孫と娘の願いで転生したおじいちゃんは新しい人生をのんびり過ごす。

KIC

プロローグ-1

目を開くと真っ白な空間に居た。

プカプカと宙に体が浮いていてなんだかとても心地良い空間だった。


「ここはどこだ?」


周囲を見渡すが何も無く本当にただ真っ白な空間だ。


「一体何故こんなところに…」


俺は目を覚ます前の事を思い出してみた。

病院に居て意識が朦朧としていてすごく苦しかったのを覚えている。

心電図のピーという機械音が耳に残り看護師達が慌てていたのを思い出した。


「そうか…俺は死んだのか…」


俺は癌だった。


健康診断で数値がおかしいと出て再検査したところ胃が侵されていた。

診断では既にステージ4と診断されて

医者に手術するか手術をせずに抗ガン剤で治療するかを問われたが

娘や息子、孫に心配をかけるわけにもいかず抗ガン剤での治療を選んだ。

余命も聞かなかった。

聞けば死ぬのが怖くなると思ったから。


それから一年、病院に通い治療はしていたが、

ご飯もあまり食べれず身体は少しずつ痩せていった。


ガンを告知されるまでは孫達と遊びに行くのが俺の楽しみだったが

ここ半年はなかなか会えていなかった。

徐々に痩せる身体を見せて心配はかける訳にはいかなかったからだ。


それでもたまに孫達の顔を見れた時は本当に嬉しかった。


生きる気力もすごくもらった。


だが身体はどんどん蝕まれていき最後に入院する前の検査では

他の部分にも転移してしまっていた。


二週間前に出かけたあとから足が腫れ、食事も取れず、そのまま入院することになった。

入院中は胃が気持ち悪く、身体もほとんど動かせず辛かった。


今日は昼に妻と娘と孫達が来てくれていたが

身体がしんどくほとんど喋れなかった。


夕方、とてつもなく眠気が来てそのまま眠ったのだが

あとは最初に思い出した通りだ。


「もう皆とは会えないんだな…」


そう口にすると途方もない孤独感が襲ってきた。


目から涙が自然と溢れとめどなく流れた。


見れなかった孫の成長や、妻、息子、娘達の事を思うと涙が止まらなかった。


ひとしきり泣いた後何も考えれず真っ白な空間で漂っていると

ふと何か喋っているような、歌っているような、そんな声が聞こえた。


俺はその声がする方へ浮いた身体で泳ぐように向かって行った。

近づいていくにつれ声がお経だということがわかり、なにか映像が映し出されているのがわかった。


「これは…俺の葬式か」


そこには俺の葬式が映し出されていて妻、息子、娘、娘の旦那や孫達、兄弟や同僚、

たくさんの見知った人達がいた。


遺影には俺の写真が飾られていて、穏やかな顔をした本当にいい写真だった。


しばらく映像を見ていると、孫が俺に手紙を読んでくれていて

その手紙がすごくいい手紙でまた涙が溢れた。


葬式では本当にたくさんの人が来てくれていて

その誰もが俺の顔を見て涙を流したり言葉をくれていたりした。


俺は自分の葬式を見て、本当に人に恵まれたいい人生であった事を実感できた。


葬式も終わるとモニターの映像も真っ暗になった。


「皆に会いたいなぁ…」


その呟きも真っ白な空間に虚しく響いた。



それからしばらく辺りを移動していたが真っ白なだけで本当に何もなかった。


「死後の世界…ということでいいのだろうか?」


あまり想像はしたことはないが、死んでここにいるのだからそういうことでいいのだろう。


「俺はどうなるんだ?」


どうすればいいのかもわからず俺はしばらくこの真っ白な空間を探索する事にした。


それから何時間か移動や休憩を重ねて分かった事がいくつかあった。


最初目を覚ました時は宙に浮いていた身体だが、今は真っ白な空間に足をつけている。

一定方向に進んでいたら壁みたいな硬い部分に当たったのでそこに足をつけると、身体が浮かなくなった。


次にお腹が全く減らないし疲れない。

死ぬ前は癌の影響でほとんど食事を取れなかったが、それでも少し空腹感みたいなものはあったように思うが

ここに来てからは全くお腹も減らないし喉も渇かない。

身体にあった倦怠感もここに来てからは全く感じていないが、精神が疲労してなんどか休憩した。


最後にこれは今さっき気づいた事だが、呼ばれているような感じがする。

具体的には説明しづらいのだが、身体がこっちだと教えてくれているようなそういった感じ。


「この先には一体何があるんだろうな…」


そう口にして俺は身体が引っ張られる方向に向けて歩いて行った。
















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