12 ……もう1回

「そういえば、東条」


「何かしら、春日くん?」


 俺は東条と並んで廊下を歩いて行く。


 ちなみに、東条は学園の星でありマドンナのため、すれ違う生徒たちか羨望の眼差しを向けられている。


 そして、その隣を歩く俺は素敵な彼氏……などではなく、家来のように思われているようだ。


 まあ、そのように印象操作をしたのは東条なのだけど。


「お前の家に行ったことがないから、今日の放課後に行っても良いか?」


「あら、この前ラブラブ相合傘をした時に来たじゃない」


「まあ、そうなんだけど。中には入っていないだろ?」


「そんなに私の……中に入りたいの? エッチな人ね」


「何で肝心の部分を誤魔化して言うんだよ」


「それで、私の家に来てどうするつもり? まさか、押し倒すの?」


「今の所その予定も度胸もないです」


「ふん……」


「もしかして、家庭の事情でまずいとか?」


「お父さんはサラリーマン、母は主婦兼パートのごくごく普通の家庭よ」


「そっか」


「だから、あなたがどうしても来たいなら良いわよ」


「いや、どうしてもって訳じゃないけど……」


「どうしても来たいのよね?」


「あ、はい」


 東条はずいと迫ってから離れ、ニコリと笑う。


「じゃあ、良いわよ」




      ◇




 コンビニのレジが男の人で良かった。


「あの、何でコレを?」


「良いから、寄越しなさい」


 俺は紙袋に入ったそれを東条に渡す。


「もしかして……したいとか?」


「はぁ? ぶっ殺すわよ」


「そこまで言わなくても……」


「万が一、あなたが狼になった時の予防策よ。これを付けてしなかったら……もぐわよ」


「怖いな。やっぱり、行くのやめようか……」


「何でよ? ここまで来たくせに引き返すつもり? 男ならドンと来なさいよ」


「いや、もがれるとか言われて、わざわざ行く男はいませんて」


 そう言いつつも、俺は東条の家にやって来た。


「どうぞ」


「お邪魔します」


 家の外面も内面も普通だ。


 学園の星たる東条の家だから、もっとお金持ちっぽいのを想像した。


「私の部屋は二階よ」


「ああ」


 俺たちは階段を上る。


「ここが私の部屋よ」


「へぇ、可愛いネームプレートだな」


 ドアには『桜子の部屋』と可愛い丸文字で書かれていた。


「あまり見ないで。目を潰されたいの?」


「いちいち怖いな」


 俺はまた怯えつつも、東条の部屋に足を踏み入れた。


「へぇ、ここが東条の部屋なんだ」


 女子にしてはスッキリしているというか、シンプルな佇まいだ。


「何よ、殺風景って言いたいの?」


「いや、俺は好きだなと思って」


「…………」


 東条は何も言わずに小さな丸テーブルの前に正座をした。


 俺も適当にあぐらをかいて座る。


「さて、これからどうしましょうか?」


「そういえば、何も考えていなかったな」


「まさか、いきなりエッチしようなんて言わないでしょうね」


「言わないよ」


「本当かしら?」


 東条は警戒しつつ、紙袋からそのブツを取り出し、ビニールパッケージを剥がす。


 それから取り出すと、妙に見入って小さく驚きながら、几帳面に一つずつバラして行く。


「勘違いしないでちょうだい。私は別にあなたとエッチがしたい訳じゃないの。そんなことは、将来結婚してからで十分だし」


「じゃあ、もし東条と結婚しなかったら、一生エッチできないんだな」


「……そうね」


 東条が少しだけ頬を膨らませる。


「春日くん、もし私とあなたが結婚前にも関わらず、エッチをすることになったとしましょう」


「あ、うん」


「その時は、キスや乳揉みと同様に、1日1回までよ」


「じゃあ、それは1箱に30枚入りだから、1ヶ月ごとに買うペースだな」


「ええ、そうね……って、あなた毎日するつもり?」


「いや、例えばの話だよ」


 東条は例のブツを両手の指先でつまみながら、ジーッと俺を睨んでいる。


「……したい?」


「いや、そこまでは」


「何よ、私に魅力がないの?」


「そうじゃなくて」


「じゃあ、どうしてよ?」


 東条が軽く前のめりになって、じっと俺のことを見つめて来る。


「お前を大切にしたいから」


「えっ?」


「ここでエッチしちゃったら、体だけの関係になっちゃいそうで。俺はもっと、お前の内面を見て好きになりたい。そして、俺のことももっと好きになってくれた時に、エッチしたい……ってのじゃ、ダメかな?」


 東条は目を丸くしながら硬直していた。


 それから、さっと俺に背中を向ける。


「東条さん?」


「……ふ、ふん。私を襲う度胸がないことを、誤魔化さないでちょうだい」


「まあ、それもあるな」


 俺は東条の方ににじり寄った。


 軽くその肩を掴んで振り向かせると、


「きゃっ……」


 顔が真っ赤に染まっていた。


 堪らず、俺はキスをして、乳を揉んだ。


「……か、春日くん」


「大丈夫、これ以上はしないよ。1回ずつの約束だからな」


 俺が東条から離れようとすると、ひしっと制服の袖を掴まれる。


「東条?」


「……も、もう1回だけ、しても良いわよ?」


「え?」


「キスも乳揉みも……」


 東条は顔を赤らめたままそう言う。


「……欲しいのか?」


「う、うるさいわね。したくないのなら、別に良いけど?」


「いや、したいです」


 俺は二度目のキスをして、さらに大きな胸を揉んだ。


 東条はビクビクとなる。


「……じゃあ、これで終わりだな」


「……もう1回」


「え?」


 東条が上目遣いに見て言う。


「嫌なの?」


「そんなことないけど……」


「じゃあ、して?」


 それから、東条の『もう1回』があと10回くらい続いた。







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