24 後輩女子とデートもどき

 俺には素敵な彼女がいる。


 だから、浮気なんてするつもりはない。


 そんなことをしたら、『ぶっ殺す♡』と言われて俺の人生終了するだろうし。


「お待たせしました」


 声がして振り向くと、私服姿の後輩女子がいた。


 美波雫。1年生。桜子の親衛隊メンバー。


 ちょっと鬱陶しい。


 それくらいしか、彼女に関するデータが俺にはない。


「今日はよく来ましたね。何だかんだ、可愛い後輩の女子とデートしたかったんですか?」


「いや、お前が脅すからだろうが」


 俺は当然、鬱陶しいこの後輩女子とのデートなんて断ろうとした。


 それが例え、俺が桜子にふさわしいかどうか、見極めるためのモノだとしても。


 けど、『逃げるんですか? でしたら、私はどこまでも追いかけますよ? 桜子さまとのデート現場にもね、ウフフ』


 あれ、こいつもヤンデレかな?


 そんな臭いを感じつつ、俺は今後のことも考えて早めに対処しておくことにした。


 ちなみに、当然ながらこの件は桜子には内緒だ。


 ただ、それとなく『あり得ない話だけど、もし俺が他の女子とデートをしたら、どうする?』と聞いた。


 すると、桜子は『あなたと全人類を滅ぼした上で私も死ぬ』という非常にスケールのデカいことをおっしゃったので今回の件は絶対バレてはいけない。


「ちょっと、先輩? 何をボケっとしているんですか?」


 美波がぷりっとした顔で俺を睨んでいる。


「え?」


「え?……じゃないですよ。男なら、きちんと女子をエスコートして下さい」


「でも、お前は俺の彼女じゃないし……」


「だから、今日は私のことを桜子さまだと思ってデートして下さい!」


「いや、無理だよ。全然似てないし。あいつの方が背も高いし、胸もデカいし」


「ムカッ……た、確かに、私はチビでむ、胸も小さいですけど……そもそも、桜子さまと比べないで下さい!」


「じゃあ、前提条件から崩壊しているから、今日のなんちゃってデートは中止ということで」


「ちょっと、勝手に切り上げようとしないで下さい! 今日は朝から時間をかけて準備をしたんですから!」


「え、何で?」


「そ、それは……お、男の人とデートなんて、初めてですから……」


「マジで? お前、それで俺が桜子にふさわしい男かなんて分かるのかよ?」


「う、うるさいですね! とにかく、行きますよ!」


 リードしろと言っておきながら、美波はぷりぷりしながら先に行ってしまう。


「何で俺の周りはこうも面倒な女ばかりなんだ……」


 と言うか、女ってのはすべからく面倒な生き物なのかもしれないけど。


「ちょっと、先輩! 早くして下さい!」


「分かったよ」


 俺はため息を吐きながら美波の後を追った。




      ◇




 やってきたのはファンシーな雑貨屋さんだった。


「わぁ~、コレ可愛い~!」


 美波はハシャぎながら言う。


「なあ、美波」


「何ですか?」


「言っておくけど、桜子はこんな店に来ないぞ」


「うるさいですね。桜子さまも、本当は興味あるかもじゃないですか」


「まあ、一理あるな。あいつ、猫とか似合いそうだな」


 俺は可愛らしい猫のぬいぐるみを持って言う。


「先輩、私は犬派です」


「へぇ」


「ちょっと、もう少し反応して下さい」


「悪い。桜子以外の女に興味が無いんだ」


「なっ……ちょ、ちょっとカッコイイじゃないですか。ムカつくけど……」


「けど、お前はこういう店が似合うような。小柄でロリ体型だし」


「ちょっと、その発言はセクハラですよ」


「え? けど、いつも桜子にはもっと過激なことを言っているぞ?」


「た、例えば?」


「そうだな……」


 俺がふっと顔を近づけると、美波はハッと目を見開く。


「えっ、えっ?」


 そして、俺は耳元で囁く。


 周りの人に聞かれる訳にはいかないから。


 俺が顔を離すと、美波は赤面しながら口をパクパクさせていた。


「そ、そんなエッチなことを……」


「まあ、もう行く所まで行っているしな」


「クソ、悔しいです。麗しの桜子さまが、あなたのようなゲス男に犯されているだなんて」


「ていうか、俺の方が色々と犯されているんだけどな。あいつのせいで体中が傷だらけだし」


「春日先輩はMなんですか? 気持ち悪いですね」


「いやいや、桜子の方がMだぞ。見た目はSっぽいけど」


「マ、マジですか?」


「ああ、例えば……」


 また俺がゴニョゴニョと耳元で囁くと、


「……おっほほぉ」


 さっきまで抵抗していた美波が、少しだけ興味を持ったように興奮していた。


「あ、あなた。自分だけ桜子さまを満喫しすぎですよ。私たちが知らない一面をたくさん知っていて」


「まあ、俺の彼女だからな」


「死ねば良いのに」


「おいおい、さっきから悪いことばかり言うのはこの口かぁ?」


 俺は美波のいたいけな頬を引っ張った。


「い、いはいれふ~」


「もっと先輩を敬え」


「ふぁ、ふぁ~い……」


 何だかんだ、素直な良い子のようだ。




      ◇




 パシャリ、とスマホで撮影をした。


「……愛しい彼氏の浮気現場、はっけーん」


 スマホを口元に添えて微笑む。


 遠目に見知らぬ女子とイチャつく彼の姿を見て、自分でも驚くくらいに冷静でいられた。


 頭の中では、いかにして彼を拷問するかの思考がひたすらに巡らされている。


「光一……ぶっ殺す♡」


 桜子はどこまでも笑顔を浮かべていた。







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