しぶりに学校に来た感じがするなぁ、と思っていた時。
「あっ」
廊下でバッタリと会ったのは、
「おっ、美波か。久しぶりだな」
「お、お久しぶりです」
俺の一個下の後輩女子で、桜子の親衛隊のメンバーだ。
おさげの髪が愛らしく揺れている。
「お前も2年生になったな」
「そうですね」
「少し、背が伸びたかな?」
「そうですかね?」
「けど、胸の成長はまだまだだな」
それまで澄ました顔だった美波が、急に真っ赤になる。
「セ、セクハラ発言はやめて下さい!」
「ははは、許せ。久しぶりにお前と戯れたからついな」
「こんなセクハラオヤジさんが桜子さまの彼氏だなんて、最悪です」
「そんなジト目で見るなよ。興奮するだろ」
「やっぱり変態ですね。私の半径5m以内に近付かないで下さい」
「じゃあ、お前から離れろよ。俺はここから一歩たりとも動かん」
「何ですか、その意地は」
美波がぷくっと頬を膨らませる。
「そうだ、これはゲームだ。楽しめよ、美波」
「先輩ってこんなキャラでしたっけ?」
「何かもう、色々とアリになっている感は否めないな」
「誰目線ですか」
「もう、純粋だったあの頃には戻れないんだよ」
「遠い過去なんですね」
美波が少しだけ同情してくれる。
「さあ、美波。どう出る?」
「……逃げます」
「何だ、いきなりか? つまらないぞ」
「だって……」
美波が軽く震えているので、俺は背後に振り向く。
「楽しそうね、ダーリン」
満面の笑みを浮かべる桜子さんがいた。
「よう、ハニー。どうしたんだい?」
「他の女との浮気現場を目撃されながらも、その堂々とした態度。さすがはダーリンだわ……ぶっ殺しても良い?」
「ひっ!」
「おい、桜子さん。あまり後輩女子を怖がらせるなよ」
「誰のせいだと思っているのよ」
「ていうか、浮気じゃねーし。軽く世間話をしていただけだよ。なあ、美波?」
「世間話と言うか……ほぼほぼ、セクハラされていました」
「はい、ぶっころ決定」
桜子は物凄い笑顔で俺に迫って来た。
そして、俺の両頬をアイアンクローで掴む。
「はにふんはよ?(何すんだよ?)」
「うふふ、光一。あなたを殺して良いのは、この私だけよ」
「へは~、はんへへ、へは~(出た~、ヤンデレ、出た~)」
俺と桜子がそんなやり取りをしていると、
「あ、あの、桜子さま」
「何かしら? あなたも被害者だから、少しくらいぶっころしても良いわよ」
「いえ、そんなことは……あの、春日先輩を許してあげて下さい」
「あら、どうして? この男は性欲の塊みたいなものよ。放置をしていたら危険だわ」
「ほはへほは(お前もな)」
「はぁ? もっとこうするわよ?」
「ひへへ!(いてて!)」
「お、落ち着いて下さい。私は平気ですから。桜子さまも、本当は大切な彼氏さんをそんな風に傷付けたくないですよね?」
「あなた……」
桜子はふっと手の力を緩める。
「あー、苦しかった。けど、これはこれで、また新鮮な感じがしたな」
「やっぱり、春日先輩は救いようのない変態ですね」
「おう、美波。助けてくれてありがとうな」
「まあ、これ以上、桜子さまを暴走させる訳にはいかなかったので」
「でも助かったよ。何かお礼がしたいな」
「良いですよ、そんなの」
「あ、お前って今でもちゃんと桜子のファンか?」
「そ、そうですよ。今でも親衛隊のメンバーです。前にもらったサインも家宝にしています」
「だってさ、桜子さん」
「ふ、ふん。別に嬉しくなんてないんだからね」
「ほら、こいつがこんなコテコテのツンデレになるくらい、喜んでいるぞ」
「う、嬉しいです」
「べ、別に喜んでなんかないんだからね」
「桜子さん、そこはもう少しひねろうよ。ファンサービスはきちんとしないとさ」
「だから、あなたは誰なのよ? プロデュサー?」
「いや、お前の彼氏であり、未来の旦那だけど?」
「ドズキュン」
「あっ……今の桜子さま、すごく可愛かった」
「おお、そうか。良かったな、桜子。きちんとファンサービスが出来て」
「うるさいわよ、本当に……」
桜子は照れくさそうにそっぽを向いた。
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