51 最高の時間

 俺は駅前で彼女の到着を待っていた。


「お待たせ、光一」


 呼ばれて振り向く。


「来たか、桜子」


「ごめんなさい、待った?」


「いや、今来たところだよ……そんなことより、顔が赤いけど大丈夫か? もしかして、熱があるのか?」


「ううん、そうじゃないの……これは……」


 モジモジとしながら下半身に触れる彼女を見て、俺はすぐに察する。


「どうやら、俺の言い付けはちゃんと守っていたようだな。偉いぞ、桜子」


 俺は彼女の頭を撫でて言う。


「ズキュン……こ、光一はちゃんと守ったの?」


「確かめてみるか?」


 さわっ。


「……す、すごい」


「これ、後でお前が受け入れるんだぞ? 大丈夫か?」


「む、無理かも……」


「無理とか泣き喚いても、止めてやる余裕がきっとないぞ?」


「ヤ、ヤバすぎる……」


 桜子は頬を赤らめてすっかり顔を俯けてしまう。


「じゃあ、行こうか」


 俺は少し頼りない彼女の手を優しく握った。


「……うん」


 それから、雪が舞う中をひた走る電車に乗った。


 揺られる間、俺たちはあまり会話をしない。


 けれども、お互いにずっと手を握り締めていた。


 そして、目的地の旅館にやって来る。


「ようこそ、おいで下さいました」


 折り目正しい女将さん並びに仲居さんたちが出迎えてくれる。


「お世話になります」


 俺が言うと、桜子も隣でペコリとする。


 それから、部屋に通された。


「どうぞ、ごゆっくり」


 ふすまが閉まる。


「ねえ、ここすごく良い旅館だけど……お金は大丈夫なの?」


「ああ。俺のバイト代と、それから親に支援もしてもらったから」


「親御さん、よくお金を出してくれたわね」


「将来、死ぬほど結婚したい良い女のために、最高の時間をプレゼントしたいんだ……って説得したら、喜んで出してくれたよ」


「こ、光一♡」


「ちなみに、お前の両親も出資者な」


「こ、光一!?」


「ほら、お前の両親も了承済みの旅行だって言っただろ?」


「あなたって……やっぱり底知れないわね」


「そんなことないよ。ただ、お前を喜ばせたいだけだ」


「光一……」


 桜子は俺を見つめる。


「ねえ、もう限界だから、早くしよ?」


「いや、もう少し待つんだ。まずは旅館の雰囲気をしっかり味わい、風呂に浸かり、美味しい夕食を食べた後に……な?」


「もう~、まだ焦らすの~?」


「桜子、俺を信じろ」


「死ぬほどカッコイイ……もう、ズキュンが止まらない」


「キスとか乳揉みもお預けだけど……手は繋ごうか」


「うん……」


 俺は桜子とそっと手を重ねる。


 指先で、彼女の指を軽く弄ぶ。


「あん、あっ……」


「おっと、いけない。つい本気を出しそうになってしまう」


「出して良いよ?」


「まだダメだ」


「もうケチ」


 しばし、ゆっくりとした時間を過ごした。




      ◇




 浴衣姿の二人はくっついた布団の上で見つめ合っていた。


「きれいだよ、桜子。やっぱり、良い女は浴衣が似合うな」


「ど、どうしたの、光一? この前のクリスマスから優し過ぎる」


「まあ、俺もちょっとドS過ぎたなって反省していたんだ。だから、クリスマスと年末年始くらいは、素直になろうかなって」


「光一……」


「桜子、俺はお前のおかげで変われた。平凡で冴えないボッチだった俺が、お前と出会って変われた。おかげで、今の学園生活が、人生が、すごく楽しいよ」


「……やだ、泣きそう」


「良いよ、泣いても」


「ダメ、光一のカッコイイお顔が見れなくなっちゃう」


「可愛いな、お前」


 俺は桜子を抱き寄せる。


「あっ……」


 そのまま、キスをした。


 お互いに凄く溜まっていて、今にも爆発寸前。


 けれども、その状態をずっと保っていたせいか。


 今は、むしろ普段よりもすごく落ち着いていた。


 だから、いきなりがっつくことはなく、お互いを気遣うように、優しく出来る。


「……ぷはっ……し、幸せ」


「本番はこれからだぞ? 横になって」


「はい……」


 桜子は言われた通り、布団の上で横になる。


「じゃあ、これから極上の演奏会がスタートだ」


「え、演奏会?」


 俺はまるでピアノの奏者のように、指先を立てて桜子に触れた。


「あっ……何コレ、すごくドキドキする」


「じゃあ、行くよ?」


 いつぞやも、俺はピアノの奏者になった気分で、極上の楽器たる桜子を奏でた。


 その時よりも繊細かつ大胆に、何よりも情熱と愛情を込めて、俺は桜子の体を奏で愛でる。


 桜子ははしたなく叫ぶことはしない。


 その一つ一つの声が上品で、けれども決して貧弱じゃない。


 この最高の女と戯れることが幸せ過ぎて、俺は何度も頂点に達しようとした。


「……はぁ、はぁ」


 まだほとんど動いていないのに、桜子はすでに汗だくだ。


「……ごめんな、せっかく温泉に浸かったのに」


「……平気よ。後でまた入るから」


「……じゃあ、その時は、個室の露天風呂を借りよう」


「……そ、そんなのもあるんだ。さすがは高級旅館ね」


「……じゃあ、今度はうつ伏せになって。お尻を向けて」


「……はい」


 俺は決して強要することなく、桜子もまた屈している訳じゃない。


 お互いに最高の形が見えているから。


 苦も無く受け入れて、どこまでも二人で昇って行けるのだ。


 それから、俺と彼女の演奏は3時間を超えた。




      ◇




 チャプ、と水面の弾ける音がした。


「桜子、ありがとう」


「えっ?」


「すごく、楽しかったよ」


「私も……信じられないくらいに気持ちが良くて、最高に幸せだったわ」


 俺と桜子は二人きりで、誰も邪魔をしない混浴風呂を楽しんでいた。


「桜子のおっぱいもお尻も……最高だったよ」


「あんっ……ダメ」


「ちゃんと、スッキリ出来たか?」


「……うん。光一がすごく上手だから。もう天才ね、あなたは」


「今日は今まで以上に本気を出した……いや、出せたからな。もしかしたら、二度とこんなエッチは出来ないかもしれない」


「じゃあ、もういつでも二人で死ねるわね」


「ああ、そうだな。けど、出来ることなら、お前とちゃんと結婚がしたい」


「私も……あなたの妻になりたい」


「こんな変態な夫だけど、良いのか?」


「あなたしか居ないの……」


 俺と桜子は抱き合い、キスをする。


 ずっと、二人だけのこの時間が続いて欲しいと、切に願った。







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