50 穏やかなクリスマス

 冬に入ってからは、ひたすらに勉強をしていたように思う。


 学校の勉強が2割。桜子さんの体の勉強が8割。


 そのおかげで……


「あぁ~ん!」


 最近では秒で桜子を昇らせるようになっていた。


「……はぁ、はぁ」


「水、飲むか?」


「……い、いらない。ちょっと休ませて」


「あいよ。そういえば、もうすぐクリスマスだな」


「……そ、そうね」


「俺、楽しみにしているんだよ。彼女と過ごすクリスマスなんて初めてだから」


 そう言うと、桜子がむくりと起き上がる。


「私もよ」


 そして、ちゅっとキスをした。


「当日のプランは、全て俺に任せてくれないか?」


「本当に? 良いの? 何か怖いけど」


「大丈夫だよ。むしろ、怖くない」


「本当にぃ?」


「ああ、その日は一つのルールを設けることにしたから」


「何よ、怖い」


「そんなことはないよ。その日は、エッチなことを禁止するだけだから」


「ああ、何だそんなこと……えっ?」


「どうした、桜子さん?」


「えっ、いや、その……クリスマスでしょ? その、普通は……」


「桜子」


 俺は彼女の柔肌に触れる。


「俺を信じろ。絶対に興奮させるから」


「こ、興奮って。エッチなことは禁止なのに?」


「信じろ」


「こ、光一さん……分かりました」


 桜子は素直に頷いてくれる。


「じゃあ、そういうことで」


 俺は微笑んでそう言った。




      ◇




 クリスマス。


 イルミネーションがとてもきれい。


 けれども……


「桜子、今日は一段ときれいだな」


「へっ?」


「まあ、言うまでもないけど。この街を歩ているどの女よりも、お前が一番きれいだよ」


「ど、どうしたの、光一?」


 桜子は目を丸くする。


「本当のことを言ったまでだよ」


「あれ、私は夢を見ているのかしら? 光一がこんな風に素直に褒めてくれるなんてあり得ないもの」


「今日はクリスマスだからな」


「そ、そうなの……ズキュン」


「その効果音も可愛いな。もっと色々なバリエーションを聞かせてよ」


「ズキュ~ン!」


 桜子は胸を押さえながら肩で息をする。


「ハーハー……や、やばい。エロいこと何もされていないのに、もう息が苦しい……おかしくなりそう。まさか、コレが狙い?」


「いや、違うよ。むしろ、今日はお前をそんな風に苦しめたくない」


 俺は桜子の背中をさすってあげる。


「少し、呼吸が落ち着くまで待とうか」


「こ、光一……本当にどうしたの?」


「いつもと違って気持ち悪いか?」


「そんなこと無いわよ……すごくドキドキするけど、何か裏がありそうで怖い」


「まあ、隠していることはある」


「ほら、やっぱり」


「けど、絶対にお前をガッカリさせない」


「予告サプライズ?」


「さあ? 後でのお楽しみだ。ほら、行くぞ」


 俺は桜子の手を引く。


「うん」


 桜子は半ば戸惑いつつも、頬を赤く染めて俺に寄り添ってくれた。




      ◇




 少し贅沢なディナータイムだった。


 俺は桜子と他愛もない話をして楽しんだ。


 桜子もいつになく穏やかな表情で楽しんでくれていた。


 プレゼントに指輪をあげた。


 本物の指輪に比べたら全然安物だけど。


 それでも、彼女はとても喜んでくれた。


「……ああ、幸せ。今日はとても楽しかったわ」


 俺と手を繋ぎながら桜子は言う。


「俺もだよ。こんなに穏やかな気持ちなのは久しぶりだ」


「ていうか、あなたって結構キャラが変わったりするわよね」


「俺みたいな平凡な男がお前みたいな良い女をモノにしておくためには、あの手この手と色々手を尽くさないとダメなんだ」


「光一……そんな苦労をしていたのね」


「苦労なんてことはないさ。好きでやっていることだから」


「ねぇ、今日はエッチなことをしないって約束だったけど……」


 桜子は俺を見つめる。


「せめて、キスくらいはさせてちょうだい」


「うん、良いよ」


 俺は桜子とそっと唇を付け合う。


「……もう1回」


「ごめん、今日は我慢してくれ」


「どうしても?」


「ああ、すまない」


「ううん、良いよ」


 桜子は微笑む。


「たまには、こういったテイストも良いわよね」


「そうだ、桜子。ここで予告サプライズを解禁しても良いか?」


「あ、そうだった。何をしてくれるのかしら?」


「うん、コレ」


 俺はピラ、と2枚の券を見せる。


「え、それは……」


「良い感じの旅館を見つけたんだ。年末年始はここで二人で過ごそう」


「何それ、嬉しい……でも、そんな急に困るわよ。両親の許可も必要だし……」


「安心しろ。既にお前の両親に許可はもらっている。もちろん、俺の両親にもな」


「な、何て根回しの良さ……」


「だってさ、年末年始はどうしても桜子と二人きりで過ごしたかったから」


 俺は握っていた桜子の手をすっと自分の方に寄せる。


「えっ?」


 俺のモノに触れて、桜子は少し戸惑う。


「本当は今すぐにでもメチャクチャしたい。全国のカップルみんな、普通はクリスマスにエッチする。けど、俺はあえてしない。溜めて、溜めて、一気に解放したい」


「こ、光一……」


「俺のワガママに付き合ってくれるか?」


「そ、そんなの……嬉しい」


「じゃあ、オーケーだな?」


「もちろんよ」


「ちなみにだけど、その日までお互いに禁欲な」


「えっ」


「エッチは禁止だし、一人でするのもダメな」


「だ、大丈夫かしら……今の時点でズブ濡れなんだけど」


「俺もだよ。まあ、パンツなんて汚れるものだから、仕方ない」


「そ、そうね」


「じゃあ、帰ろうか」


「ほ、本当に今日はエッチなし?」


「うん。溜めようぜ」


「正直、かなり辛いけど……我慢する」


「ありがとう、桜子」


 お互いに下の方は爆発寸前だったけど、心は穏やかだった。







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