67 愛する彼のために尽くす

「ねえ、光一。お願い、あともう1回だけ」


「けど、お前。受験勉強は……」


「良いの、むしろ光一に思い切りしてもらって、スッキリした方が勉強も捗るから」


「そうか……分かったよ」


 何だかんだ、優しい彼は私のワガママを聞いてくれた。


「あんっ♡」


 私はこの時、自分が気持ち良くなることばかりを考えていた。


 我ながら、最低だと思う。


 そのせいで……


「光一、大丈夫?」


 彼の家にやって来た。


「ああ、悪いな。わざわざ見舞いに来てもらって」


 彼はベッドに横たわっていた。


 腰を痛めてしまったらしい。


 最近、仕事の関係でずっと座りっぱなしだったから、腰に負担がかかっていたようだ。


 その上で、私が散々エッチを求めたせいで……


「何も価値がないな」


「えっ?」


 ベッドのそばで彼を見つめていた時、ふいにそんなことを言われた。


「こんな状態じゃ、お前とエッチをしてやれない。エッチが出来ない俺なんて、何も価値がないよな」


「そ、そんなことないわよ」


「桜子、ごめんな」


 キュン、と胸の奥が疼く。


「……どうして、あなたが謝るの? 悪いのは私なのに」


「ハハ、こんな体たらくじゃ、本当にお前を誰かにNTRされるかもな」


「もう、冗談でもそんなこと言わないで」


 私は光一の頬に触れて、それからキスをした。


 私の方から仕掛けたのだけど、途中から彼の舌が自在に動き回って、すぐに主導権を奪われてしまう。


「ぷはっ……や、やっぱり、すごい」


 私は一瞬の内にとろけてしまう。


「ああ、そうだな。例え本番が出来なくても、お前に喜んでもらえる方法はいくらでもあるな」


「そうよ……ねえ、私をどうしたい?」


「とりあえず、乳を吸わせろよ。服の上からで構わないから」


「はい、あなた……」


 つい、そんな呼び方をしてしまう。


 傷付いた夫に尽くす献身的な妻のようになりたくて。


 ちゅうううぅ、と嫌らしい音が立つ。


「んっ、はっ!……こ、これも上手過ぎて、ヤバい……」


「ごめんな、可愛い服を汚してしまった」


「良いわよ、全然」


「桜子、ちょっと指を見せて」


「え、指?」


 私は言われた通りに指を差し出す。


 彼は繊細な手つきで触れてくれた。


「やっぱり、きれいだな。正に桜のように儚くて、お前らしい」


「て、照れちゃう」


「舐めても良い? 少しだけ」


「う、うん、良いよ。好きなだけ、どうぞ」


 私は言う。


 彼は優しく微笑んで、ちゅっとキスをしてから、私の指を軽く口に含んだ。


「んっ……何コレ、ゾクゾクする……」


 彼は舌ではなく歯を立てて指を甘噛みする。


 指のお腹の部分は神経が過敏だから、絶妙な力加減で刺激されると……


「あッ、やッ、あッ、はぁん!」


 声を上げてしまう。


「はぁ、はぁ……他の平凡な男と本番エッチをするよりも、100倍すごいと思うわ」


「何だ、俺の知らない内にNTRされていたのか」


「た、例え話よ! もう、バカ!」


「けど、アレだな。今さらだけど、お前って本当に良い女だよな」


「えっ?」


「だから、誰にも渡したくない。お前は俺の物だって証を、一つ一つ、この体に刻んでやる」


 胸の奥底がひどくゾクゾクした。


 軽く動悸を覚えてしまう。


「ど、どうやって刻むの?」


「少し痛い位の方が、Mなお前は嬉しいだろ?」


 いつもなら、怒っちゃう所だけど……


「……お願いします、光一さん」


 私がそう言うと、彼はまた優しく微笑んでくれた。


「愛しているよ、桜子」


 その一言を皮切りに、私は理性を失った。


 やっぱり、どうしても彼と本当に繋がりたくて。


 なるべく彼に負担をかけないように、努力しながら。


 二人だけの幸せな時を噛み締めていた。




      ◇




 汗だくになった私は、彼に抱き締められていた。


「ありがとう、桜子。すごく気持ち良かったよ」


「ほ、本当に?」


「ああ。エッチが上手になったな」


「う、うん。私も、こっそり勉強しているから」


「へぇ、やっぱり可愛いな、お前」


 私は嬉し過ぎて、何も言い返すことが出来ない。


「あ~、今すぐに役所に行きたい」


「え、医者じゃなくて?」


「婚姻届けをもらって、さっさとお前を俺の嫁にしたい」


「ズキュン……かっこよすぎ」


「そうか? 欲望がダダ漏れでごめんな」


「大丈夫。むしろ、普段から私の方が漏らしちゃっているから」


「学校でバレるなよ? 一応、替えのパンツを持っておけ」


「常時3枚あるわ」


「俺の知らない間に、随分とエロい女になっていたんだな」


「誰のせいだと思っているのよ?」


「俺さま?」


「光一さま♡」


 また彼とキスをする。


 もし、誰かに見られたら、甘々のバカップル、あるいはバカ夫婦って言われるだろうけど。


 今の私にとって、それは何よりも褒め言葉だと思っていた。







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