20 とうとう二人の関係が……

 夏休み最終日。


 俺たち2年A組のクラス全員でカラオケに行くことになった。


「わぁ、桜子ちゃん髪の毛切ったんだ~」


「可愛い~」


「ありがとう」


 やはり、彼女はみんなの注目の的だ。


「イエーイ、歌おうぜ~!」


 ハシャぐ男子たち。


 どう足掻いても、俺はあのノリに付いて行けない。


 最近はカラオケ屋でメシを食う客が増加していると聞くだけあって、テーブルに並ぶメニューはどれも美味かった。


 特にからあげとチャーハンのセットが美味くて、俺はひたすらにそれを頬張っていた。


「ねえねえ、桜子ちゃんも一緒に歌おうよ~」


「ええ、良いわよ」


 彼女は笑顔で応える。


 立ち上がった彼女はクラスの女子たちと一緒にマイクを持った。


 響く歌声は凛としてきれいだった。


 正に、学園のみんなが憧れる美少女優等生のモノだ。


「イエ~イ!」


「さすが桜子ちゃん!」


「付き合って~!」


 男子たちから声援が飛ぶ。


「そういえばさ、桜子ちゃんって風間くんを振ったんでしょ?」


「え~、あのサッカー部のエースの風間くんを~?」


「そんなこともあったかしらね」


 彼女は曖昧に微笑んで言う。


「ていうか、桜子ちゃんって誰か付き合っている人はいるの?」


 その問いかけに、彼女は少しだけ間を置いた。


「内緒ってことで」


「え~、気になる~!」


「もう、絶対に彼氏とかいるでしょ~!」


「マジかよ~!」


 男女ともに盛り上がる。


 俺は空になったグラスを持って立ち上がる。


 カラオケルームから出ると、少しだけ清涼感を覚えた。


 やはり、あれだけの人数が密集している所は暑苦しい。


 俺はドリンクバーのサーバー前に立つ。


「えーと……」


「メロンソーダをお願い出来るかしら」


 振り向くと、桜子がいた。


「あいよ」


 俺は自分と彼女のグラスをセットしてボタンを押す。


 ちなみに、俺はサイダーを選んだ。


「……ごめんなさい」


「え、何が?」


「付き合っている人がいるかって聞かれて、ハッキリと答えられなくて」


「ああ、そんなことか。別に気にしてないよ。だって、学園のマドンナとクラスの日陰者じゃあ、どう考えても釣り合わないだろう」


「光一……」


 グラスにドリンクが注がれた。


 俺は二つのそれを持って、


「じゃあ、戻ろうか」


「……うん」


 二人で一緒に部屋に戻る。


「あ、桜子ちゃんお帰り」


「うん」


 クラスメイトに言われて、彼女はニコリと微笑む。


「あ、やっぱり」


「何が?」


「春日くんって、桜子ちゃんの召使いなんだね」


「…………え?」


「ほら、桜子ちゃんが学級委員長で、春日くんが副委員長だし」


「良いな~、俺もさくら嬢の召使いになりて~」


「彼氏じゃないのかよ!」


 ギャハハハハ!


 クラスメイトたちの笑い声が響き渡る。


「けどまあ、春日くんじゃ、どう足掻いても桜子ちゃんの彼氏なんてありえないから。男避けには良いかもね」


「だよね~。桜子ちゃんってモテるから、変な男子たちも寄って来るだろうし」


「って、俺らを見て言うなよ!」


 ギャハハハハ!


 また、クラスメイトたちの笑い声が響き渡る。


「――彼氏ですけど、何か?」


 ふいに、彼女が発した言葉を、誰しもがすぐに飲み込めなかった。


「「「…………は?」」」


 クラスメイト達は一斉にポカンとする。


 その間、桜子はふいに俺に振り向き、そしてキスをした。


 一瞬、静寂が舞い降りる。


「「「…………えええええええええええええええええええええええええぇ!!!」」」


 そして、大絶叫が起きた。


 クラスメイト達が明らかに困惑し阿鼻叫喚する最中、


「あなた達、もし次に私の愛する彼を侮辱したら……殺すわよ」


 とうとう、桜子はその本性をさらけ出してしまう。


 今まで、明るく誰からも愛される学園のマドンナだった彼女の未だかつてない逆鱗に触れて、クラスメイトたちは驚愕し慄いているようだった。


「……行きましょう」


 桜子は俺の手を引っ張り部屋から出る。


 そのまま、カラオケ屋を後にした。


「おい、桜子」


 俺が声をかけても止まらない。


「桜子ってば」


 少し語気を強めて言うと、ようやく彼女は立ち止まった。


「良いのか? お前のイメージが……」


「許せなかったの」


 桜子は言う。


「私の大好きなあなたが、みんなにバカにされて……」


 桜子は少し泣きそうな顔でそう言った。


 俺はそんな彼女の頭に優しく手を置く。


「バカだな、お前は」


「バ、バカとは何よ。私は……」


 彼女の言葉を遮るように、俺はキスをした。


「……さっきのお返しだよ」


「……こ、光一」


 桜子の頬が赤らむ。


「そういえばさ、今日は特別な日だよな」


「え? 夏休み最後の日ってこと?」


「そう。だからさ、お前が買った特別なやつを使ってするんだろ?」


「あっ……」


「今日はクラスの奴らとカラオケに行くって言うからナシになると思ったけど……幸か不幸か、こうして二人きりになった訳だし。どうする?」


「……こ、光一は……したいの?」


「正直、メチャクチャ楽しみにしていた」


「エッチ……良いよ、私のことをメチャクチャにしても」


「メチャクチャにして下さい、だろ?」


「こ、光一さま……」


「さま付けはいらねーよ。じゃあ、適当にホテルにしけこむか」


「わ、私たちは高校生だから無理よ」


「じゃあ、俺の部屋にするか? きっと朝、親がニヤニヤしてうざいだろうけど」


「え、ちょっと待って……朝までするの?」


「いやいや、明日から学校だしさすがにそれは無いよ。ただ、朝まで一緒にベッドにいたいなって」


「で、でも、いきなりお泊りなんて、私の親が……」


「じゃあ、これからまずお前の家に行くか。着替えとか制服とかも持って来なくちゃだし。ついでに、『将来、娘さんと結婚をさせてもらう男です』ってあいさつをした方が良い?」


「あ、あなた……」


「やっぱり、非常識かな?」


「ううん。アウトローなあなたも素敵よ♡」


「決まりだな。ちなみに、桜子のお父さんって怖い人?」


「ううん、優しい人よ。少なくとも、私にとっては」


「何か怖いな。やっぱりやめようかな」


「ちょっと、こんなに私を興奮させて放置とか、あり得ないわ」


「ウソだよ。じゃあ、行きますか」


「……うん」


 俺と桜子は手を繋いで歩いて行った。







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