63 繋がっている二人

 夜。


 一人で勉強に励んでいた。


 目指すは国立の難関校。


 私の成績なら、問題なく合格を目指せるレベルだと、先生たちからも太鼓判をもらっている。


 けれども、決して慢心することはない。


 気を引き締めて本番に向けての準備を整えて行く。


 特に、ここ最近は大好きな彼と色々遊んでしまったから。


 それから、鬱陶しいメス猫とも。


「……ふぅ」


 私がひと息ついた時、スマホのLINE電話が鳴っていた。


「もしもし?」


『桜子か?』


 彼の声を聞いて、私は胸が高鳴る。


 けれども、今は受験勉強中。


 気を落ち着けて、


「あら、光一。どうしたの?」


 澄ました声でそう言った。


『勉強をしていたのか?』


「ええ。光一は?」


『ああ、シコっていたよ』


「は?」


 私は思わぬ言葉に目をパチクリとさせる。


『お前のことを想ってな』


「な、なな、何を言っているのよ!」


『ちなみに、今ちょうど3回目が終わったところ……んっ……だ』


「あ、あなた、バ、バカじゃないの!?」


『あ、そうだ。ちょっと息抜きをしないか?』


「い、息抜きですって~?」


『今から、俺が指示を出すから。桜子はその通りにするんだ』


「ふ、ふん。変態の言うことなんて聞かないわよ」


『俺はお前の彼氏だろ? 言うことを聞いてくれよ』


 どうしよう、拒絶しなくちゃいけないのに……


 彼の声を聞くだけで、ゾクゾクしちゃう。


「……ちょ、ちょっとだけよ」


『ありがとう、桜子。じゃあ、おっぱいを触って』


「い、いきなりなの?」


 私は文句を言いつつも、言われた通り自分の胸に触れた。


『それから、揉んで』


「こ、こうかしら……?」


 私は手探りで自分の胸を揉む。


『何かぎこちないな。お前、一人エッチしたことないのか?』


「お、教えない」


『まあ、良いけど。あっ、いきなり先端は触るなよ。まずはじっくりと、周りからな』


 私はギクリ、としてしまう。


「べ、別に、そんな所なんて触らないわよ」


『そうか。ちなみに、Iカップだっけ?』


「そうだけど……正直、最近ちょっとキツいの」


『ブラが?』


「ええ」


『じゃあ今度、俺が見立ててやるよ。お前にピッタリのブラをな』


「それは嬉しいけど、女性下着の店に入って恥ずかしくない?」


『そんなヤワなメンタルじゃ、お前の彼氏なんて務まらないさ』


「どういう意味よ?」


『それはさておき、今度は指を舐めてくれ』


「ゆ、指を舐めるって、そんな子供じゃあるまいし」


『良いから、言う通りにして?』


 いつもよりも優しい彼の声にほだされて、私はつい言う通りにしてしまう。


「んっ……あっ……」


『良いね、エロいよ』


「こ、こら」


『もうちょっと、音を出せる?』


「こ、こうかしら?」


 私は少し唾液を絡ませて音を出す。


『うん、良いね。この前、俺のを咥えた時も、同じ音を出してくれたよね』


「バ、バカ!」


『もっと、嫌らしい桜子を聞かせて?』


 本当に何で、私はこんな男のことを好きになってしまったんだろうか。


 いつも、私に恥ずかしい思いばかりさせて。


 けど……


「……好き」


 私は言う。


「光一のことが……好き……あっ……好き」


 いつの間にか、彼に指示を待たずして、自分自身を弄っていた。


『桜子』


 彼の声でハッとする。


「ご、ごめんなさい。暴走してしまって……」


『可愛いよ、俺も大好きだ』


 胸がキュンと締め付けられる。


『本当はお前と一緒の大学に行きたい』


「じゃ、じゃあ、今からでも一緒に目指しましょう? 私がマンツーマンで指導をしてあげるから」


『ありがとう。けど、やめておくよ』


「何で?」


『前にも言ったけど、お互いにあまり依存し合うのはよくない。俺たち自身が、それぞれ強くならないと』


「光一……」


『その方が、むしろずっと一緒に居られると思うんだ。例え離れ離れになって、お前が大学で他の男にNTRされても』


「ちょっ、何てこと言うのよ!」


『心は繋がっているから。大丈夫だ』


 何でいつもは真剣にふざけているのに……今日は真剣に真剣なのよ。


「……バカ」


『ひどいな。お気に召さないかな?』


「何で、あなたはいつも私の心を掻き乱すの?」


『俺がお前のことを愛しているからだよ』


「……私も、愛している」


『じゃあ、キスしようか』


「どうやって?」


 すると、スピーカー越しにちゅっ、と音が聞えた。


『おやすみ、桜子』


 そのまま、私が何も言わない内に、通話が途切れた。


「……何よ、本当に自分勝手な男」


 私はスマホに目を通して言う。


「……頑張ろう」


 まずは勉強をきちんとする。


 それから寝る前に、少し火照った体を冷まそう。


 彼のことを想いながら。







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