9 さわやかイケメンに告白される彼女
俺はいつも通り、昼休みに東条と昼メシを食べていた。
「先日、あなたのお見舞いに行ったのは有意義だったわ」
「ん?」
「ご両親と親しくなることが出来たから。実際、『ウチの子のお嫁さんになって』って言われたし。『元からそのつもりです♡』って言おうかと思ったけど、『いえ、私なんてそんな……』って謙遜した方がウケが良いと思ったからそうしたの」
「へぇ」
「何よ、あなたの将来にも関わる大事なことなのに。そんな無関心でどうするの?」
「だって、いざとなったら関係ないだろ」
「え?」
「例え親に反対されても、本気で好きだったら駆け落ちでも何でもするだろ」
「ヤバ、超カッコイイ……」
東条は咥えていたブロッコリーをぽろりと落とす。
それに付けていたマヨネーズによって、スカートが汚れた。
「春日くん、舐めて拭きなさい」
「何でだよ?」
「あなたのせいなんだから、当然でしょ?」
東条はなぜか頬を赤らめながら怒っている。
本当に面倒くさい女だ。
「あ、東条さん。こんな所にいた」
ふいに、声がして振り向くと、そこには一人の男子生徒がいた。
そのさわやかなスマイルを見て、俺はピンと来た。
こいつは確か、俺たちの学年でも有数のイケメンだ。
風間俊介。サッカー部のエースでキャプテン。
その実力とルックスから女子にモテまくりの奴だ。
「あら、こんにちは。どちら様かしら?」
東条は俺以外に向ける完璧スマイルでそう言った。
「あれ、俺のこと知らない?」
風間はさわやかスマイルを保ちつつも、わずかに頬がひくついているように見えた。
「サッカー部エースでキャプテンの風間だろ」
俺が耳打ちをする。
「あら、あなた詳しいのね。まさか、ホモ?」
「何でそうなるんだよ」
「噂でチラっと聞いたけど、彼が君の召使いかな?」
「は?」
何か聞き捨てならないことを言われたぞ?
「どういうことかしら?」
「いや、君のクラスの連中に聞いたんだけど。隣の席の冴えない男子と最近仲良くしているみたいだって。まさか、学園一の美女である君がそんな男と付き合うはずがないから、召使いとか家来だって、みんなが言っていたよ」
正直、その分析は正しいので、俺は大して怒りはしない。
東条と俺じゃ月とスッポンだし。
全然釣り合いが取れていないから。
「それでさ、俺が今日ここに来たのは、俺と付き合って欲しいなって伝えるためなんだよ」
さわやかイケメンサッカー部のエース。
普通なら、こんな奴に告白されて断る女子はいないだろう。
けれども、俺の隣に座っているこの女は普通じゃないから。
「お断りします」
笑顔でそう言った。
「……え?」
「だって、私はその召使いくんとお付き合いしているんだもの」
「ハハ、またまた~、冗談でしょ?」
「本気よ? だって、もうベロチューをした仲だし」
「ベ、ベロ……えぇ?」
さしものさわやか君もその表情を崩して困惑する。
「それに、私はあなたみたいに顔だけで面白味のない男に興味がないの」
笑顔で毒を吐く東条に風間は呆然としている。
これまで、俺以外の連中には一切毒を吐かなかったこいつが、容赦なく毒を浴びせている。
もしかして、笑顔だけどむしろ激おこってやつか?
「あ、あのさ、俺は色々な女子にモテるんだけど。もったいなくない、断るの」
「じゃあ、その女子たちと付き合えば良いじゃない。けど、あなたのその上っ面だけで薄っぺらい中身を知られたら、すぐに幻滅されて別れるでしょうね」
「……何だと?」
すると、風間のスマイルが完全に崩れ去り、怒りに満ちた顔になる。
「学園ナンバーワン美女だからって、調子に乗るなよ?」
風間は東条に詰め寄ろうとする。
「おい」
俺は立ち上がって立ちはだかった。
「どけよ、へっぽこ野郎」
「へっぽこでも、一応はこいつの彼氏だから」
「ちっ、目障りだ!」
俺はドン!と胸を押される。
軽くよろめいただけなので、大したことはないのだが……
「おい、お高く留まったお嬢……」
下卑た笑みを浮かべかけた風間の眼前にフォークが向けられた。
太陽の日差しを浴びてギラリと輝く。
「……あなた、誰の許可を得て私の彼氏に触れているの?」
「へっ? はっ?」
風間はすっかりビビったようで、裏返った声を出す。
「あなたみたいなプライドだけの野郎はどうせいざピンチになったら『助けて、ママ~!』って叫ぶんでしょ?」
「そ、そんなことは……」
「ほら、言ってごらんなさいよ。ああ、違うわね。その前に、春日くんに謝罪をしなさい」
「ひっ、ひぃ……」
風間は軽く涙ぐんで後退る。
俺は目をギラつかせている東条の肩に手を置いた。
「落ち着け」
すると、東条が顔を向ける。
「俺は平気だ。それよりも、こんな真似をしてお前が傷付く方が嫌だ」
「春日くん……」
東条はふっと力を抜き、フォークを持つ手を下げた。
「こ、この鬼畜女めええええええええええええええええぇ!」
風間は最後に罵声を吐きながら去って行った。
「さすがサッカー部、脚力あるなぁ~」
「春日くん、どうして止めたの? あなたもあの男に侮辱されたでしょ?」
「俺の傷なんて浅いよ。そんなことより、こんな真似をして、あいつが皆に今のことを言い触らしたら、お前の評判がガタ落ちだぞ?」
「別に構わないわ。そんなものに興味はないし。いい加減、良い子ぶるのも疲れたし」
「良い子ぶっていたんだ」
俺は小さく息を吐いて肩をすくめる。
「まあ、もしお前が全校生徒から嫌われたとしても……俺だけは味方でいてやるよ」
「……本当に?」
「ああ、本当だ」
「……キスして」
「唐突だな」
突っ込む俺の前で、東条は既にキス顔になっていた。
改めて見ると、本当にきれいな顔をしている。
芸術的なバランスだ。
しかも、胸も大きいし。
俺は東条の顎を掴んでキスをした。
さらに、もう片方の手で胸に触れた。
ビクビクッ、と東条の体がいつもより反応する。
東条は少し慌てたように俺を引き剥がす。
「い、今、む、胸を……」
「あ、ごめん。つい」
「ついって……」
「前から、大きいなって思っていたから……ダメだった?」
東条は頬を更に真っ赤にして俺を睨んでいる。
「……良いけど、1日1揉みまでだからね」
「相変わらずケチだな」
「お黙りなさい」
東条はそう言いながら食べ終えた弁当を片す。
「……けど、私の気分次第では、回数が増えるかも」
「え、マジ?」
「た、ただし、それはあくまでも私から求めた場合の話よ? あなたから仕掛けられるのはキスも乳揉みも1回までなんだからね」
「じゃあ、その1回に命をかけて東条を喜ばせたら、もっと求めてもらえる訳だ?」
「そ、そう簡単に喜ぶもんですか」
「けど、お前って思った以上にエッチな女だし」
「だ、誰がエッチな女よ! この変態!」
今日の東条さんはいつも以上に赤面していた。
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