60 彼女がかまってくれないので、仕方なくペットと遊ぶ

 今日と言う休日もまた、桜子と一緒に勉強……かと思いきや。


『……ご、ごめんなさい。しばらく、一人だけで勉強をさせて』


 この前一緒に勉強をした時、なぜか机にグッタリと突っ伏しながら桜子はそう言った。


 そして、俺は一人で勉強をしようと思ったのだけど、やっぱり捗らなくて。


 気ままに散歩に出て来た。


 今日は春のポカポカ陽気だ。


 そんな道を歩いていると、何だか眠くなってしまう。


 公園のベンチで軽く寝ようかな。


 そんなことを考えていた時。


「こーニャン♡」


 すると、背後からむぎゅっと抱き付かれた。


「お、このおっぱいの感触は……要石か」


「正解♡ さすがこーニャンだニャン♡」


「ていうか、その呼び方の時点でモロバレだ」


「ニャハ~ン。あれ、さくらニャンは一緒じゃないのかニャ?」


「あいつは一人で勉強をがんばっているよ」


「へえ、さすがだニャ~。それで、こーニャンは一人ぼっちなのかニャン?」


「ああ、そうだな。けど、元々俺はぼっち君だったから、むしろ落ちつくな」


「へぇ~、そうなんだ」


「だから、もう帰って良いぞ、要石」


「ひどいのニャン! せっかくだから、あたしに構うのニャン!」


「え~、面倒臭いなぁ」


「本気で嫌そうな顔をしないで欲しいのニャ。傷付く」


「すまん、すまん。まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。ちょっと遊ぶか」


「本当に~?」


「ああ。たまにはペットも可愛がってやらないと、ふて腐れて面倒だからな」


「もう~、だからペットって……まあ、良いか」


「切り替えの早い奴だな。まあ、嫌いじゃないが」


「で、どこに行くのニャ?」


「公園に行こうと思っていたんだけど」


「良いねぇ、行こう」


 要石は俺の腕に抱き付く。


「鬱陶しいから離れろ」


「もう、本当に最低なのニャン♡」


 罵倒されても喜ぶこいつは、桜子に匹敵するドMか、あるいは本当にバカなのだと俺は悟った。




      ◇




「秘技・ムーンサルトキャッチ!」


 要石は見事な跳躍力を見せて、正に三日月のごとく身を反って宙を舞った。


 そして、その辺に落ちていたゴムボールをキャッチする。


「おー、すごいなぁ」


「どうだニャン? さくらニャンと居るよりも、あたしと居る方が楽しいのニャン?」


「いや、まだ桜子の方が上だな。あいつは本当にいじめ……からかうのが楽しいから」


「いま、絶対にいじめるって言いかけたのニャ」


「はは、気のせいだよ」


「まあ、良いけど。じゃあ、あたしのこともいじめて♡」


「そう言われてもなぁ……ん? おい、要石。お前、いつの間にそんな首輪を付けているんだ?」


「今さら気付いたのニャ? もう、こーニャンはにぶチンだニャ~」


「黙れ、メス猫」


「うぅ、ゾクゾクするニャ~♡」


「そんな首輪を見せられると、散歩がしたくなるなぁ」


 俺は言う。


「フフフ、ちゃんと用意してあるのニャ」


 なぜか不敵に微笑みながら、要石はパイスラしていたバッグからヒモを取り出す。


「それは……リードか?」


「そうニャ。大好きなこーニャン様に散歩してもらいたくて、一式をそろえたのニャン」


「その入手ルートは……あえて聞かないでおこう」


「ニャハハ♡」


「で、俺はどうすれば良い?」


「もう、こーニャンの思うがままに」


「そうか」


 俺は要石に歩み寄ると、首輪にリードを繋ぐ。


「あっ……もう、コレだけでゾクゾクしちゃうのニャ♡」


 要石は軽く飛びそうな目をした。


「おい、繋いだだけでこれとか、どんだけだよ」


「ご、ごめんなのニャ。ちょっと感激しちゃって」


「お前もド変態だな。桜子に匹敵するぜ」


「ニャフフ。さくらニャンよりも、あたしの方がえちえちだよ~?」


「ほう、ならば証明して見せろ」


「もちろんだニャ」


 俺と要石はなぜかお互い不敵に微笑み合った。




      ◇




 物陰から、二人の様子をこそっと覗き見ていた。


「……あの泥棒猫め」


 猫猫しい彼女に対する怒りを覚える。


 けど、何よりも……


「……光一、ぶっ殺す」


 桜子は確実に獲物を仕留めるため、あえて殺気を封じ込めながら、そう言った。







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