4 ちょっとヤンデレっぽいけど……

 昼休みに東条と弁当を食べている時のことだった。


「そういえば私、学級委員長になったのよ」


「へぇ、そうなんだ。けど、東条ならみんなも納得だろ」


「うん。それでね、副委員長にあなたを指名しておいたわ」


「へぇ、俺が副委員長に……って、えええぇ!?」


「ちょっと、食事中は静かにしてくれないかしら?」


 東条は俺をジロッと睨む。


「いやいや、何でそうなるの? 何で勝手に決めるの?」


「だってそうすれば、放課後もずっと一緒でしょ?」


「愛が重い……」


 俺はズーンとうなだれる。


「何、もしかして嫌なの?」


 東条は冷たく刺さるような声で言う。


 俺は顔を見るのが怖かったが、恐る恐るその表情を伺うと……


「ぐすっ」


 半べそをかいていた。


「声と顔のトーンが一致しない!」


「何よ、文句ばっかり言って。私の何が不満だって言うの?」


「つーか、普段からお前の方が俺に文句を言っているだろうが」


「愛するがゆえよ♡」


「愛が重い……」


「ズーン……」


 もう何だかこのやり取りがループしそうで怖かったので、


「ところで、学級委員の仕事って何をするの?」


「まあ簡単に言えば、クラスをまとめる仕事ね」


「なるほど。お前がいれば十分だ。俺は必要ない。だから、放課後は真っ直ぐお家に帰るよ」


「ふぅん? どうしても私から逃げたいのね?」


「いや、別にそこまでは……って、フォークを構えるな!」


「これを刺して動きを止めれば……ふふふ」


 出たよ、ナチュラルボーンヤンデレ。


「はぁ……分かった、分かったよ。慎んで、副委員長の座をお受けいたします」


「え、本当に? もう、春日くんってば優しいんだからぁ!」


 グサッ、グサッ、グサッ。


 どちらにせよ、フォークで刺されまくった。




      ◇




 放課後になると早速、学級委員の仕事があった。


 とは言っても、簡単な書類をまとめるだけの作業だから。


「ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ」


 俺は何気なく言ったつもりだったけど、


「何、そんなに私と一緒にいたくないの?」


「いや、そう言うことを言っているんじゃなくて……」


「じゃあ、どういうつもりで言っているの?」


 チクショウ、相変わらず怖くて面倒な女だな。


 俺は内心で冷や汗をかきながら、この場におけるベストアンサーを模索する。


「……この仕事が終わったら、お前とその……デ、デートしようかなって」


 俺は苦し紛れにそう言った。


 東条はジロリと俺のことを睨んでいる。


 ヤバい、頭の良いこいつには、俺の薄っぺらい言い訳など通用しないのだろうか。


「……もう、バカ。それならそうと先に言ってよ」


 東条は急に猫撫で声になる。


「私とデートしたいから早く学級委員の仕事を終わらせたいだなんて……春日くんって、本当に可愛いのね」


「は、はは。東条ほどじゃないよ」


「もう、照れ屋さんなんだからぁ♡」


 東条は頬を赤らめながら俺の肩を叩く。


 その際、彼女が鉛筆を持ったままだったのでグサリと刺さった。


 このまま行くと、俺の体は穴だらけになること請け合いだ。


 恐るべし、ヤンデレ女子。


「はい、お仕事おーわり♡」


「えっ、はやっ。もう終わったの?」


「うん。さっきまで手を抜いていたから」


「な、何で?」


「だって、1秒でも長くあなたと一緒に居たかったから……ふふふ」


「ふふふ」


 俺も笑うしかない。


「……ねえ、やっぱりちょっと引いちゃうかな?」


「え?」


「私、こんなに男の人を好きになったのって初めてだから……自分でも加減がよく分からなくて……」


 東条は伏し目がちになって言う。


 そうか、俺がメチャクチャされているようで、実は東条も内心ですごく不安だったんだな。


 俺は淡く微笑む。


「大丈夫だよ、東条は世界で一番、可愛いから」


「せ、せかっ……いちば……かわ……」


 東条はまるでコイのように口をパクパクとさせる。


「じゃあ、デートにでも行きますか。とは言え、あまり金が無いから大したデートは出来ないけど」


「問題ないわ。あなたが隣に居てさえくれれば、それだけで最高のデートよ」


「そうか」


「ずっと一緒にいようね」


 東条はニコリと笑って言う。


 うん、やっぱりちょっと怖いね。


 その内、俺は間違えて殺されちゃうかもしれないけど。


 まあ、何だかんだ可愛いし許そう。


「そう言えば、さっき私の鉛筆が刺さったけど大丈夫?」


「いや、気付いていたなら謝れよ」







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