6 不安な彼女の気持ち

 GWが明けると、中間テストが迫って来た。


 周りのクラスメイトはGWを満喫した分、迫り来るそれに怯えているようだった。


 俺は大してGWを満喫しなかった。


 東条とデートするものだと思ったけど、


「家族と旅行だから」


 と言われてあっさり放置された。


『これもしつけよ。GW明けの中間テスト、赤点を取らないように勉強に励みなさい』


 だそうで。


 俺はあのヤンデレで変態な彼女が怖かったので、勉強に励んだ。


 誘って来る友達もいないので、非常に勉強が捗った。


 だから、中間テストに対しても恐れを抱いていない。


 俺が恐れているのは、隣に座る女だけだ。


「春日くん、何だか腑抜けた顔をしているけど、大丈夫かしら?」


「え?」


「中間テストよ。赤点を取ったら刺すわよ」


 東条は鉛筆を片手にニコリと笑って言う。


「大丈夫だよ、お前に言われた通り、ちゃんと勉強したから」


「本当に?」


「ああ、本当だよ」


「そう……また昼休みに、詳しく聞くからね」


 そう言ったきり、東条は本に目を落とした。


 こいつはきっと、GWに遊んでも中間テストなんて余裕なんだろうな。


 全く、羨ましい限りだぜ。




      ◇




 昼休み。


 俺と東条はいつものように校庭の片隅のベンチに座っていた。


「……春日くん、もしかして、怒っている?」


「え、何で?」


「私だけGWに出掛けちゃったことよ」


「ああ、まあ……怒ったというか、少し寂しかったな」


「本当に?」


「うん。てっきり、お前とデート出来るものだと思っていたから」


 俺が言うと、東条は顔を押さえて足をバタバタさせる。


「……仕方がなかったの。私のお家は家族の行事にうるさいから。きちんと参加をしないといけないの」


「そうなんだ、大変だな。じゃあ、俺と付き合うのも反対されるんじゃないか?」


「大丈夫よ。もし反対されたら、いくら親と言えども……」


 東条がゴゴゴ、と不穏な空気を放つので、俺はどうどうと言った。


「それで、俺に勉強しとけって言ったのは、例のごとくお前の結婚相手にふさわしくなるためってか?」


「まあ、それもあるけど……浮気防止よ」


「は? 浮気?」


「だ、だって、GWと言えばみんなが浮かれる時でしょ? 私が目を離した隙に春日くんが他の女と浮気をするかと思って……」


「確かに、鬼のようにLINEも来てたしな」


「……ドン引きした?」


「まあ、ちょっとね」


「ガーン……」


 東条はまた分かりやすくへこんだ。


「……安心しろよ。俺みたいなロクデナシに惚れる女は、お前くらいなもんだよ」


「……春日くん。それじゃ、まるで私がダメンズ好きみたいじゃない」


「現にそうだろ。俺以外にもっと優れたイケメンだったり優等生だったりに告白されているだろうに」


「ふん、あんな男たちは外面だけで内面が薄っぺらいカス共だったわ」


「お前、本当に口が悪いな」


「私が愛するのはこの世でただ一人……春日くん、あなただけよ」


「何でそんなに俺のことが好きなんだろうね?」


「分からないわ。ただ、あなたのことを見ていると胸がキュンキュンするの」


「そのセリフはすごく可愛いけど、箸で目ん玉を突く構えをしながら言うのはやめて」


「だって、こんなみっともない私の姿を見られたくないから、いざとなったら目つぶしをと思って……」


「俺、その内マジでお前に殺されそうだな」


「何よ、別れたいって言うの? こっちは優秀な弁護士だって付けられるのよ?」


「どんだけだよ……べつに、別れようなんて思わないよ」


「本当かしら?」


「ただ、もっとお前の気持ちを俺に教えて欲しいかな。色々と行動するのも立派だけどさ」


 俺が言うと、鋭く尖り気味だった東条の目元が緩む。


「春日くん……」


「俺はお前の彼氏なんだし、ちゃんとお前の気持ちを伝えてくれたなら、その気持ちに応えるように努力するよ。もちろん、100%は無理だけどな」


「……ヤバ、超カッコイイ」


 東条はまた赤面した顔を両手で隠して俯いてしまう。


「そうだ、自分で勉強してちょっと分からない所があったから、後で教えてくれないか? 中間テスト、お前の彼氏として恥ないような点数を取りたいんだ」


「え、ええ、もちろんよ。何なら、私についても隅々まで教えてあげるわ……♡」


「いや、それは少しずつで良いよ。その方が楽しいから」


「ダーリン……♡」


「ダーリンはやめて」


 こうして、俺たちの昼休みは過ぎて行く。







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