73 笑ったり鬼畜ったり

 ここ最近、ずっと桜子とどちらかの部屋に籠っているから。


 つい、色々なことを試してしまう。


「んっ……あっ……あっ……」


「どうだ、桜子? 俺におっぱいを踏まれる感想は」


「く、屈辱よ……」


「じゃあ、ちょっと優しくしようか」


 ふにっ、ふにっ。


「あっ……それ、良いかも」


「さすが、ドMの桜子だな」


「ド、ドMとか言わないで」


「けど、これが気持ち良いんだろ?」


「き、気持ち良いです……大好きな彼氏に蹂躙されて……あっ……ヤバいです」


「俺も、これすごく気持ち良いよ。この足置きが家に欲しいくらいだ」


「か、彼女を物扱いするなんて……最低よ」


 とか言いつつ、桜子は先ほどから頬を赤らめて、何だかんだ喜んでいるのだけど。


「ねえ、光一。そろそろ……」


 桜子が言いかけた時。


「お邪魔するのニャ~ン!」


 勢い良くドアを開ける闖入者ちんにゅうしゃがいた。


 ニコニコっと笑顔でやって来たのは、


「よっ、萌葱もえぎ


「よっ、こーニャン」


 要石萌葱かなめいしもえぎは軽く敬礼をして言った。


「……ちょっと、何でこのメス猫が居るの?」


「ああ、俺が呼んだから」


「は?」


 桜子は俺に胸を踏まれたまま睨んで来る。


「何で?」


「まあ、さすがにちょっと飽きたからな。お前と二人きりだけだと」


「ぶっころ」


「俺じゃなくて、読者がな」


「何の話よ」


「こっちの話だ」


「ねえねえ、こーニャン。あたしもさくらニャンのおっぱいふみふみしても良い?」


「良いよ」


「ぶっ殺すわよ、クソ猫」


 桜子はむくっと起き上がった。


「ひどいのニャン。あたしはさくらニャンのことが好きなのに」


「ちっ、私と光一の聖域が一気にネコ臭くなったわ」


「おい、桜子。言い過ぎだ」


「こ、光一……ごめんなさい」


「ニャハハ! ざまぁニャン」


「はぁ?」


 こめかみに青筋を浮かべた桜子がコンパスを構える。


「ねえ、光一。殺して良い? このメス猫を殺しても良い?」


「落ち着け、桜子。萌葱は俺たちの友人だろ?」


「違います」


「ああ、そうだったな。俺たちのペットだ」


「ニャン♡ ゾクゾクするのニャン♡」


「ちっ、変態ネコが」


「さくらニャンこそ、彼氏におっぱいを踏まれて興奮するドMのド変態なのニャン」


「あなた、私のことが好きとか言っておきながら、さっきからディスってばかりじゃない。殺されたいの? そうよね?」


「桜子、久しぶりにヤンデレっぽいぞ~」


「だって、だって~! せっかく光一と2人でラブラブしていたのに、こんなメス猫がやって来るんだも~ん!」


「全く、さくらニャンは子供なのニャン。おっぱいばかり立派に成長して」


「黙りなさい、クソ猫」


「ていうか、噂だとJカップになったって聞いたけど。重くないのニャン?」


「平気よ。元から、私の胸は光一への愛でいっぱいだから」


「重いわ~」


「もう~、何でそんなこと言うの! 二人きりの時は、あんなに甘いセリフばかり吐いてキュン死させまくってくれたのに~!」


「桜子、うるさい」


「ガーン……」


 桜子はへなへなと座り込む。


「ニャハハ! またしても、ざまぁ」


「グギギ……このメス猫のはらわたを掻きむしってやりたい」


「そうしたら、あたしも仕返しするのニャン」


 バチバチ、と二人が睨み合う。


「じゃあ、萌葱。今からゲームをしようぜ」


「ニャン?」


「お前、今からニャンニャン語以外の言葉を使うの禁止な」


「ニャンッ!?」


「約束を破ったら、尻を叩くからな。こいつで」


 俺はハエ叩きで手の平をビシビシと打つ。


「ニャ、ニャ~……」


「じゃあ、ゲームスタートな」


「ね、ねえ、光一。私は何をすれば良いの?」


「ん? 受験勉強でもしていれば?」


「なっ……放置なの? まさかの放置プレイなの?」


「ほら、萌葱。ご主人様にお願いごとを伝えてみろ」


「ニャッ、ニャンニャンニャ~ン」


「分からねえよ、グズが」


「ニャンッ!? ニャニャニャ~ン!」


「泣くな、笑えよ。せっかくの可愛い顔が台無しだ」


「ニャフ~ン♡」


 萌葱は正に猫のように、ゴロゴロと床を転がる。


「ちょっ、痛っ! 当たって来ないで、メス猫!」


「ニャニャニャ~ン」


「何よその顔、マジでムカつくわね」


「ニャニャニャ、ニャニャニャニャニャ~ン。ニャニャニャ」


「はぁ?」


「ニャププ」


「今のは分かった。絶対にバカにしたでしょ?」


「なるほどな」


「光一?」


「桜子は乳がデカいだけのメンヘラ女だってさ」


「ニャンニャ~ン♡」


「せいか~いってか? ぶっ殺す……もうぶっ殺しても良いわよね?」


「おい、桜子。勝手に俺さまのペットを殺したら承知しないぞ」


「こ、光一さま……でもでも、このメス猫がとってもウザいの!」


「知らねえよ」


「何で!?」


「あ~、喉かわいたな~。桜子、悪いけどちょっと下から飲み物を取って来てくれ。もう、俺の家も我が家同然だろ?」


 俺が言うと、桜子は黙ってスクっと立ち上がる。


 そのまま、部屋から出て言った。


「萌葱、今だけ人間の言葉を喋って良いぞ」


「どうしたのニャン?」


「桜子が包丁を持って来るかどうか、賭けるか」


「ニャハハ、さすがにそれはないのニャン。いくらさくらニャンが巨乳、いや爆乳のメンヘラビッチでも」


「そう思うだろ?」


 ギイイイィ、とドアが開く。


「えっ……」


 そこには、包丁を手に持つ桜子がいた。


「さ、さくらニャン? マジで包丁を……」


「あっ、いーけないんだ。ニャンニャン語しか喋っちゃいけないルールだったでしょ?」


「いや、今はこーニャンに許されて……」


「もうそのタイムは終了しているから」


「えっ」


「じゃあ、罰ゲームとして、私が制裁を加えましょう」


「ちょ、ちょっと待つのニャン。お尻を叩くだけでしょ? 何で包丁を持って近付いて来るの? こーニャン止めて!」


「ふぅ、まあ、愛する女に殺されて死ぬのも一興か」


「何を呑気なことを言っているのニャン!?」


「うふふふふ……そうね、光一が居なくなれば、私はこんなにも苦しまないで生きて行けるわ……うふふふふ」


「怖い怖い怖い怖いのニャン!」


 そして、桜子はとうとう、俺と萌葱が座るベッドのそばにやって来た。


「じゃあ、ショータイムと行きましょうか」


「ひいニャアアアアアアアアアアアアアアァン!」


 桜子は天井に向って包丁を突き上げる。


 先端が証明を受けてギラリと光った。


 そして、彼女はもう片方の手でリンゴを持つ。


「へっ?」


「はいっ! はいはいはいっ!」


 見事な手さばきでリンゴの皮を剥き切った。


 ちなみに、俺はその皮を手の平で受け止める。


「知っているか? 昔の人は友情を確かめるために、お互いのウ◯コを手の平で受け取っていたそうだ」


「ちょっと、光一。その例えはやめて」


「すまん」


「な、何なのニャ?」


「ああ、すまん、萌葱。冗談だ」


「ニャ~!?」


「うふふ、いつも調子に乗っているメス猫を懲らしめることが出来て、嬉しいわ」


 桜子は笑って言う。


「ま、まさか、初めからこのつもりであたしを呼んだのニャン?」


「いや、全部とっさのアドリブだ。なあ、桜子?」


「ええ、その場のノリね」


「な、何という鬼畜カップル……もう二人とも、人類のために死んでもらった方が……」


「それも一理あるな」


「じゃあ、可愛いメス猫ちゃんも道連れにしましょう」


「嫌なのニャン!」


 この後、3人で仲良くリンゴを食べた。


「あっ」


「どうしたの、光一?」


「桜子って、何でも皮を剥くのが上手だよなってギャグを、さっき言えば良かった」


「バカじゃないの?」


「ニャハハ」




 鬼畜カップルと可愛いメス猫ちゃん 完








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