正義のヒロイン大ピンチっ!?~BAⅮ☆CARNIVAL~

低迷アクション

第1話


 深夜の原生林に赤い光が灯る。全経2キロのクレーター状に切り開かれた土地には、空にも届かんばかりの炎が上がり、そこに蠢くいくつもの異形の影を浮かび上がらせていく。


いや、映し出されるのは人外ばかりではない。白い肌を赤らめた5人の少女達の姿もある。


飛び跳ねるように動き回る異形達の嬌声に対し、彼女達は言葉を発さない。それもその筈だ。


少女達の細い首、柔い足、小さな手に嵌められているのは鉄の枷であり、自由を奪われている。元は装麗だったであろう衣装の切れ端も、かつての名残のように纏うモノもあるにはあった。


しかし、美しく端正な顔には苦渋に悔恨がハッキリ見え、彼女達の状況…誰が、この騒ぎの主賓で、誰がその犠牲になるのか…嫌でも察する事が出来る。


そして、少女達を取り巻く騒めきは最高潮に達し、異形の中から進み出る一際大きな影が

叫び声を上げた。


「軍団諸君っ!!そして、我等にこれからタップリ蹂躙される正義のヒロインのお嬢さん方!我が悪の組織“ゾット”の最高で最狂の祭典にようこそ!


これまでの戦い、我等は劣勢だった。だが、最後に勝ったのは、我等だ!御覧の通り、我等の敵は為すすべなく、この様だ。よく見ろ!そして、嘲り、嬲り、犯し尽くせ!擦り切れるまで、そして最後は…ゴホッ、グフッ、ゴホフッ…ウッ!?」


意気揚々と口上を並べた悪の組織“ゾット首領”が突然、胸を抑え、その場に崩れ落ちた。一瞬の沈黙から、大混乱!吠え声と地響きに近い右往左往を繰り広げるゾット構成員と怪人達の阿鼻叫喚が起きる混乱の中から、2つの影が素早く首領に駆け寄った。


「ヤバいな?首領、息してないぞ?“ザリガニーソ”」


「だから、あれほどロブスター食うなって言ったのによ。食あたりだろう?年なのに、無理すっからだ。さて、どうする?“ダガーコンドル”救急車呼ぶか?ここ、富士の樹海だけど?」


「馬鹿野郎!研究班を呼べ!救急車より、よっぽど役に立つ!」


担架で運ばれる首領を見送る怪人達と拘束されたまま佇む正義のヒロイン達に気まずい沈黙が訪れる。ハサミで頭を掻いたザリガニーソが非常にめんどくさそうに呟く。


「なんつーか、この後、どうする?首領の話だと、あの子らに色々ヒドイ事して

“今まで散々やられた恨み、その体で払ってもらおうぜー!!”的な、18禁OK!


嬌声、狂声のお祭り騒ぎの予定だったけどさ。考えてみりゃ、俺等の中で“人間型”は首領だけじゃん?下世話で悪いけど、あの子等に入れる事できんの、首領だけじゃん?戦闘員、皆、機械だし…」


「馬鹿野郎!ニーソ!任せろ!俺達は多分、ヤレる!」


ザリガニ怪人の声に何体化の怪人が怯える少女達の前に進み出て、掴み上げたり、触ったりするが、数秒のちにゆっくり、ごわついた手や触手を離し、静かになった。


それを見るザリガニーソはため息で一笑に付す。


「サイズ的に無理だろ?今から、拡張?無理、無理~、時間かかりすぎ!

どのみち、5人しかいないじゃん?どの穴使ったって、1回で裂けちまうよ?お互いの

対象年齢考えろや?5人じゃ、俺達全員には回りっこねぇさ」


「加えて、俺もニーソ、いや、皆もそうだけど、俺達は改造人間じゃなくて、元となった動物を改造したモノだ。正直、人間の女、しかも、こんな子供じゃ、欲情しないだろう?」


ダガーの声に正義のヒロイン達が、多少顔をふくらませ、怪人達は悪あがきのように意見を

述べる。


「じゃ、じゃぁっ?食べるのは?」


「だから、5人じゃ足りねぇよ…」


「そうだよ、今日は“からあげ君ゾット”の試食会も兼ねているんだぞ?なぁっ、ニーソ?」


「おい、あの話マジだったのか?“クラブサンド(カニ怪人)”悪の組織も終わりだな…」


「何を言う!ニーソっ!?現在、人口減な、この国における、コンビニ無人化!ここに我がゾットが静かに浸透し、最後に支配する“コンビニ怪人化”計画は馬鹿に出来ないぞ?

我々は24時間でも1年でもコンビニ勤務が出来るぞぉっ?」


「そんな事より!ニーソ、拷問は、拷問はどうだ?」


クラブサンドとニーソの会話を中断するかのように怪人達が吠えるが、腕が異様に長く、でも、先端がハサミなので、かなり不便な“竹バサミジャガー”が高く掲げた手に挟んだ

スマホ(既にヒビが入り、今にも千切れそうだ)を申し訳なさそうに翳す。


「拷問担当のサドーキャットから、さっき連絡あった。お祭り用に新調したアイアンメイデン(針付きの鉄な棺桶)に自分が間違えて入って、全治2ヵ月だ。俺達がやってもいいけど、力の加減とか出来ないよな?多分、一発で死んじゃうよ、皆、酒もしこたま飲んでるし…」


「じゃぁ、どうすんだ?」


血走った怪人達が怒声に近い声で吠え合い、少女達に再び迫る。ニーソとダガーが答える前に…


「と、とりあえず火炊いてるとはいえ、まだ、3月、寒いクマっ!食うにしろ、ナニするにしろ、いつまでもこの恰好じゃぁクマよ!」


とノンビリ声だが、動きは早い群馬県で死んだ熊ベースの怪人“ホッキョクグンマー”が

正義のヒロイン1人1人に自家製のコートをかけた…



 「しかし、よくよく考えてみれば、変な話だな?ニーソ、そう思わんか?」


やる事の無くなった怪人達が火の周りでうろつく中(正義のヒロイン達にはグンマーとクラブが飲み物とからあげ君ゾットを振舞っている)


ハサミを研ぎ、思案するニーソにダガーが問いかける。


「何がよ?」


「今の時期的に、番組改編の意味合いを考えれば、彼女達は俺達を倒し、新しい奴等に役目をチェンジする時期だ。それが、このエロ同人か、2次元ド〇ームノベルのヒロインピンチ的状況ときた。絶対に可笑しい」


「うん、さっきから、この世界の理を根底から崩しかねない発言の数々ダガー?

じゃぁっ、あれか?俺達は今頃、悪の組織らしく正義にやられりゃ、御満足なのか?」


「違う、そうではないぞ、ニーソ…だが、法則的に可笑しい。我々に支給された技術もそうだ。あれは本来、彼女達に与えられるモノだったのじゃないか?」


「確かに、連中のフォームチェンジの衣装は無かったな…初期と中期の追加武器、合体技くらいのモノだった」


「だろ?俺達がシナリオ通り、誰かの手の上で踊らされるのは重々承知、だが、このシナリオは俺達向きじゃない。だから、不具合、良い幕引きとは言えない」


「ちょっと待て?お前の言い分だと、俺達は滅びの美学ポジか?奴等の柔足フミフミと踏み潰されろと?」


「DUST ОF DUST 灰は灰に還るだ。怪人は灰燼に帰す!相応しい役割を生きてこそ、誇れるモノだ。違うか?」


「違うね、ただ、俺もこんな宴より、好きな方を選ぶとしよう、オイッ、シカレーダー(鹿型怪人)」


「あーいっ」


「能力使えねぇほど酔ってはいねぇな?その角使って、俺達の支給された新技術、アレから出ていた電波、もしくは類似性のある素材等全てを探知し、その場所を特定しろ!」


パラボラアンテナ風の二本角を回すシカレーダーとニーソ達の周りに怪人達が集まり、次々に口や腕を振り上げ、問うのに対し、ハサミを大きく開いたニートと

鋭く尖った嘴を空けるダガーが声を揃えた。


「行くぞ?ゾットの野郎共、最高の血祭の始まりだ!」…



 「ちょっと、狭いって、この配管、怪人向きじゃない!角折れちゃう!」


「それ言ったら、クマの頭に乗ってる柔らかいのは一体何クマ?」


「あっ、ゴメンなさい。それ…多分、私のお尻です」


「あっ、そうなのクマ、大丈夫!オッケークマー」


「すみません、フフフ、でも柔らかくてフサフサです」


「クマー」


「オイッ、よくわからねぇ、イチャつきしてる場合じゃねぇっ!行くぞ!!」


ニーソの咆哮と共に全員がダクトを突き破り、目的地への突入を果たす。飛び出した異形の怪人と、拘束用の見張り残しておくのも、襲撃敗因リスク高しとの意見から一夜限りの共闘を結んだ正義のヒロイン達は灰色の無機質な建物の中を縦横無尽に駆け、応戦する警備の兵士達を蹴散らしていく。


「ハハッ、まさか、この子達と手、いや、ハサミを組む日が来るとはー、今日は最高の祭ー!」


「祭、これって祭りなの?」


「ハッハァ、おたく等正義と違って、怪人は血と爆発の場所こそぉっ、輝ける場所、適材適所でなぁっ!」


「サイテー…でも、からあげ君ゾット、美味しかったよ…?」


「おっ、おおぉっ?」


「オイッ、よくわかんねぇデレに興奮すんな!戦え!」


竹バサミとクラブにツッコむニーソの肩を連続した銃弾が掠める。

見れば、指揮官風の服装を纏った男が白煙立つ突撃銃をこちらに向けていた。


「テメーが俺達を利用した奴か?悪いが、計画は失敗だぜ?見た所、政府、一応の正義サイドのご様子だが、一体、どういうこった?」


「お前達化け物のような矮小頭にはわからんだろう?昨今のサブカル文化の台頭、青少年に配慮した法案の結果がこれだ。今や、店頭に並ぶ商業誌面で繰り広げられる性的描写の数々、朝のヒロイン番組とて、例外ではない。これは警告と利潤の先行投資…いずれ、全てが…」


「(途中で遮る)だから、どいつもコイツもこの世界の存在とか根底をゆるがすんじゃねぇっ!」


「フッ、矮小な怪人はこれだから…」


「だから、サイズが合わねぇんだよ!」


言葉途中の男を今度はハサミで吹っ飛ばす。捨て台詞も決まった。そのまま、爆発と轟音に立つ自身の隣に並ぶ怪人に視線を写す。


「これで満足か?ダガー…」


「?」


「研究班からの報告だ。首領の胸、するどい衝撃波によるモノ…あれ、お前の仕業だろ?」


「…彼女達は戦友だ。決して汚していい存在ではない、見ろ、我々と共闘する姿を、あの柔肌なしで、怪人は存在出来ない、例え、この命狩る者だとしても」


「やっぱり、わかねんぇな。それより、どうする?からあげ君ゾットか?」


「今は良い!まだ、祭は始まったばかり、楽しむとしよう」


言葉を発し、駆け出すダガーと戦う少女達を見つめたニーソは静かに笑い、

その異形と小さな背中達に続いた…(終)


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