23 面倒なことばかりで……

「はい、光一。あーん♡」


 桜子が箸で差し出すおかずをパクリとする。


「どう、美味しい? 今日はいつも以上に頑張って作ったのよ?」


「うん、美味しいよ」


「いやん、嬉しい~♡」


 今は昼休み。


 俺と桜子はいつものように二人でお弁当タイム。


 けれども、いつもと違うのは……


「「「……ぢくじょう」」」


 クラスメイト達の前で堂々とイチャついていることだ。


 俺と桜子の席は真ん中の最後列。


 そのため、教室で昼メシを食っているクラスメイトたちの視線をビシバシ受ける。


「なぁ、桜子。やっぱり、いつもみたいに静かな所で食べないか?」


「あん、何よ。二人きりになってエッチなことするつもり? ダメよ、夏休みにあんなにいっぱいしたんだから。ちょっとは自重しないと♡」


「「「ゴハッ……!?」」」


 猫撫で声をするだけで人を殺せるとか……やっぱり、こいつは危険な女だな。


 2年A組の教室には吐血した男子たちの死体が累々と積み上げられていた。


「ねえねえ、桜子ちゃん」


 すると、女子たちが話しかけて来る。


「何かしら?」


「その、ちょっと聞きたいんだけど……」


 女子たちは何やらモジモジしている。


「ほら、春日くんの……アレのテクが凄いって言ったでしょ?」


「ええ、そうね」


「具体的には、どんな感じなのかな~って」


「せめて、妄想で楽しませてもらいたいな~、なんて」


「あら、あなた達もエッチなのね」


 桜子はくすりと笑う。


「良いわよ、光一のテクを余す所なく教えてあげる」


「「「きゃ~!」」」


「まずはベロチューから入って……むぎゅッ!?」


 俺はとっさに桜子の口におかずを詰め込んだ。


「お前はバカか?」


 桜子は慌てておかずを飲み下し、


「ちょ、ちょっと! 愛する彼女を殺すつもり!?」


「俺なんていつもお前に殺されかけているだろうが」


「そ、それは否定しないけど……でも、私だっていつもベッドの上であなたのせいで死にそうなんだから~!」


 あっ、バカ野郎。


「「「フベルワシアガオウガウ!?」」」


 もはや、男子たちは意味の分からない言語で悶えて死亡した。


 死体にさらに追い打ちをかけるとか、恐ろしい女だぜ。


 俺は席から立ち上がる。


「あん、ダーリン。どこに行くの?」


「悪い、ちょっとトイレ」


「あら、そう」


「じゃあその間に、春日くんとのエッチの話を聞かせてよ~」


「ええ、良いわよ」


 今すぐこの色ボケ女を張り倒したかったけど、結局は無駄なことだし、余計に面倒なことになりそうだからあきらめた。


「はぁ~……」


 あいつと付き合うようになって学園生活が楽しくなったけど。


 それと同時に、面倒なことも増えたな~。


「ちょっと待ちなさい」


 ふいに、鋭い声に呼ばれて振り向く。


 そこには今どきちょっと珍しい、おさげ髪の少女がいた。


「……誰?」


「私は美波雫みなみしずく、1年生です。あなたは2年の春日光一さんですね?」


「ああ、そうだけど……何の用だ?」


 目付きからして、とても友好的な態度とは思えない。


「……クソ、何でこんな冴えない男が、桜子さまの彼氏なの?」


「桜子様?」


「ええ、そうよ! 私は『桜子さま親衛隊』のメンバーなの!」


 ドーン!と大してない胸を張って彼女は言う。


「へぇ」


「ちょっと、少しは驚きなさいよ!」


「まあ、あいつならそれくらいはあるかなって」


「本当にムカツク男ね……」


 美波雫はギリギリと歯ぎしりをしながら俺を睨む。


「ちなみにだけど、あなたは桜子さまから何て呼ばれているの?」


「え? 普通に名前で光一って。ああ、俺もたまに『光一さま』って呼ばれるな」


「な、何ですって……あなたのような大して取り柄もなさそうな男のことを、桜子さまはなぜ……」


「なぁ、俺トイレに行く途中だから、もう良い?」


「良くありません!」


「えぇ~……」


 俺は心底ゲンナリする。


 その間、美波雫はブツブツと何かを呟いていた。


「……よし、決めたわ」


「何を?」


 美波雫はキッと鋭く俺を見据えた。


「あなたが桜子さまにふさわしい男かを確かめるために、私とデートしてもらいます!」


 ビシッと指を差されてそう言われた。


 また襲い来る至極の面倒ごとに、俺は白目を剥いた。




      ◇




 一方その頃、桜子は……


「それでね、光一がそこでこうやって……」


「きゃ~、何それ~! あたしの彼氏じゃ絶対にやってくれないよ~!」


「ねえねえ、ちょっとだけ春日くんをレンタルしてくれない?」


「うふふ、そうしたら殺しちゃうから、ダメよ♡」


「や、やだもう~、桜子ちゃんってば怖い~!」


 ガールズトークに花が咲いていた。







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