神様と踊り
山吹弓美
神様と踊り
私は、家畜を育てて神様にお捧げするという仕事をしている。
四年に一度、神様が世界を見に来られる。その神様のところに、今年もお父さんが私の家畜を連れて行ってくれた。帰ってきたお父さんから、家畜を売った値段を教えてもらう。
神様に売りつける、というのもおかしいのかもしれないけれど……お父さんが言うには、せっかくのお務めなのだから神様がご褒美としてお金をくださるんだよ、ということらしい。まあ、お金が手に入るのは嬉しいことだからいいとしよう。神様、ありがとう。
「今年はいい値段をつけていただいたよ。ほら、ごらん!」
「わ、本当だ」
「さすがは我が娘、いい家畜を育ててくれたよ」
四年前よりも、いくらか高い値段で家畜を買ってもらえたみたい。お父さん、とっても嬉しそうに笑ってる。
そうだよね、前のときから考えに考えて、立派な家畜を育て上げるんだって奮闘してきたんだもん。私なりの、努力の成果よ。
「神様も喜んでくれたかな?」
「もちろんだよ。次も期待している、とうお言葉をもらえたよ」
「ほんと!?」
「ああ」
直接神様に会うことのできるお父さんが、神様の言葉を伝えてくれる。次も期待している、かあ。
お金もありがたいけど、それにも増してありがたいお言葉をいただけるなんてもう、私は天にも昇る心地だ。四年後はもっと、もっといいお言葉をいただけるといいな、と思う。
そう思って空を見上げたら、あ、あった。
「あ、神様の乗り物だ」
「俺たちの生活を、ああやって見守ってくださっているんだよ」
「うん。それは何度も聞いた」
高い高い空にぶら下がっている、神様の乗り物。四年に一度のこの年にだけ神様は、それに乗ってこられる。
私たちを見守るために、私の育てた家畜を収めてくださるために。この年にしか、あの乗り物を拝むことはできない。
そうして今、私たちは神様にお捧げするお祭りを執り行っている。神様に引き取っていただけなかった家畜のうち、一番出来の良い一頭を生贄として炎の中に放り込み、浄化して空におられる神様への供物とする儀式。
私たちにとっても家畜にとっても、最高の見せ場だ。家畜だって、煙となって神様のもとへ行けるのだからきっと本望だろう。
「だから今は、私たちのお祭りを見てくださってるんだよね」
「そういうことだ。しっかり、踊ってみせるんだぞ」
「もちろん!」
煙になった家畜を見送り、神様にお捧げするためにもう一つ大切だと伝わっているのが、皆が火を取り巻いている中で私が踊る、神様へ捧げるための踊りだ。家畜の煙とともに私たちの思いを、空の神様に伝えるために踊るもの、らしい。
指の先まで、足の爪先まで念入りに整えて踊る。このときのために普段は使わない石鹸というもので身体を清め、磨く。何もまとわずに踊るのが、正式な作法なのだ。
「神様、神様。四年後もまた、私の育てた家畜をよろしくおねがいしますね!」
私の踊りを見ながら皆が皆、自分の願いを声に出して祈る。私もまた、大きく叫んだ。
神様、神様。
ああ、私も家畜になれたらなあ。神様のところに、行けるのに。
神様と踊り 山吹弓美 @mayferia
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