38 二人の相性

 文化祭のクラスのお化け屋敷における俺の仕事。


 ゾンビとして、ただ徘徊するだけ。


「きゃ~!」


 こんなチープな仮装でも驚いてくれるのか。


 ちなみに、桜子は……


「きゃ~、桜子ちゃん美人さ~ん!」


 別の意味で悲鳴が上がっていた。


「ちょ、ちょっと、あなた達。私はユーレイなんだから、ちょっとは怖がりなさい」


「うおおおおぉ! 東条さんのユーレイ姿やべえ~!」


「俺に憑依してくれ~!」


「いや、俺にだ~!」


 あ、まずい。


 盛り上がる客に対して、桜子が静かに怒りを燃やしていた。


「あなた達……もぐわよ?」


 瞬間、それまで盛り上がっていた男子どもの表情が一瞬で青ざめた。


「す、すみません……」


 そして、みんな股間を押さえながら去って行った。


「さすがだな、桜子。良い仕事をするぜ」


「皮肉は結構よ」


 桜子はツンとそっぽを向く。


「ねえねえ、桜子ちゃん。そろそろ休憩に行っても良いよ」


「春日くんもね~」


「あら、そう? じゃあ、お言葉に甘えて」


「いーっぱい、イチャイチャして来なよ~」


 女子たちにからかわれつつ、俺たちは衣装を脱いで教室を出た。


「ふぅ~、何か開放感だなぁ。仕事終わりって感じだぜ」


「よく言うわよ。あなたなんてただウロウロしていただけでしょ?」


「それも結構疲れるんだぜ? ぶっちゃけ、お前とエッチをする方がよっぽど楽だよ」


「なっ……ぶ、ぶっ殺すわよ!」


「落ち着けよ、外来の客もいるんだからさ」


「だ、誰のせいだと思っているのよ……」


 桜子はぶつぶつと呟く。


「で、どこに行くんだ? 何かメシでも食うか?」


「そうね……あら?」


 桜子の目線を追うと、そこには『占いの館』とあった。


「ちょっと入ってみる?」


「別に良いぞ」


 俺と桜子はちょっと怪しげなその店に入る。


「ようこそ、マダム・ケイトの館へ」


 そこには、正に占い師の格好をした奴がいた。


 紫のローブを顔にかけているから、あまり表情は伺えない。


 俺たちはテーブルの前に座った。


 そこに置かれている水晶を撫でながら、マダム・ケイトとやらが言う。


「今日は何を占いましょうか?」


「そうね……私と彼の相性を占ってちょうだい」


「分かりました」


 すると、マダム・ケイトは両手で水晶に念を込める。


「……見えました」


「早いな」


「あなた達の相性は……最高です」


「えっ、本当に!?」


 桜子が椅子から立ち上がって興奮した。


「はい」


「やった~!」


「おい、落ち着け、桜子さん。こんなのどう考えても適当だろうが」


「そんなことはありません。マダム・ケイトは至って真剣な占い師です」


「自分で言うあたりがますます信用できねえ」


「何よ、光一。あたしと相性が最高で嬉しくないの?」


 桜子がぷくっと頬を膨らませながら睨んで来る。


「ていうか、占いをするまでもないしな」


「へっ?」


「お前とは何度も繋がっているから、相性の良し悪しくらい、とっくに知っているよ」


 俺が何気なく言うと、桜子の顔がみるみる内に赤く染まって行く。


「にゃ、にゃにを言っているのよ!」


「何かその口調、要石を思い出すな。そういえば、あいつの喫茶店にでも顔を出してやろうか?」


「ちょっと、人を甘々な気分にさせておいてそんなデリカシーのない発言をするの? あなたはどこまで私を揺さぶれば気が済むの?」


「別に揺さぶってねえよ。お前が勝手に揺れているんだろうが、おっぱいが」


「くっ……もう、バカ~!」


 桜子さんがポカポカ殴って来る。


「あー、痛い痛い」


「棒読みで言うな~!」


 俺は半笑いしていると、目の前から突き刺さる視線を感じた。


「あの……イチャつくのはよそでやってもらえますか?」


「ほら、桜子。お前のせいで怒られたぞ」


「こ、光一のせいでしょうが!」


「延長料金を取るぞ、バカップル」


 楽しい文化祭は、まだまだ続く。







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