18 彼女とアイスを食べるだけの話
今日は俺の部屋に桜子が来ていた。
「相変わらずイカ臭い部屋ね」
「相変わらず失礼なことを言うな」
「どうせ、いつもベッドの下に隠してある物をオカズに一人盛り上がっているんでしょ?」
「お前、見たのか?」
「彼氏の部屋を隅々までチェックするのは当然よ」
桜子は得意げに言う。
「まあ、確かにベッドの下にエロ本があることは否定しない」
「エロ本って、随分とストレートに言うのね。嫌いじゃないけど」
「けど、最後の仕上げはいつもお前の体を想像している」
「ズキュンっ」
「何だよ、その声は」
「あなた、そこは変化球にしなさい。じゃないと、胸キュンで死んじゃうじゃない、この殺人犯」
「なぜか分からないけど、お前にだけは言われたくない」
「ねえねえ、光一ぃ♡ 今日は二人きりで何をするの? どうせまた、私とエッチなことがしたいんでしょ? もう仕方ないわね、ちょっとずつ味わうのよ?」
そう言って、桜子は流し目をしながら服の肩をはだけようとする。
「いや、それは後回しで良いや」
「ガーン」
「この前さ、母さんが間違えてアイスをたくさん買っちゃったから、一緒に食べて欲しいんだ」
俺が言うと、桜子はジト目になる。
「死になさい」
「いきなりそれからよ。良いじゃん、協力してくれよ」
「あなた、か弱い乙女にそんな残飯処理のような真似をさせるつもり?」
「じゃあ、アイスいらない?」
「ありがたくちょうだいするわ」
「相変わらず面倒くさい女だな」
俺は一度、部屋を出て一階のキッチンに向かう。
適当にアイスを選んで部屋に戻ると、
「あっ」
「あっ、じゃねーよ。人のエロ本を勝手に読むな」
「だ、だって……ていうか、光一。この女、私と全然タイプが違うじゃない。殺すわよ?」
「だから、いちいち物騒な言葉を使うな」
「金髪巨乳……恨めしい」
桜子はエロ本の女に嫉妬心を燃やしていた。
「お前のその熱量でアイスが溶けそうだな」
俺は持って来たアイスをテーブルに置く。
「さあ、どれでも好きな物をお食べ」
すると、桜子はなぜかアイスたちを睨む。
「どうした?」
「あなた……わざとなの?」
「え?」
「みんな棒タイプじゃない」
「だって、母さんが買って来たやつみんなそのタイプだったし」
「なるほど、親子そろって卑しい訳ね」
ぶつぶつと呟く桜子が何を言っているのかよく分からない。
棒だと安っぽいから嫌なのかな?
「良いわ、食べてあげる。あなたもそのつもりだったのね、嫌らしい」
「だから、何の話だよ?」
俺は適当にソーダ味のアイスの封を開けて食べる。
「美味いぞ、お前も食べろよ」
「そういえば、まだ味わったこと無かったわね……まあ、予行演習と思えば良いでしょう」
「お前はさっきから何を言っているんだ?」
「じゃあ、このチョコ味をいただくわ」
「どうぞ」
桜子は封を開けると、なぜか妙に緊張感マシマシの状態でアイスを睨む。
「行くわよ、光一」
「何でそんなに覚悟決めた感じなんだよ。もっと気楽に食えよ」
「じゃあ、いただきます」
桜子は礼儀正しく言うと、アイスの先端をちろっと舐めた。
「あ、もしかして知覚過敏なのか? だったら、無理して食べなくても……」
「良いの、食べたいの!」
「そ、そうすか……」
よく分からないけど、俺は何かを頑張ろうとする桜子を見守ることにした。
桜子はぺろぺろとアイスを舐めて行く。
「これくらいで良いのかしら?」
「何が?」
「舐め方とか」
「好きにすれば?」
「はぁ? あなたの好みが肝心でしょうが」
「何をキレているんだよ……とりあえず、溶けない内に早く食えよ」
「まったく、せっかちさんね。もっとゆっくり味わって欲しいのに」
「いや、味わうのはお前だろ?」
「なっ……本当に嫌らしい男ね」
本当に、さっきからこいつは何を言っているんだろう?
ただアイスを食べているだけなのに……
「あっ」
「ようやく察したのね」
「そういえば、このバニラ味が一番高級で美味しいって母さんが言ってたんだ。桜子、今からでもそっちに変えて良いぞ。そのアイスは俺がもらうから」
「あなた、私に浮気をしろって言うの? そして、自分で自分を慰めるつもりなの? どこまで変わった趣味……いえ、変態なのかしら」
「はぁ? 人がせっかく好意で言ってやっているのに、何だよさっきから」
俺が少し苛立って言うと、
「……ごめんなさい」
桜子はシュンとなる。
「お前って、実は豆腐メンタルだよな」
「……そんなに苛めないで」
「で、さっきから何をブツクサ言っていたんだ?」
俺はため息交じりに問いかける。
桜子はモジモジしながら、そっと俺に耳打ちをした。
「……ああ、なるほど」
桜子は正座しながら激しく赤面している。
「……いっそ殺しなさい」
「落ち着け。俺が悪かったよ」
シュンとする桜子の頭を優しく撫でてやる。
「光一……」
「じゃあさ……本物いる?」
「えっ……」
桜子の目が大きく見開かれる。
「あ、でもアイスを食べたばかりの口だと冷たくて刺激が強いから」
俺は桜子の肩を抱き寄せてキスをする。
彼女の華奢な肩がビクンと震えた。
「……こ、光一さま」
「何で様付けだよ。けどまあ、これであったまったな」
俺が見つめる間、桜子は頬を紅潮させたままボーっとしている。
「で、どうする? お前が嫌なら別に良いけど?」
「……今日のノルマはまだこなしていないから」
「うん、分かった」
俺が笑顔を浮かべて頷くと、桜子も安心したように微笑んだ。
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