第43話
「不意打ち」
彼女はそう言った。
一瞬にして意識を奪ったのは、
ジャブ、ストレート、フックではなく、
左ハイキックだった。らしい。
「見えなかった」
「見えないから不意打ちなのよ」
当たり前のように彼女は答える。
「そんなの教科書にはなにも」
「載ってるわけないじゃない。練習と実践は違うんだから」
彼女は悪びれた様子もなかった。
弱肉強食。
そんな言葉が僕の中に蘇る。ゲームでもよく使われる。
弱い者を虐げる強者の言葉。
「でも不意打ちは」
「ずるい?。でも3人で挑んでくるヤツらの方がもっとずるいよ」
思考が一瞬止まる。でも、その通りだ。
「3人に勝つんなら、いかに相手の手数を減らすか。手っ取り早いのが数を減らすってこと」
彼女の言葉には説得力がある。
その言葉はスポーツとして格闘技に取り組んできたというよりは、実践を踏まえての言葉が多いからである。
僕の読んだ教科書に不意打ちは載っていなかった。
「とりあえず基本のジャブから」
「え?」
「ジャブから。早く!」
あわてて構える。彼女は正面に立つ。
「的。分かる?」
「え?」
「あご先。急所だから」
急所。聞いたことはあったが狙ったことはない。
「パンチを出せば攻撃。って思ってる人が多いけど、攻撃も当たれば倒れる攻撃と倒れない攻撃があるの」
彼女は僕の目の前に立ち、小さくうなづく。
「やってみて」
彼女から教わった通りの最初の構え。左腕の拳をあごの少し前、そこに揃えて右手の拳。
教科書の通り。彼女のあご先を見据え、
力を抜いて拳を、打ちぬく!
「うん。悪くない」
師匠の言葉に思わず笑顔が出てしまう。
「一応。お手本。力を抜いて、肩を入れて。振りぬく!」
風が来る。
動くことができず彼女のパンチは確実に僕のあごをとらえていた。
「これがジャブ。次、ストレート」
彼女の特訓はたんたんと続いていった。
ゲームに見る主人公の哲学 作家者 @sakkasha
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