27 爽やかに汗を流す訳もなく……

 パコーン、パコーンと小気味の良い音が飛び交っている。


 その間に、バスッと鈍い音が挟まった。


「あ、すまん」


「許さないわ」


「良いじゃんか、遊びのテニスだろ?」


「私はマジよ。何ごとに対してもね」


「怖いな~」


 今日は休日。


 俺は桜子と運動公園でテニスをしていた。


「まあ、あなたは頭も悪くて運動神経も悪いロクデナシだから、所詮はこの程度ね」


「ひどいなぁ。あまりひどいことばかり言うと、後でお仕置きするぞ。ベッドの上で」


「ふぎゅっ」


「それはどういう表現だ?」


「はぁ、はぁ……今の一言だけで妊娠しかけたわ。息も詰まったし、殺す気?」


「すみません」


「決めたわ、罰ゲーム。あなたがラリーを止めるごとに……」


「土下座でもしろってか?」


「私のす、好きな所を言いなさい」


「え?」


 俺はポカンとする。


「な、何よ、そのアホを見るみたいな目は。言っておくけど、あなたの方がアホなんだからね!」


「いや、可愛いなと思って」


「ドズキュン」


 いきなり最上級。


 こいつの心臓が持つかな?


「よ、よーし、張り切って行くわよ」


 桜子はポンポンとテニスボールをバウンドさせ、


「はいっ!」


 メチャクチャ凄いサーブを打って来た。


 サービスエースが決まる。


「ふふふ、どうかしら光一?」


「引くわ~」


「う、うるさいわね! 早く言いなさいよ、私の好きな所を!」


「はいはい」


 俺は少し面倒くさく思いながら、


「顔が可愛い」


「ふぎゅっ!」


「あ、間違えた。可愛いと言うより、美人だな」


「ふぎゅううぅん!」


 桜子は意味の分からない鳴き声を上げて悶絶した。


「……ちょ、ちょっと……反則よ」


「え、何が?」


「一回のミスにつき、一つまでよ……一気に二つも言われたら激しくキャパオーバーよ」


「器が小さいなぁ」


「うるさいわね。早く続きをするわよ」


「じゃあ、今度は俺からサーブさせてくれ」


 俺も先ほどの桜子みたいな超絶サーブを打ちたいけど、当然ながら無理なので無難にコートに入れた。


「はいっ!」


 桜子が強烈なリターンエースを決めた。


「いよーし!」


「お前、マジ過ぎだろ」


「最初に言ったでしょ?」


「引くわ~」


「う、うるしゃい! 早くしなしゃい!」


「子供かよ……」


 俺はため息を吐きながら、


「乳がデケー」


「こ、このケダモノ……」


 そう言って胸を押さえながら、桜子の顔は激しく赤面していた。


「あれ? さっきみたいに変な声を出さないんだ」


「変な声って言わないでちょうだい。だって、そんな風に褒められても嬉しくないわよ」


「けど、桜子のおっぱいは素晴らしいぞ。大きいだけじゃ無くて、ハリとかツヤもあって。ずっと触っていたいな」


「ふにゅ~ん!」


「お、出た出た」


「はぁ、はぁ……クソ、この男を殺したい……いえ、こんな男に惚れた自分を殺したい」


「ワガママな女だな。じゃあ、一緒に死ぬか?」


「それも良いわね。けど、それは最後の楽しみにとっておきましょう」


「バカみたいだな」


「あなにだけは言われたくないわよ! ほら、次!」


 それからも、ドン引きするくらいガチモードの桜子さんにポイントを取られまくって……


「黒髪が清楚系でまぶい」


「ズキュン!」


「ちょっと面倒くさいけど可愛い」


「ズキュン!」


「ちょいちょいヤンデレだけど可愛い」


「ズキュン!」


「抱くと最高にエロい女」


「ドズキュ~~~~~~ン!」


 試合は当然ながら俺の圧倒的な敗北。


 けれども、疲労困憊でコートに倒れていたのは桜子の方だった。


「はぁ、はぁ……もう無理……死ぬ……胸が苦しい……」


「ちょっとコートのジッパー開けるか?」


「あ、あなた、おっぱいを揉むつもり?」


 俺は倒れている桜子に歩み寄って額を軽くデコピンした。


「痛い……」


「お前って、やっぱりバカだよな」


「う、うるさい。だから、あなたにだけは言われたく……」


「けど、やっぱり、死ぬほど可愛いよな」


 俺は思わず桜子にキスをした。


 唇を離すと、桜子はポケーとしている。


「おーい、大丈夫か?」


「……チーン」


「あ、新しい効果音だ。俺を置いて先に死ぬなんて、悪い女だな」


「だ、誰のせいだと思っているのよ……だいたい、あなたに密着されると余計に動悸が止まらないわ」


「じゃあ、離れるよ」


「そばに居なさい!」


 強めに言われてしまう。


「本当に面倒くさい女だなぁ」


「何よ、別れたいとでも言うつもり?」


「いや、一生俺のそばに居ろよ」


「ズキューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 たぶん今、桜子さんの魂が大気圏を突破した。







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