21 衝撃の新学期

 新学期初日。


 俺と桜子は一緒に家を出た。


「……昨日は激しかったわね」


「そうだな」


「きっと、ご両親にも聞かれたわよね」


「お前の声が大きかったからな」


「ちょっ、誰のせいだと思っているのよ!」


 桜子がポカポカと俺の肩を叩く。


「朝からうるさいなぁ。キスして塞ぐぞ」


「ズキュン」


 それから、俺たちは手を繋いだまま、無言で学校に向かった。


 校門をくぐると、早速ザワつきを感じた。


 周りの連中がジロジロと俺たちのことを見て来る。


 そして、昇降口を上がった時。


「これは……」


 掲示板にデカデカと大きな新聞が張られていた。


『我が陽光学園のマドンナに衝撃スキャンダルが発覚!? お相手はクラスの冴えない男子生徒!?』


 恐らく、新聞部の仕業だろう。


 俺はチラと隣に立つ桜子に目をやる。


「……ふぅん、面白いことしてくれるじゃない」


「ていうか、お前がキスする瞬間も激写しているぞ」


「うちのクラスに新聞部の子がいるから」


「そいつヤリ手だな」


「ええ、本当に……ふふふ」


 正直、桜子の笑顔が怖かった。


「とりあえず、クラスに行きましょうか」


 俺と桜子は絶えず周りの視線を感じながら廊下を歩いて行く。


「おい、聞いたか?」


「ああ、マジかよ」


「俺たちの桜子様が……」


 男子たちの嫉妬の眼差しが俺に注がれている。


 また、女子たちも憧れていた桜子が俺みたいなロクデナシとくっついたことに不満を抱いているようだ。


「……良かったよ」


「え?」


「怒りの矛先が全部俺に向けられて」


 そう言うと、桜子がまたきゅっ、と俺の手を握る。


「私たちは共犯者よ」


「主犯はお前だな」


「何でよ」


「だって、お前から俺にアプローチをした訳だし」


「バッ……そうだけど」


「そして、今は俺もお前にゾッコンな訳だ」


「光一……♡」


 桜子がぴとっと俺に抱き付くと、周りが悲鳴を上げた。


 そして、我らが2年A組の教室の扉を開く。


「あっ」


 誰かしらがそんな声を上げた。


 案の定、クラスメイト達の視線が俺たちに集中する。


 当然だろう、昨日のあんな出来事があれば。


「おい、お嬢」


 髪は黒いけど、少しヤンチャ系の男子が言う。


「お前、本当に春日と付き合っているのか?」


「ええ、そうよ」


「脅されているのか?」


「いや、むしろ脅されたのは俺の方なんだけど」


「は? ぶっ殺すわよ」


「ほら、こんな感じで」


 すると、目の前の男子は額に手を置いてため息を漏らす。


「この夫婦っぽいやり取り……マジかよ。俺、ワンチャンお嬢と付き合えると思っていたのに」


「ごめんなさい。と言うか、あなたのお名前は何だったかしら?」


鮫島剛さめじまつよしだよ! 今まで知らなかったの!?」


「ごめんなさい、光一以外の男子には興味がなくて」


「おいおい、こう見えても俺ってモテるんだぜ? ワイルド系として」


「だから?」


「はぁ~……池山が言っていたこと、冗談だと思っていたけど、マジだったのか」


「池山?……ああ、あのしょうもない男、やっぱりみんなに言い触らしたのかしら?」


「いや、一部の仲良い男子にだけだよ。それでも、みんな信じなかったんだけどな……」


 鮫島は周りのクラスの連中に視線を巡らせて言う。


「そんなことよりも、新聞部の子はいるかしら……えっと、麦畑むぎばたけさんだったかしら?」


 桜子が言うと、小柄な女子がビクっとした。


「あなたよね? 私と光一の熱いキス写真を撮ったのは?」


「えっと……はい」


「許せないわね」


「ひぅ!」


 麦畑さんはビクリと震える。


「おい、桜子」


 俺は肩に触れて止めようとするが、


「どうせ撮るなら、もっと上手に撮りなさい。あなた、それでもプロなの?」


「へっ? いえ、あの……ごめんなさい」


「仕方ないわね。じゃあ、今から改めてしてあげるから、今度は上手に撮ってね」


「あ、はい」


 麦畑さんは慌ててカメラを構える。


「って、おい。しないから」


「何でよぅ、光一ぃ」


「お前な……みんなの気持ちも考えろよ」


「えっ?」


「お前が俺を想ってくれる気持ちは嬉しいよ。けどさ、クラスの連中を初め、学園の生徒たちはお前のことが憧れだったんだから。やっぱり、それなりの対応はしなくちゃいけないよ」


「それは……」


 桜子はシュンと俯いてしまう。


 俺はその頭にそっと手を置いた。


「まあ、俺も一緒にしてやるよ。何せ共犯者だからな」


「光一……そこは彼氏って言いなさいよ」


「ああ、すまん」


 俺たちが軽く微笑み合うと、


「おい」


 鮫島がこちらに歩み寄って来た。


 険しい顔をしている。


 もしかしたら、俺は殴られてしまうかもしれない。


 その時は、桜子が暴走しないように気を付けないと。


「春日……」


「ああ」


 俺は既に腹を決めていた。


「……すまん」


 鮫島が腰を折って頭を下げた。


「……え?」


「俺ら、お前に対してひどいことを言っちまった。冴えない奴とか、お嬢の召使いとか……けど、お前は俺らが思っていたよりも、ずっと強い男なんだな。お嬢が惚れるのも納得だぜ」


「鮫島……」


 周りを見ると、他のみんなも俺に対して向ける目の色が変わっていた。


「その通りよ」


 桜子が口を開く。


「確かに、光一は勉強も運動もロクに出来ないし、本当にダメな男。けど……エッチは抜群に上手いんだから」


「「「えっ?」」」


 みんなが目を丸くした。


「おい、お嬢……まさか、もう春日とシたのか?」


「もちろん。7月の内に夏休みの宿題をぜんぶ終わらせて、8月の1ヶ月は毎日していたんだから。特に最終日の昨晩なんて彼の部屋でとても盛り上がったし。まあ、あなた達のおかげもあるわね」


 一人嬉しそうにつらつらと語る桜子を周りの連中はあんぐりと口を開けて語る。


「あ、麦畑さん。もしかして、今のも記事にしちゃう? 『学園のマドンナが実はビッチだった!?』……とか」


「いえ、その……」


「まあ、その時は大人しく停学でも何でも食らうわ。そうしたら、お家に光一を招いて好きなだけエッチ出来ちゃうし♡」


「おい、桜子さん? ちょっと暴走気味じゃないか?」


「いやん、誰のせいだと思っているのよ?」


 桜子はすっかりデレモードで俺に抱き付く。


「「「うおおおおおおおおおおおおおぉ!」」」


 そのせいか、周りの男どもは盛大に涙を流しながら雄叫びを上げた。


 一方、女子たちは……


「……春日くんって、見かけによらずスゴいんだ」


「……一度、シてもらいたいな」


「……けど、桜子ちゃんが怒るよね」


 こっちはこっちで、何だか不穏な気配が漂うことを言っているけど。


 とりあえず、一日でも早くまた平穏な学園生活を取り戻したいです。







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