17 ツンデレデレな海

『もうすぐ着くよ♡』


 桜子から送られて来たLINEを見つめる。


 みんなが憧れる優等生の皮をかぶった、中身は性悪の毒舌、けど本当は可愛らしい。


 魅惑の三層とでも言おうか。


 その真の魅力にたどり着くまで面倒だけど、可愛い奴だ。


「おまたせ、光一」


 澄んだ彼女の声に振り向く。


「…………えっ?」


 俺は目を丸くした。


 腰の辺りまで長く伸びる黒髪のロングが魅力だった彼女。


 けど、その髪はバッサリと切り落とされ、肩くらいの長さになっている。


 俺は口を半開きにして硬直した。


「……ちょっと、可愛い彼女がイメチェンしたのよ? 何か言いなさいよ、ぶっ飛ばすわよ?」


「……いや、ごめん。可愛過ぎて言葉が飛んだ」


「やん、もう♡」


 桜子は身をくねらせる。


「夏だし髪を切ったの。いつも、光一が私の体を火照らせるのがいけないんだから」


「ハハ……」


「じゃあ、行きましょ?」


「ああ」


 俺は桜子に手を引っ張られ、改札口をくぐった。




      ◇




 海。


 それは夏の定番イベントである。


(桜子のやつ、どんな水着を着て来るのかな?)


 清潔感のある白いビキニか?


 大人っぽい黒のビキニだろうか?


 まあどちらにせよ、楽しみではあるけど。


「お待たせ」


 桜子の声がして振り向く。


「おう、来たか……」


 俺はまた絶句してしまう。


 もしかしたら、ガードが堅い彼女はビキニを着てくれないかな~、なんて不安を抱いた。


 けれども、ちゃんとビキニを着ている。


 ただその色が白でも黒でもなく、ピンク色だった。


 いや、派手なピンクではなく、正に桜のように優しい桃色とでも言うべきか。


 今は夏なのに、春の清涼感が吹き抜けるような感覚さえあった。


「……ちょっと、感想は?」


「……あ、可愛いよ。あと、やっぱり胸デカいな。何カップあるんだっけ?」


「黙りなさい、変態……Iカップ」


「え、また大きくなってない?」


「う、うるさいわね。あなたが揉みまくるせいよ?」


「だって、お前が欲しいって言う訳だし」


 そんな風に俺たちが言い合っていると、


「うわ、あの子すげえスタイル」


「細くてけどおっぱいはデカいとか」


「グラドル並み」


「でも、彼氏持ちかよ」


 やはり、桜子は周りから注目される存在だ。


「お前、ナンパとか気を付けろよ」


「大丈夫、ずっと光一にくっついているから。地の果てまでもね」


「怖い怖い。ていうか、ここは海だから、水平線の彼方までが正解じゃね?」


「細かい男ね。だから、エッチの時の攻め方も……あっ、何でもない」


「……じゃあ、行きますか」


「……う、うん」


 桜子はぴたっと俺の腕に抱き付く。


 知らぬ間にIカップへと成長していた巨乳を惜しげもなく当てられて、俺は少なからずドキマギしてしまう。


「で、何をしようか?」


「そうね……定番だと水をかけ合う感じかしら?」


「そうだな。えいっ」


「きゃっ……ちょっと、胸を狙ったでしょ?」


「いや、そんなことはないよ。ていうか、お前のおっぱいがデカすぎるから、当たっちゃうんだよ」


「あなた、よくもそんなセクハラ発言を……」


 俺のことを睨みつつも、桜子は激しく赤面する。


「お返しよ」


 バシャッ、と桜子は俺の下半身に目がけて水をかける。


「……やっぱり、お前って変態だな」


「なっ、あ、あなたに言われたくないわよ」


「よし、決めた。おっぱいにかけまくって、その水着を飛ばしてやる」


「ちょっと、やめなさいよ。買ったばかりのお気に入りなんだから」


 桜子は両手で胸を隠すようしながら言う。


「分かったよ。じゃあ、平和に砂浜を散歩するか?」


「……良いわよ」


 俺は少しふてくされ気味の桜子の手を取った。


 それから、二人で砂浜を歩く。


「まだ怒っている?」


「別に?」


「ごめん、お前のおっぱいが魅力的だから狙ったかも」


「ふん、やっぱりね」


「なあ、桜子。せっかくの海なんだし、もっと笑えよ。俺はお前の笑った顔が好きなんだよ」


 そう言うと、桜子はピタリと止まる。


 それから、俺の方を見上げると、ぎこちなく笑おうとした。


「うわー、怖い、怖い」


「ちょっと、ぶっ殺すわよ?」


「あ、また殺すって言いやがった」


「じゃあ、ぶっころ」


「どちらにせよだ」


「だって、仕方ないじゃない……あなたの前だと、何もかも思い通りに行かなくて……こんなの恥ずかしいのに……嬉しいって思う自分も居るの」


「お前……ドMなんだな」


 桜子が拳を構えたので俺はどうどうといなす。


「分かった、今のは俺が悪かった」


「本当よ」


「じゃあ、どうすれば機嫌を直してくれる?」


「……キスして」


「分かった」


 俺はちゅっと桜子にキスをする。


「……そんなんじゃダメ。もっと深く、この青い海のように」


「ポエムかよ」


「う、うるしゃい!」


「あ、噛んだ」


「ぶっころ」


「はいはい、分かったよ」


 俺は髪を切った桜子の頭を抱き寄せると、さっきよりも深くキスをしてあげた。







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