37 美人ユーレイVS猫メイド

 来たる、文化祭。


「うわぁ~、桜子ちゃんすごくきれいだよ~」


 クラスの女子たちがキャッキャとする。


「そ、そうかしら?」


 照れる桜子。


 今の彼女はクラスの出し物である『お化け屋敷』のため、ユーレイの格好をしていた。


 白い装束が黒いロングヘアーとよく合っている。


 どこか儚い彼女のイメージともピッタリだ。


「ねえねえ、彼氏さーん。出来栄えはどうかな?」


「ああ、昨日もう見たからな。似合うことは分かり切っていたよ」


「「「きゃあ~! ラブラブぅ~!」」」


 相変わらず、女子は元気だな~。


 その点、桜子は落ち着いているから……


「やっぱり、俺の彼女はお前しかいないな」


 純粋に感想が漏れてしまい、


「へっ?」


 桜子が目を丸くしてから、


「バ、バカ! 何を言っているのよ!」


 ポカポカと殴って来た。


 周りの女子たちはニヤニヤする。


 一方、男子たちはギラギラしていた。


 いつでも、クソリア充たる俺の首を狩る準備は出来ていそうだ。


「悪い、ちょっとトイレ」


 定番の逃げ口実で俺は一旦クラスから離れた。


「しかしまあ、文化祭かぁ……」


 正直、今まではダルいとしか思っていなかったけど。


 まあ、それなりに楽しいという気持ちが湧いている。


 それは桜子のおかげかもしれないな。


「こーニャン♡」


 どこかで聞き覚えのある声がしたと思ったら、そのままムギュッと抱き付かれた。


 振り向くと、案の定、要石だった。


「何だよ?」


「ちょっとちょっと、その言い草はないんじゃないの?」


「うるさいな。ていうか、何だその格好は?」


 要石はネコミミを付けていた。


 更に、ちょっと露出が激しいエプロン姿。


「あたし達のクラスはメイド喫茶をやるのニャン♡」


「ああ、なるほど。お前はクソエロ猫メイドって訳か。鬱陶しいから離れろ」


「もう~、相変わらずいけずぅ、なんだから~」


「お前は相変わらずウザいな。勝負は桜子が勝ったんだから、もう俺にちょっかいは出さないや約束だろ?」


「ふっふっふ。そう簡単に、こーニャンとのエッチをあきらめられないのニャ」


「ダルい女だな」


 俺はため息を漏らす。


「どうどう? 谷間とか興奮する?」


「ん? そうだな……ちょっと指を入れたくなるかな」


「マジ? 良いよ♡」


「けど、顔を見るとお前だから気力が萎える」


「殺すよ?」


 要石が笑顔で爪を構えた。


「どうどう。落ち着いて」


「よし、今日からこーニャンをあたしのご主人様に任命するのニャ」


「は?」


「ニャンニャン♡ ご主人様、可愛がって下さいまし♡」


「失せろ」


「ひどいのニャ!」


「ていうか、またお前にトイレに行くのを邪魔されているんだけど。膀胱が破裂しそうなんだけど。もう行っても良いか?」


「じゃあ、あたしも一緒に♡」


「来んなボケ」


「ニャ~! 何であたしにそんなキツい口調なのニャ!」


「いや、シンプルにウザいから」


「ガーン!」


 要石はその場に崩れ落ちた。


 四つん這いの姿勢でシクシクと泣く。


「うぅ~、他の男子にはそれなりにモテるのに~」


「だろうな。けど、俺には桜子がいるから」


「こーニャンめ~……」


 要石が恨めしそうに俺を睨む。


「光一」


 振り向くと、


「あ、ユーレイさんだニャ」


「ぶっ殺すわよ、クソ猫メイド」


「ニャッ!?」


 要石は瞬殺される。


「あ、分かった。俺の口が悪いのは桜子の毒舌に影響されたせいだ」


「だったら、すぐに別れるのニャ! その方がこーニャンのためだニャ!」


「お黙りなさい、クソ猫メイド」


「ちっ、ヤンデレ貞子が」


 要石は立ち上がり、桜子の眼前に立つ。


 両者はバチバチと睨み合った。


「何なら、また勝負をするのニャ?」


「望む所よ。何度来ても叩き潰してあげるわ」


「やめろって」


 俺は両者の間に割って入る。


「不毛な争いはやめろ。もし仮に、桜子が負けることがあっても、俺はこいつのモノだから」


「こ、光一……」


 桜子がポッと頬を染める。


「いやいや、だから本命じゃなくて良いのニャ。あたしは遊びの女で良いよ?」


「仮に遊びの女を作るとしても、お前はないわ。うるさい女は好みじゃないんだ」


「けど、さくらニャンだってうるさいでしょ? 体育祭の時だって意味不明な奇声を上げながらあたしに勝ったし……イニャニャ!?」


「この口かしら? この口をちょん切って欲しいのかしら?」


「や、やめるのニャ~!」


 ジタバタする要石を桜子は拘束して離さない。


「ふむ……百合も悪くないな」


 俺がついそんなことを言うと、


「「は? この変態」」


 普通に傷付く返しをされた。


 しかも息をピッタリと合わせて。


「なるほど、その手もあるのニャ。さくらニャンと仲良くなるフリをして、こーニャンに接近すると」


「クソ猫、聞こえているわよ?」


「あら、ごめんなさいニャ」


「やっぱり、ぶっ殺そうかしら」


「まあまあ、楽しい文化祭なんだから……あっ」


「どうしたの、光一?」


「メッチャおしっこしたいの忘れてた」


「早くして来なさい」


「ノンノン、さくらニャン。この場合の正解は……『あ、じゃあ私が飲んであげるね♡』……だニャ」


 おいおい、そんなことを言ったら、また桜子がキレて……


「……なるほど」


「なるほどじゃねえよ」


 俺の彼女はたまにクソほど頭が悪かった。







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