祭りと喧嘩は江戸の華

黒幕横丁

祭りと喧嘩は江戸の華

 さてさて、日本には様々なお祭りが存在します。東は青森のねぶた祭り、山形の花笠まつり、西は京都の祇園祭、徳島の阿波踊り。そのどれもが素晴らしいものであり、どれが最高だなんて甲乙付けがたい。少なくとも、私はそう思います。

 とある酒場で、どこの祭りが最高に良いものかというまさにそんな議論をしていた若者たちがおりました。

 飲んでいた者たちは皆それぞれ出てきたお国が違い、それぞれ自分の自慢する祭りをお酒の力を借りながらベラベラと議論しているのでした。

 ある者は、

「やっぱり、ねぶたは良いよなぁ。あのデカイねぶたを乗せた山車は迫力があって」

 と饒舌に語り、

 またある者は、

「いやいや、祇園祭の鉾のほうが味があっていいだろ」

 と自慢げに話し始めます。

「いやいや、花笠の綺麗さもなかなかの見ものだよ」

「見ものといったら、阿波踊りだって忘れちゃ困るよ」

 そんな議論をしながらぐいぐいとお酒を煽るので、彼らの周りには空のビンがごろごろと積み重なっていく。店の店主も

「お客さんたち、そろそろ切り上げたほうがいいんじゃないかい? 飲みすぎだ」

 と止めに入るのですが、まだまだ若者たちの飲みは終わることが無かったのだ。

 あーだ、こーだと言い合いをしている中、一人、大柄の男が、


 どんっ!


 と机を拳で叩いて、口を開く。

「ええぃ! 埒が明かない! こうなったらどっひのおまちゅりがしゅごいか喧嘩できめよーじゃねぇか」

 少しばかり呂律が回っていない男がそう提案すると、呑んでいた仲間たちがそーだそーだと一斉に賛同、みな一斉に立ち上がって準備運動を始めるじゃありませんか。

「さぁ、どっからでもかかってこい!」

 言いだしっぺの男が構えるポーズを取ると、若者たちは次々に突進をしてきます。


 バシン!


「えいや!」


 バシン!


「えいや!」


 とまるで相撲の稽古でもつけているような光景。

「お客さん、店で暴れちゃ困るよ」

 店の主人もとんと困り果てる様子。

「おやっさん! 昔から言うだろ? 祭りと喧嘩は江戸の華って!」

 喧嘩はまさに江戸の華とはいいますが、ココは現代の日本東京。それがまかり通るわけがありません。

 店主は警察を呼んで、どうにも出来ないこの酔っ払いどもを懲らしめてもらうことにしたんだと。

「お前たちこんなところで何で暴れてるんだ!」

 呼ばれた警察官はそういいながら酔っ払いどもを静止させます。

 酔っ払いどもは口々に拳で何処の祭りが最高か決めているんだと言い出します。

 そんな若者を警察官は次々と投げ飛ばし、

「そんなもん、自分が最高と思った祭りが一番、最高に決まっているじゃねぇか! 優劣なんて他人様が決めることじゃねぇ。自分で決めることだよっ」

 その言葉に若者たちは目をまーるくして聴きます。

 そう、なにも争うことなんてなかったんです。自分が一番だと思うお祭りがひとつでもあれば、それが最高のお祭りなんですから。

 その言葉に心洗われた若者たちは目を潤ませました。

「さ、酒を飲むのもそれまでにして、とっととお開きにするんだな」

 警察官の言葉に若者たちは帰り支度を始めます。

「まぁ、俺は博多祇園山笠が最高だと思っているけどな」

 警察官がボソッと呟いた一言に若者たちがピクッ……と反応します。そして、始まるすったもんだの大騒動。


 やはり、何時の世も祭りと喧嘩は江戸の華というのはお変わりないようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祭りと喧嘩は江戸の華 黒幕横丁 @kuromaku125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ