55 波乱の新学年

 4月。


 新たな出会いの季節。


 けど、俺のとなりには、今も彼女が居てくれる。


「良かった、また光一と同じクラスで。もし違っていたら、死んでいたわ」


「メンタル弱いなぁ」


「何よ、光一は寂しくないって言うの?」


「だって、昼休みとか放課後はいつも一緒だし。何なら、寝る時まで」


「やだもう、バカぁ!」


 桜子は笑顔で俺の背中をバシバシと叩く。


 鉛筆を持たないだけマシか。


「おやおや、バカップルがイチャついているのニャン」


 その声に、俺よりも桜子が過敏に反応した。


「よう、要石じゃねえか。何でお前がここにいるんだ?」


「おいおい、こーニャン。ちゃんと新クラスの掲示を見たのかい? ちゃーんと、もえニャンの名前も載っていたっしょ? ニャンニャン♡」


「すまん、全く眼中になかった」


「ニャッ……ひどいのニャ~!」


 要石が喚く一方で、


「ちっ……何でこのメス猫も同じクラスなのかしら。最悪だわ」


 桜子がボソッと呟く。


「おや、さくらニャン? 何か言ったのニャ?」


「死になさい、クソ猫」


「少しは感情を隠せよ」


 俺は軽く突っ込んだ。


「だって、だって~! せっかくまた光一と同じクラスになれたのに、こんな不純物が混じるなんて最悪なんですけど~!」


「桜子さん、興奮して語尾がギャルっぽくなっているぞ」


「ニャハハ、さくらニャンがギャルとか似合わないのニャ~」


「このメス猫、引き裂かれたいの?」


「ニャフフ、逆に引っ掻き回すよ?」


 桜子と要石が対峙する。


 俺は傍からその様子を見ていたのだが、


「ちくしょう、さくら嬢だけじゃなく、もえニャンまで……」


「何で春日ばかり……」


「もげろ……」


 男子たちが泣きながら愚痴をこぼしていた。


「おい、要石」


「ニャン?」


「俺には桜子が居るから、お前は他の男子を癒してやれ」


「こ、光一……」


「か、春日大明神……」


 桜子と、それからクラスの男子どもが感激したように俺を見つめる。


「え、嫌ニャ」


「はっ?」


「「「なっ……!」」」


 桜子はきつく眉根を寄せた。


 男子どもは白く染まって口をあんぐりと開ける。


「だって~、せっかく愛しのこーニャンと同じクラスになったのニャン。これはもう、大チャーンス、ということで……」


 ふいに、要石がスレンダーながらも豊かなその胸を俺の顔面に押し付けた。


「ふぐっ」


「ニャハッ♡」


「なッ……!?」


 桜子が驚愕に目を見開く。


 男子どもは既に息絶えていた。


「うりうり~、あたしのおっぱいの味はどうなのニャ~?」


「……あれ、何か前よりも大きくなった?」


「正解♡ さすがこーニャン。ちなみに、何カップだと思う?」


「桜子がIカップだから……G……いや、もしかしてHか?


「また正解ニャン♡ そう、この春休みに、頑張ってぱいトレをして成長させたんだよ♡」


「へえ、その上でしっかりとクビレは保っているし。お前、やるなぁ」


「本当にぃ? わーい、こーニャンに褒められたのニャ~ン!」


 要石がまたムギュっと俺を抱き締める。


「こ、光一! 何でそのメス猫のことを褒めるのよ!?」


「いや、まあ、事実だし。安心しろ、桜子。俺にはお前だけだ」


「だったら、今すぐその汚らわしいメス猫を引き剥がしなさい!」


「ニャハハ! 絶対に離れないのニャ~! もうあたしの匂いをこーニャンに染み込ませたらニャ~。さくらニャンがこーニャンとエッチする時も、常にあたしの顔がチラつくこと請け合いなのニャ~ン」


「ぶっ……ぶっ殺す! 今すぐに光一から離れなさい、このメス猫がぁ!」


 桜子はビンタを繰り出すも、要石は身軽にひょいとかわす。


「ニャハハ! 遅いのニャン」


「くっ、このメス猫め……」


「落ち着け、桜子」


 俺が肩に触れて止めると、桜子が涙目で振り向く。


「もう、誰のせいだと思っているのよ、バカ! ていうか、何気に私のカップ数をみんなにバラしてんじゃないわよ!」


「安心しろ。男子どもは気絶しているから」


 俺は言う。


「ねえ、聞いた。桜子ちゃん、Iカップあるんだって~」


「すご~い、大きい~」


「きっと、春日くんのエロテクで可愛いがられまくっているからよ~」


 女子たちがニヤつきながら、井戸端会議の奥様ばりに言い合っていた。


「なっ……なっ……」


 その様子を見て、桜子の顔がみるみる内に真っ赤に染まって行く。


「何でこうなるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」


 桜子は叫んだ。


「あ、今思ったけど。桜子の叫び声ってゾクゾクするよな」


「ニャハハ、こーニャンはドSなのニャン♡ その調子で、あたしのことも苛めて欲しいのニャン♡」


「え、嫌だよ。お前はあまり苛めがい無さそうだし」


「そんなこと無いのニャン……あぁ~ん、ご主人様ニャ~ん!」


「二人で何を勝手にくっちゃべってんのよ、バカぁ!」


 新3年生になって早々、桜子さんはご乱心だった。







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