43 清水の舞台で、彼女はエロる
京都、それは美しい都。
かつての日本の中心地であり、今でも歴史的な風景が残っている。
正に、日本の宝の宝庫。
気品に溢れて、由緒正しいその土地では、品行方正でなければならない。
特に、修学旅行生たる身においては。
「桜子」
俺がそばで呼ぶと、彼女はビクリとした。
「この修学旅行の間、お前は俺に絶対服従すること。そのルールは分かっているな?」
「な、何を要求するつもり?」
ちなみに、今は二人で人気の少ない建物の陰にいた。
俺はポケットからある物を取り出す。
「そ、それは……アメ?」
「ああ」
俺はその封を開けると、指先でつまんで見せた。
「それを舐めれば良いの? 容易い要求ね」
「んな訳ないだろうが。とりあえず、谷間を見せろ」
「……え?」
桜子の目が戸惑う。
「ほら、早くお前のきれいな谷間を見せてくれよ」
「は、はい……」
桜子は大人しく制服のボタンを開ける。
彼女のきれいな谷間があらわになった。
俺はそこにアメを挟む。
「んっ!?」
結構ふかく、ずぶっと入れた。
「あっ……な、何がしたいの?」
「いや、何かエロいかなって」
「バ、バカじゃないの? 溶けたらどうするの?」
「そうしたら、後でお前の谷間を舐めるよ」
「わ、私の谷間を舐める……ですって?」
「ああ」
「こ、この変態……ゲス野郎。それが愛する彼女にすることなの?」
「ごめん、俺の愛は歪んでいるんだ。お前のせいでな」
「くっ……か、かっこいい」
「お互いに重傷だな」
俺は苦笑する。
「けど、思ったよりも大した罰じゃないだろ?」
「まあ、そうね……この異物感も、その内に慣れるだろうし」
「じゃあ、行こうか。桜子」
俺が手をつなぐと、
「キュン」
「おっ、可愛い声じゃん」
「バ、バカ。ていうか、他のみんなも居るのよ?」
「分かっているよ。だから、今だけだよ」
「……うん」
束の間、俺たちは手を握り合っていた。
◇
京都と言えば、清水寺。
もちろん、他にも金閣寺、銀閣寺を初め、多くの歴史的な建造物があるけど。
「清水の舞台から飛び降りるって言葉があるでしょ? 私、その言葉が結構好きなの」
「さすが、ドMだな」
「うるさいわね。だって、好きな人とそんな風に心中するのも、ある意味ではロマンチックかなって」
「変態だな」
「あなたに言われたくないわよ」
桜子は腕組みをしながらぷいとそっぽを向く。
その時、
「んっ」
桜子がピクリと反応する。
「どうした?」
「……な、何でもないわ」
桜子は腕を下ろしてまた澄ました顔になる。
「ほら、私にばかり見惚れていないで、この美しい景色を眺めなさいよ」
俺は清水の舞台から景色を眺める。
「確かに、きれいだな。お前には及ばないけど」
「ふ、ふん。そんな風におだてても、あなたがクズ野郎であることに変わりはないんだから」
「なあ、桜子。お前はいつも俺にいじめられてばかりだけど、やっぱり強気な姿勢が似合うよ」
「誰がいじめられてばかりなのよ」
「だからさ、腕組みをしてくれよ。その方が、何か女王様っぽくて、お前に似合うよ」
「だ、誰が女王様よ……別に、そんな腕組みなんてしたくないし」
「お前みたいなツンデレキャラの定番だろ?」
「誰がツンデレキャラよ」
桜子はゴチャゴチャ言って、腕組みを渋る。
「おい、服従の契約はどうした?」
「け、契約って……」
「ゾクゾクするだろ?」
俺が耳元で囁くと、桜子は本当に背筋がゾクゾクしているようだ。
「ほら、早く」
「……分かったよ」
桜子はおもむろに腕組みの姿勢を取る。
「ちゃんと、胸を挟むようにしてな」
俺が言うと、桜子がピクリとする。
そして、腕組みをした瞬間、
「……んっ」
また、桜子が声を漏らす。
「どうした?」
「な、何でもないわ」
「正直に言えよ」
俺が問い詰めると、桜子はわずかに口ごもりながら、
「……アメが」
「アメがどうした?」
「……コリってするの」
「へぇ、そうなんだ」
「……白々しいわね。それこもれも、計算の上でしょ?」
「生憎、俺はそんなに頭が良くないから。優等生な桜子さんと違って」
「……本当に腹立たしい男ね」
桜子が腕組みを解こうとするので、俺は両サイドからぎゅっと押さえた。
「んっ!」
桜子はつい大きな声が出てしまい、ハッとして赤面する。
「大丈夫、みんな周りの景色に夢中だから」
他のみんなはカメラ片手にピースサインをしている。
「まあ、薄汚れた俺たちには、あんな風に健全な楽しみ方は出来ないだろうな」
「……はぁ、はぁ」
「どうした? 息が荒いけど、大丈夫か?」
すると、桜子は潤んだ瞳で俺を見つめる。
「……りたい」
「え?」
「私も……光一と写真が撮りたい」
その時、桜子が浮かべた表情は、弱々しく、とても愛らしくて。
俺は思わず胸がキュンとしてしまった。
「い、いや。別に良いだろ」
「何で? せっかくの修学旅行なんだよ? 二人で思い出を作ろ?」
「うっ……」
まずい、桜子のきれいで可愛い瞳に見つめられて、俺は……
「はい、チーズ」
パシャリ、と。
「やった、光一とのラブラブ写真を撮っちゃった♡」
桜子は軽くハシャぐ。
一方、俺は何だか辛くて柱にもたれていた。
「光一、どうしたの?」
「いや……もう俺の負けで良いよ。服従のルールとか、無しの方向で」
「えぇ~、何で? せっかく私も乗って来た所なのにぃ」
桜子は口を尖らせて言う。
「さすが、桜子さんだな」
俺は半笑いで言う。
「どういう意味よ?」
「いや、俺の彼女は最高だなって思って」
「ズキュン」
桜子はそう言ってニコリと笑う。
「じゃあ、これから二人で、もっと楽しいことしましょ?」
そう言って、桜子は俺の腕に抱き付いて来る。
「おい、桜子、やめろ」
「もう、照れないで、ダーリン♡」
「いや、ほら、だって」
「え?」
見れば、他のみんなは既に先生の下に集合していた。
その視線が一斉に突き刺さり、桜子さんは軽く悶えて赤面する。
「俺たちは委員だから、ちゃんとしよ」
「……はい」
やっぱり、桜子さんは情緒が少し不安定な子だった。
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