16 夏の変態観測

『光一、天体観測をするわよ』


 そう言われたのは、お昼前に目を覚ました時だった。


『ちなみに、今日の夜にね』


「また急だな」


『良いでしょ、どうせ暇なんだから』


「まあ、そうだけど。で、どこでするんだ?」


『学校の屋上よ』


「え? 夏休みだし夜だけど入って良いのか?」


『先生に許可をもらったの。夏休みの機会に星座について勉強したいって』


「さすが、先生方から信頼の厚い優等生様だな」


『道具も学校の備品としてあるから、それを借りるわ』


「了解した」


『じゃあ、楽しみにしているわ』


「うん。あ、何か持って行く物はあるか?」


『そうね……じゃあ、寝袋で』


「そこで一晩を明かすのか?」


『学校の屋上でするのも悪くないでしょ?』


「お前、何かどんどんエッチな子になって行くな」


『にゃっ……う、うるしゃい! とにかく、ちゃんと時刻通りに来なかったらぶっ飛ばすんだからね!』


 ブツッ、と通話が切れた。


「……萌え~」


 俺はあえて古い言葉でそう言った。




      ◇




 そして、約束通りの時間に俺は校門の前にやって来た。


「桜子」


 先に来ていた彼女に呼びかけると、


「光一、彼氏なら先に来てなさい。彼女としては『ごめん、待った~?』ってやりたいのよ」


「すまん。ちなみに、いつぐらいに到着したんだ?」


「一時間前よ」


「早っ! 無理だし! ていうか、こんな遅い時間に女子が一人で突っ立っていて、襲われたらどうするんだよ?」


「大丈夫、武器はちゃんと持っているから」


「鉛筆やコンパスじゃどうにもならないの」


「まあ、良いじゃない。こうしてきれいな体のまま、あなたを迎えることが出来た訳だし」


「お前の心はドロドロに汚れきっているけどな」


「は? ぶっ飛ばすわよ?」


「ごめんなさい」


 何やかんや言いつつ、俺たちは理科準備室から望遠鏡を運んで屋上に向かった。


「はぁ、はぁ……重かったぁ」


「情けないわね、男のくせに」


「桜子は力も強いんだなぁ」


「ちょっと、女子に対して力が強いとか言わないで。殴るわよ」


「ちょっとシャレにならないからやめて」


 そんなこんなで、天体観測を始める。


「デネブ、アルタイル、ベガ。夏の大三角形ね」


「へぇ、あれが……きれいだな」


「やだ、照れるじゃない」


「いや、お前に言った訳じゃないけど」


「は? 殴るわよ?」


「お前の方がもっときれいだからな」


「光一……♡」


 桜子がぴたっとくっついて来る。


「あ、ほら見て。あの星座、光一のアレにそっくり」


「そうなのか?」


「うん。あなたは勉強もスポーツもダメダメだけど、アッチの才能は抜群だから。アレもアレくらい立派だし」


「アレアレ言うな」


「ちなみに、私のおっぱいはどれだと思う?」


「え?……アレかな」


「ぶっぶー。もうちょっと大きいわよ?」


「どれどれ」


「……あっ」


「本当だ。いつの間にこんなに大きくなった」


「もう、毎日しているのに、何で分からないの?」


「むしろ、毎日見ているから気付かないこともあるんだよ。お前の可愛さとか」


「もうダメ、エッチしたい」


「我慢しろ。お星さまの前で失礼だろ」


「むしろ、見たがっているんじゃない?」


「じゃあさ、お前が俺をその気にさせてくれよ」


「えっ? わ、分かったわ」


 桜子は少し頬を赤らめながら俺を見つめる。


 そして、俺の頬に両手を添えると、目を閉じてキスをして来た。


「……どうかしら?」


「まだ足りないよ」


「もう、ワガママね」


 桜子はまたキスをする。


 それから、舌を絡めて来た。


 まだ覚えたてのようで覚束ない。


「桜子は、こっちの方はまだまだだな」


「う、うるさいわね……じゃあ、あなたがお手本を示しなさいよ」


「えっと、まあ……」


 そう言われたので、俺はお返しとして桜子と自分の舌を絡ませる。


 彼女はその華奢な肩をビクビクと震わせた。


「……な、何でそんなに上手いの? 将来の夢は男優?」


「いや、なるべく平凡かつ楽に生きたいから公務員」


「夢のない男ね」


「嫌いかな?」


「……光一が好き」


 桜子はまた自分から求めるようにキスをして来た。


 俺はその肩を抱きながら優しく手ほどきをするように舌を絡めてあげる。


 彼女の口の中を俺が支配して蹂躙しているようで、正直たまらない。


 普段は気丈な桜子も、所詮は一人の女だ。


 好きな男の前だと、こんなにもか弱い乙女の顔になる。


「……ハァ、ハァ、光一……しゅき」


「赤ちゃん言葉かよ」


「う、うるしゃい! あまりバカにすると、ぶっ飛ばすわよ!」


 ぶっ殺すと言わなくなった辺り、少しは更生している。


「お前がもっと良い子になるように、俺がこれからも調教してやるよ」


「ちょ、調教?」


「あ、間違えた。指導してやるよ」


「どちらにせよ……ひどい男ね」


「ああ、俺はひどい男だ。別れるなら、今の内だぞ?」


「……繋がりたい」


「1日くらい休まない?」


「イヤだ。夏休みの目標なの」


「さいですか」


 途中から、天体観測とかどうでも良くなった。







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