19 お部屋でグラビアごっこ

 俺はコンビニで立ち読みをしていた。


「何を読んでいるの?」


「ああ、桜子。もう買い物は終わったのか?」


「ええ、終わったわ。それで何を読んでいるの? エロ本?」


「いや、週刊マンガ雑誌だよ」


「けど、表紙に水着姿の嫌らしい女が写っているじゃない」


「安心しろ、お前ほど嫌らしくないよ」


「は? ぶっ殺すわよ」


「ごめん、ごめん。安心しろよ、このグラドルはそんな好みじゃないから、ページは見てないよ」


「本当かしら?」


「だって、この子いかにも明るい良い子って感じだろ? 俺はもうちょっと陰キャというか、影のある女が好きだから」


「……それって私のこと?」


「嬉しくないかな?」


「超絶うれぴー」


「何か古いしダサいな」


「ズーン……」


 しまった、こいつが豆腐メンタルなのを忘れていた。


「悪かったよ。じゃあ、早く家に行こうぜ」


「うん」




      ◇




 まだまだ夏休みは継続中。


 今日は桜子の家に遊びに来た。


「お前の部屋は良い匂いがするな」


「ありがとう。光一の部屋もイカ臭くて素敵よ」


「バカにしてんのか」


「やん、怒らないで」


「はいはい」


 俺は適当に座ると、コンビニの袋をテーブルに置いた。


「お菓子食おうぜ」


 袋から中身を出して言うと、


「……ねえ、その前にやりたいことがあるんだけど」


「え、何?」


「グラビア撮影」


「……誰が何の役?」


「当然、被写体が私で、エロカメラマンが光一よ」


「誰がエロカメラマンだ。彼らだって立派なプロ意識を持って仕事しているだぞ。バカにするな」


「もちろん、褒め言葉よ。エロとは素晴らしいものだとちゃんと理解しているから」


「まあ、桜子はエッチな子だからな」


「そ、その口を切り落とすわよ!」


 ヤンデレがツンデレによって中和される。


「けど、カメラなんて無いぞ?」


「スマホがあるでしょ」


「水着は?」


「ここにあるわよ」


 桜子はクローゼットを漁りながら言う。


「ちょっと驚かせたいから、あっちを向いてちょうだい」


「分かったよ」


「私が着替えている間、絶対に振り向いちゃダメよ?」


「分かったよ」


 そして、衣擦れの音がする。


 俺はあぐらをかきながらぼんやりと花柄模様の壁を見つめていた。


「光一、もうすぐできがえ終わっちゃうわよ? 良いの?」


「うん、早くしてくれ」


「本当に良いの? 私の大事な所とか見るチャンスよ?」


「ていうか、もう何度も見ているから」


「あっ……」


 振り向かなくても、桜子が激しく赤面している様子が伺えた。


 やがて……


「……着替え終わったわ」


「おう」


 俺はくるりと振り向く。


「あれ、この前と水着が違うな」


 前に海に行った時はまっピンクだったけど。


 今回は爽やかな水色だ。


 どちらにせよ、また意外な色のチョイスだけど。


「に、似合うかしら?」


「うん」


「こ、興奮するかしら?」


「うん」


 俺が頷くと、桜子はベッドに飛び乗り顔を押さえながら足踏みをする。


「……じゃ、じゃあ、撮りなさい」


「はいはい」


 俺は適当にスマホを構えてシャッターを押す。


「ちょっと、ちゃんと合図をしなさいよ。決め顔が出来ないでしょ?」


「だって、ありのままのお前を写したいし」


「光一……♡」


 桜子は赤らめた頬を押さえてテレテレしている。


「じゃあ、適当にポーズを取って」


「適当って……何か指示をちょうだいよ」


「んーと、じゃあ、谷間を強調して」


「こうかしら?」


 桜子はベッドの上で四つん這いになり、両手できゅっと胸を寄せた。


「良いよ~、デカいよ~」


「ちょっと、恥ずかしいでしょ……」


「じゃあ、やめる?」


「……続けなさい」


「そうしたら今度は小道具を使おうか」


 俺は買って来たお菓子を漁る。


「じゃあ、このゼリーを食べながら。ソーダ味で水色だから、ちょうど水着ともマッチするし」


「ふん、新米カメラマンにしては良いアイディアじゃない」


「あざっす。じゃあ、食べて。変に意識しないで自然にな」


 俺はスマホを構えながら言う。


 桜子は少し緊張した様子でゼリーをスプーンですくって食べた。


「ちょっと笑顔が硬いな」


「そ、そんなことを言われても……」


「俺は桜子の笑顔が見たい。最高に可愛いからな」


「ドズキュン!」


 ちょっと大きな声を出した桜子はベッドに倒れる。


「ハァ、ハァ……」


「おいおい、桜子。これはあくまでも少年が読む雑誌のグラビアを想定してのことだぜ? そんなエロ過ぎる感じはNGだよ」


「だ、誰のせいだと思っているのよ」


「まあ良いや。じゃあ、今度は三角座りになって」


「こ、こう?」


「うん、良いよ。もっとシュンとした顔をして」


「な、何でよ」


「だって、お前は豆腐メンタルだから。いっそのこと、それをウリにしようかなって」


「バ、バカにしないでちょうだい。自分で言うのもなんだけど、学園の生徒たちからは凛とした憧れって言われているのよ?」


「そうだな。けど、俺の前だけで良いから、本当のお前を見せてくれよ。ていうか、見せろ」


 俺が少し強い口調で言うと、桜子は軽くビクっとした。


 しかし、怯えた様子はなく、むしろ、口元に恍惚とした笑みがこぼれる。


「こ、光一さま……」


「だから、それは良いって。ほら、時間は限られているんだから、さっさと次のポーズを取れよ」


「は、はい。こうかしら?」


「良いよ~。じゃあ、次はお尻を撮ろうか」


「お、お尻?」


「なに、嫌なの? じゃあ、もう撮影やめるけど?」


「や、やりますから。止めないで下さい」


「全く、欲しがりな女だなぁ」


「うきゅぅん! ハァ、ハァ……ど、動悸が……」


「大丈夫か? 少し休もうか?」


「ううん、平気よ」


「とりあえず、水でも飲んで落ち着け」


「ありがとう」


 俺は桜子がペットボトルの水を飲む姿をじーっと見つめていた。


「なあ、それちょっとこぼせない?」


「え?」


「ちょうどよく、その大きな胸にかかる感じで」


「や、やってみるわ」


 桜子は少しだけ口からペットボトルの口を離す。


「あ、そうそう。上手い、上手い。よく出来たな、桜子。すごくエロ可愛いよ」


「ほ、本当に? 嬉しい」


「あれだな。今まで色々なグラビアを見て来たけど、桜子が一番だよ」


「は? 色々なグラビアを見たって許せない……けど、嬉しい♡」


 相変わらず、情緒が忙しい桜子さんだった。







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