11 相合傘したいんですか?

 梅雨はまだまだ続く。


「早く夏が来ないかな」


 昼休み、いつものように空き教室で東条と弁当を食べながら言う。


「ああでも、お前は梅雨が好きなんだっけ?」


「ええ。この前は春日くんと二人で図書館に行けて楽しかったわ」


「そうだな。お前がエッチな子だって判明したし……って、箸の先をこっちに向けるな」


「あなたが私をからかうのがいけないのよ」


 東条は軽く睨みを利かせながら言う。


 その目が怖かったので、俺は視線を下にズラす。


 すると、衣替えで前よりも目立つようになった東条の胸があった。


「……そういえばさ、何カップあるんだ?」


「……何の話かしら?」


「いや、胸の話ですけど」


「なぜ、至極当然のように聞いて来るのかしら?」


「まあ、彼氏だし」


「例え彼氏だとしても、彼女の全てを知れると思わないで? 所詮は他人だし、プライバシーだってあるのよ?」


「ごめんなさい」


「ちなみにGカップですけど何か?」


「結局、教えてくれるのか。ツンデレと言うか、面倒くさい女だなぁ」


「何よ、殺すわよ?」


「分かった、殺しても良いけど、殺され方は選ばせてくれ」


「どう殺されたいの?」


「お前のそのGカップ巨乳で窒息死をしたい」


「呆れたわ。あなたがそんなにおっぱい星人だったなんて。じゃあもし、私が貧乳だったら付き合っていなかったことよね?」


「いや、そんなことはないよ」


「だって、あなたは私のおっぱいにしか魅力を感じていないんでしょ?」


「まあ、確かにそのおっぱいは大きな魅力だけど。結局はおまけだよ。俺はお前の内面に惚れたんだ。ちょっと怖いし面倒くさいけど、最後にはちゃんと可愛いお前に惚れたんだ」


「……バカじゃないの?」


 そう言いつつ、東条は頬を赤らめてどこか嬉しそうに髪の毛を弄っていた。




      ◇




 放課後、俺は東条と一緒に帰ることになった。


「春日くん、大変」


「どうした?」


「私の傘が無いの」


「え? でも、アレってお前の傘じゃ……」


 俺が指を差して言うと、東条はスタスタとそれの方に歩み寄って手に持つ。


 それを膝で叩き折った。


 唖然として見ている俺に対して、


「……カサ、壊れちゃった♡」


「いや、たった今、お前が壊したんだろ」


「これはもう、仕方ないわね。二人で一つの傘に入るしかないわ」


「もしかして、相合傘がしたいのか?」


 俺が言うと、東条は口ごもる。


「べ、別にそんなモノに興味は無いのだけど、春日くんがどうしてもしたいって言うなら、構わないわよ」


「相変わらず、面倒くさいなぁ」


「何よ、そんなイジワル言わなくても良いじゃない」


「わ、分かったよ。けど、良いのか? もしそんなことをしたら、周りのみんなからカップルだって疑われるぞ?」


「安心して。前に他の生徒から『最近、東条さんと一緒にいるあの冴えない感じの男子って、もしかして彼氏なの?』って聞かれて、『いいえ、下僕よ』って答えておいたから」


「色々とひどいな」


「だって、仕方ないじゃない。彼氏が出来たって知られたら、みんなに騒がれて大変だし。何より、恥ずかしくてたまらないから……」


「まあ、良いけど。じゃあ、行きますか、ご主人様」


 俺は不服ながら傘を差してそう言った。


「うん、ダーリン♡」


「お前、そんな風にイチャついたらバレるぞ」


「あ、そうだった……一滴たりとも私を濡らさないで。もし濡らしたら、このカサであなたを刺し殺すわよ?」


「ちょうど良い中間のセリフってありませんか?」


 そんなこんなで、俺は東条と相合傘をして帰った。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る