45 俺だけの舞妓

 修学旅行の2日目の朝。


 今日は待ちに待った京都での自由行動だ。


「よし、桜子。行くぞ……ん、どうした? 何だかクマが凄いぞ?」


「……もう死にたい」


「おいおい、楽しい修学旅行はここからが本番だぞ? もっと笑えよ」


「……もう少し時間をちょうだい」


 桜子はズーンと重石を背負ったまま言う。


「はぁ、分かったよ。じゃあ、手でも繋ぐか」


「ズキュン」


「あ、反応した」


 そして、俺は桜子と京都の街に繰り出す。


「よく考えてみると、京都って観光名所だけど、何をしたら良いんだろうな?」


「この街の風景を楽しむんじゃない?」


「まあ、そっか。ん?」


「どうしたの?」


「あの店、ちょっと寄ってみないか?」


 そこは着物屋のようだった。


「せっかくだし、レンタルしてみないか?」


「え? 良いわよ、恥ずかしいし」


「けど、もっときれいになった桜子と、京都の街を歩きたいな」


「こ、光一……いつもは濁っているその目が何だかキラキラして……可愛い」


 桜子は両手で赤らんだ頬を押さえて言う。


「じゃあ、行こうか」


「はい♡」


 俺は桜子を連れてその店に入る。


「すみません、着物のレンタルをお願いしたいんですけど」


「かしこまりました」


 オシャレな着物店員さんは頷き、


「せっかくですから、舞妓さんも体験してみますか?」


「え、そんなの出来るんですか?」


「はい」


「じゃあ、お願いしようかな」


「ちょ、ちょっと待ちなさい」


「何だよ、桜子さん」


「さ、さすがにそれは……」


「何で? 俺は見たいぞ、桜子の舞妓さん姿が。絶対に綺麗になるだろうし。ねえ、店員さん?」


「はい、きっとお似合いです」


「うぅ~……」


 桜子は赤面したまま唸り声を出す。


「じゃあ、お願いします」


「ちょっと、何を勝手に……」


「かしこまりました」


 桜子は店員さんにちゃちゃっと連行される。


 京都の女性はおしとやかなイメージだったけど、意外とチャキチャキしているな。


 それから、俺は適当に店内を見ながらボケっと待っていた。


「お待たせしました」


 その声の振り向くと、軽く言葉を失う。


 すっかり舞妓さん姿になった桜子がいた。


「……な、何か言いなさいよ」


「正直、舞妓はさすがにやり過ぎかなって思っていたんだけど」


「ぶっころ」


「けど、お前は何をしてもきれいだな」


「ズキュン」


 桜子は胸を押さえて悶える。


「じゃあ、行こうか」


 俺は桜子の手を取って言う。


「ま、待って。あまり慣れない着物だから、ゆっくり」


「分かったよ、ワガママな舞妓だな」


「黙りなさい」


 それから、俺たちは改めて京都の街を歩き出す。


「桜子、腹は空かないか?」


「そういえば、小腹が空いたかも」


「じゃあ、あの茶屋に入ろうか」


 それは正に江戸時代っぽい長椅子が置かれた店だった。


「いらっしゃいませ」


「団子を2つ下さい。みたらし……は汚れるから、三色団子で」


「かしこまりました」


 それから、すぐに団子とお茶が出た。


「ごゆっくりどうぞ」


 店員はすすと下がって行く。


「じゃあ、食べるか」


「ええ」


 桜子は団子を食べようとする。


「おい、何を普通に食べようとしているんだ」


「え?」


 桜子は目を丸くする。


「お前は俺の舞妓なんだから、ちゃんとご主人である俺に食べさせろ」


「ご、ご主人って……舞妓さんってそんな存在だったかしら?」


「細かいことは良いんだよ。俺は舞妓になったお前を好き勝手にしたいだけなんだ」


「最低ね。死ねば良いのに」


「ほら、早くしろよ」


 俺は言う。


「もう、服従の刑は無しにしたとか言いながら……けど、結局は従っちゃう私も……ブツブツ」


 そして、桜子は俺に団子を食べさせる。


「どうかしら?」


「うん、美味いな。貴族の気分だよ」


「ウザいわね」


「じゃあ、俺も食べさせてやるか」


「え、良いわよ」


「遠慮するなって」


「変なことしないでよ? 奥に突っ込まないでね」


「安心しろ。それはベッドの上でだけだ」


「ドズキュン……ちょ、ちょっと、軽く濡れかけたでしょうが。レンタルしている着物を汚す訳には行かないんだからね!」


「ハハハ」


「グギギ」


 桜子は悔しそうに歯噛みをする。


「ほら、早く口を開けろよ」


 俺が命令をすると、こちらを睨みつつも素直に従った。


 そして、俺は桜子の可愛らしいお口に団子を入れる。


「んっ……」


「どうだ?」


「美味しいわ。上品な味ね」


「だな。まるで俺たちみたいだ」


「どこがよ。下品極まりないカップルだわ、主にあなたのせいで」


「桜子がエロいからだろ」


「ぶっころ」


「まあ、仕込んだのは俺だけど」


「グギギ……ズキュン」


「忙しい奴だな」


 俺は立ち上がる。


「さてと、まだ時間はたっぷりあるからな。俺だけの舞妓さんをもっと堪能させてもらおうか」


「前から思っていたけど、あなたのその笑顔ってキモいわね」


「じゃあ、別れるか? 俺は別に構わないぞ?」


「一生そばに居させてください」


「おもっ」


「もう、何で何でそんなこと言うの~!」


 桜子がポカポカと叩いて来る。


「ほら、行くぞ。ちゃんと俺を満足させないと、出来の悪い舞妓の烙印を押してお仕置きするからな」


「ま、またお仕置き……」


「好きだろ? ドMの桜子ちゃんは」


「グギギ」


 怒った顔も可愛らしい桜子だった。







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