41 鬼畜な彼氏でごめんなさい
「修学旅行ってどこに行くんだっけ?」
「京都・奈良よ。何で間近に迫っているのに知らないのよ。しかも修学旅行の委員でしょ?」
「ああ、すまん」
「どうせ、沖縄あたりが良かったんでしょ? 京都・奈良とか地味だなって思っているんでしょ?」
「いや、良いじゃん。何か落ち着いた感じだし。俺らにピッタリじゃない?」
「自分で言っちゃうの?」
「お前はそう思わないのか?」
俺が隣を向いて言うと、桜子はふわりと寄りかかって来た。
「……光一といっぱい、神社とかお寺をみたいな」
「そうだな。一度、神社とかお寺でしてみたかったんだ」
「ちょっと、あなた」
「ちゃんとしたお参りを」
「あ、ああ」
「お前、何を想像したんだよ?」
「う、うるしゃい!」
桜子は軽く怒って、俺の口に卵焼きを突っ込む。
「むぐぐ」
「これでも食べて黙っておきなさい、このエロ彼氏」
頬を赤らめな軽く息を荒げながら桜子は言う。
俺は卵焼きをゴクリと飲み込んでから、
「ひどい女だなぁ」
「あなたこそ、ひどい男なんだから。自覚ある?」
「安心しろ。俺がひどいのはお前に対してだけだ」
「ズキュン……って、そんな甘い言葉に騙されにゃいんだからね~!」
「あ、また要石ってる」
「は? ぶっころ」
「あ、そうだ。良いこと考えた」
「何よ。嫌な予感がするんだけど」
「修学旅行中はあまりエッチなこと出来ないだろうからな。その前に、すごいことやっておくか」
「す、すごいこと……ドキドキ」
何だかんだ、桜子は物欲しそうな顔をしていた。
◇
そして、休日。
俺は桜子の部屋に来ていた。
「その紙袋の中身は何?」
「着れば分かる」
桜子は俺から紙袋を受け取り、クンクンとする。
「……卑しいメス猫の臭いがするわ」
「おお、正解。よく分かったな」
「あなた、まさか……」
桜子が目を丸くして、それから俺を睨む。
「鬼畜野郎ね」
「何でだよ? 俺は彼氏として、可愛い彼女の姿が見たいだけだよ?」
「その気持ちは理解出来るけど……ねえ、私がお金を出すから。今からでも新品を買って来ない?」
「ダメだ、着ろ。金の無駄遣いはこの俺が認めん」
「何よ、その亭主関白は。将来、あなたの結婚したらこんな感じに……って、何を言わせるのよ!」
「桜子、独り言が長いぞ。さっさとしろ」
「は、はい、光一さん……」
従順に頷いた桜子はその紙袋から中身を出しつつ、
「あっちを向いていてちょうだい」
「お断りだ」
「はっ?」
「着替える所からじっくり見せろ」
「な、何て鬼畜野郎……」
桜子は歯噛みをしながら、その衣装を手に取る。
「ほら、早く脱げよ」
「わ、分かっているわよ!」
桜子は半分くらいキレながら服を脱ぐ。
「へぇ、相変わらず綺麗な体をしているな」
「え、本当に? 嬉しい……って、騙されないわよ!」
「だから、黙ってやれって言ってるだろうが」
「は、はい……」
桜子はいそいそと服を脱ぐ。
そして、例の衣装を手に取った。
目の前でドンドンと変貌していく桜子を見つめながら、
「これが愉悦か……ふふ」
「ちょっと、何だかとても不穏なセリフが聞えたんだけど。やめてちょうだい」
「ああ、すまない。ふふふ」
「何てあくどい顔……でも、カッコイイ♡」
お互いに重傷なカップルだった。
「き、着替えたわよ」
シャラ~ン、と音が鳴りそうなくらい、眩い女がそこにいた。
普段は凛とした優等生。
そして、俺に対しては毒舌の彼女。
そんな桜子が……
「はい、じゃあこのセリフをどーぞ」
俺はカンペを出しながら言う。
「い、言える訳ないでしょうが!」
「良いから、さっさと言えよ。こっちは待ち焦がれているんだよ」
「こ、光一、そこまで……」
桜子はモジモジとしながら、ようやく決心したように……
「だ、大好きなご主人様に向けて~、萌え萌えキュン♡」
言った直後、桜子は脱力しながら
「……ニャ~」
「おぉ、最後のアドリブ良いね~」
俺は見事なネコ耳メイドを演じた桜子を称賛する。
「うるさいわよ、このバカ彼氏! 何でよりにもよってあのクソ猫女の衣装を着なくちゃいけないのよ! ていうか、よく貸してもらえたわね?」
「ああ。まあ、ちょっとお願いしたんだよ」
「何かしたの?」
「まあ、させられたけど。大した問題じゃないよ」
「うわ、出た。その似合わない爽やかスマイル。ぶっ殺して良い? ぶっ殺して良いよね?」
「ふむ、この愛らしいメイド姿に包丁とか持たせたら、一気にヤンデレ臭が漂いそうだな」
「あなたは本当に……」
桜子はまたガクリとうなだれる。
「これでもう満足したでしょ? 脱ぐわよ?」
「いや、ダメだ」
「はっ?」
桜子は目を丸くする。
俺はそんな彼女を見つめながら、
「本番はこれからだよ。言っただろ? 修学旅行中はいつもみたいにエッチなことが出来ないから、今の内にたっぷりと楽しんでおくって」
「こ、光一、あなた……私に何をさせるつもり」
「う~ん、そうだな……」
俺は少し考える素振りを見せながら、
「とりあえず、俺にご奉仕しろよ、桜子」
ニヤリ笑った。
「な、何てゲス野郎なの……死ねば良いのに」
「おい、ご主人様に向ってその口の利き方は何だ? クビにするぞ?」
「い、嫌です! 光一さまのそばに居させてください!」
「よーし、じゃあ今からお前が俺のメイドにふさわしいか、テストをしてやる。覚悟は良いか?」
「ゴクリ……」
不敵に笑う俺を前にして、桜子は息を呑んだ。
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